第70話 反逆者たちの裁判
北方魔族領。
魔王城・大法廷。
傍聴席には貴族や文官、反乱で被害を受けた住民たちが集まっていた。
中央には拘束された反乱の首謀者――ヴァルガス。
そして最上段。
魔王アレンが座っている。
「……始めよう」
アレンの一言で、法廷が静まり返った。
◇◇◇
宰相役の文官が罪状を読み上げる。
「ヴァルガス男爵」
「和平政策への反発を理由として兵を集め、武装蜂起」
「領内三ヶ所を襲撃」
「結果――死者十二名、負傷者四十七名」
「うち民間人の死者三名」
アレンの表情が僅かに曇った。
「間違いない?」
「……ない」
ヴァルガスは静かに答えた。
「俺が命じた」
「じゃあ。」
アレンが尋ねる。
「どうして民間人まで巻き込んだの?」
「最初から殺すつもりはなかった」
「でも死んだ」
「……ああ」
「だったら。」
「責任は取らないと」
◇◇◇
ヴァルガスがアレンを睨む。
「魔王よ」
「何?」
「俺を殺せ」
法廷がざわめく。
「反逆者の末路など。」
「昔から決まっている」
「首を落とし。」
「城門へ晒せばいい」
「嫌だよ」
「……何?」
「僕。」
「そういうの好きじゃない」
「これは好みの話ではない!」
「分かってる」
アレンは机上の書類を見る。
「でも。」
「君を殺したら。」
「和平反対派から英雄扱いされるかもしれない」
「……!」
「『人間に媚びた魔王に殺された英雄』って」
グレイヴが傍聴席から口を開いた。
「あり得るな」
「俺が聖剣同盟にいた頃なら。」
「間違いなく利用した」
ヴァルガスがグレイヴを睨む。
「人間が口を挟むな!」
「その人間と同じことをしているのが、お前だ」
「何だと!」
「二人とも静かに!」
アレンの声が響いた。
「裁判中!」
「……」
「……」
ノエルが小さく微笑んだ。
◇◇◇
反乱に加わった者たちについても調査結果が報告された。
自ら殺人を行った者。
命令されて戦った兵士。
物資を運んだだけの者。
反乱と知らず協力した者。
事情はそれぞれ違う。
「全員同じ罰にはしない」
アレンが告げる。
「直接人を殺した者は。」
「それぞれの罪に応じて裁く」
「命令されただけの兵士については。」
「個別に調べる」
「そして。」
「反乱だと知らなかった人は釈放する」
貴族の一人が立ち上がった。
「魔王陛下!」
「処分が甘すぎます!」
「反逆した者たちですぞ!」
「じゃあ。」
アレンが尋ねる。
「知らないうちに荷物を運んだだけの人も殺すの?」
「それは……」
「僕は嫌だ」
「……」
「罰は。」
「怒りでするものじゃないと思う」
法廷が静かになった。
◇◇◇
そして。
ヴァルガスへの判決。
「ヴァルガス男爵」
「……」
「爵位と領地を没収」
「男爵家は取り潰し」
ヴァルガスは目を閉じた。
「そして。」
アレンは一度、言葉を止める。
「終身刑」
「……死罪ではないのか?」
「うん」
「なぜだ」
「死ぬより。」
「生きて、自分がやったことを考えて」
「……」
「十二人が死んだこと。」
「忘れないで」
ヴァルガスはしばらく黙り。
やがて。
「……承知した」
深く頭を下げた。
◇◇◇
裁判終了後。
魔王城の廊下。
「終身刑か」
グレイヴがアレンの隣を歩く。
「甘いと思う?」
「少しな」
「そっか」
「だが。」
グレイヴは続ける。
「死罪にして。」
「新しい反乱の象徴を作るよりは賢い」
「……褒めてる?」
「半分だけな」
「半分かぁ」
「俺はお前を褒めるために魔王城へ来たわけではない」
「そうだった」
アレンは笑った。
◇◇◇
これで。
聖剣同盟。
北方魔族領の反乱。
二つの大きな問題に、一応の決着がついた。
しかし――。
アレンに休息はなかった。
執務室。
ドサッ。
「……」
ノエルが書類を置く。
「こちらを本日中に」
「まだあるの?」
「ございます」
「昨日もいっぱいやったよ?」
「昨日は昨日でございます」
「……」
アレンは机へ突っ伏した。
「魔王って。」
「こんなに忙しかったっけ……」
「八年間なさっておりますが?」
「そうだった……」
裁判。
領地の復旧。
和平。
貴族との会議。
交易。
軍の再編。
仕事は次から次へと増えていく。
それでも。
アレンはまだ十五歳だった。
そして、この激務が終わった時。
彼はノエルへ。
魔王らしくも。
勇者らしくもない。
たった一つの願いを口にすることになる。




