↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
67/100

第67話 魔王は勇者になれるのか

 夜明け前。


 廃教会跡には、まだ薄い煙が漂っていた。


 崩れた壁。


 焼け焦げた床。


 砕けた石材。


 そして、その中央。


 魔王アレンは、瓦礫の上で眠っていた。


「……」


 白髪には煤が付き。


 漆黒の翼も所々傷ついている。


 だが。


 呼吸はある。


「……生きてる」


 グレイヴが小さく呟く。


 アレンを抱きかかえたまま。


 聖剣同盟の者たちも、周囲に座り込んでいた。


 誰も死んでいない。


 爆発の中心にいたにもかかわらず。


 全員。


 魔王に守られた。


「盟主……」


 一人が震える声で言う。


「我々は……」


「こいつを殺そうとしていたんですよね」


「……ああ」


「なのに。」


 男はアレンを見る。


「どうして……」


「分からん」


 グレイヴは俯いた。


「俺にも。」


「分からん……」


 ◇◇◇


 その時。


「アレン様ぁぁぁ!!」


 遠くから声が響いた。


「……?」


 グレイヴが顔を上げる。


 次の瞬間。


 馬の蹄の音。


 王国騎士たち。


 そして。


 一台の馬車が廃教会跡へ到着した。


 扉が開く。


 真っ先に飛び出してきたのは王女だった。


「アレン様!」


「王女殿下!?」


 グレイヴが驚く。


 王女は構わずアレンへ駆け寄る。


「アレン様!」


「聞こえますか!?」


「……」


 返事がない。


 王女の顔から血の気が引く。


「ノエル様は!?」


「地下へ向かった」


 グレイヴが答える。


「爆発の直前に。」


「地下……?」


 その瞬間。


 崩れた教会の影から。


 黒紫色の瘴気が立ち昇る。


「魔王様!」


 ノエルが姿を現した。


 その後ろには。


 地下へ閉じ込められていた二十人ほどの人間たち。


「全員救出いたしました!」


「ノエル……」


 王女は安堵する。


「アレン様を!」


「はい!」


 ノエルはグレイヴからアレンを受け取る。


「魔王様……」


 額へ手を当てる。


「魔力枯渇。」


「それに。」


 翼を見る。


「障壁を維持するために。」


「身体へかなり負担が……」


 王女が尋ねる。


「助かりますか?」


「もちろんです」


 ノエルは強く頷いた。


「魔王様は。」


「この程度では死にません」


「……よかった」


 王女の目から。


 一筋の涙が落ちた。


 ◇◇◇


「……王女殿下」


 グレイヴが呟く。


 王女が振り返る。


「何でしょう」


「あなたは。」


「知っていたのですか?」


「……」


「勇者ビーストが。」


「魔王アレンだと」


「はい」


 即答だった。


 聖剣同盟の者たちがざわめく。


「では!」


「王国も……?」


「国王陛下も知っています」


「……」


 グレイヴの表情が変わる。


「それでも。」


「魔王との和平を?」


「はい」


「なぜ……」


 王女は眠るアレンを見る。


「今。」


「目の前で見たでしょう?」


「……」


「この方は。」


「自分を殺そうとしたあなたたちを。」


「命を懸けて守りました」


「……」


「それが。」


「答えではありませんか?」


 グレイヴは何も言えなかった。


 ◇◇◇


 数時間後。


 王城。


 アレンは大きなベッドへ寝かされていた。


 魔王姿のまま。


 ノエルが治療を続けている。


 王女はベッドの横。


 国王。


 宰相。


 アルベルト。


 騎士団長もいる。


「まったく……」


 国王が額を押さえる。


「余は。」


「一人で行くなと言ったはずなのだが」


「……」


 眠っているので返事はない。


「起きたら。」


「説教だ」


「お父様」


「当然だ!」


「また勝手に敵の本拠地へ!」


「しかも!」


「自分を殺そうとしている者たちを守って倒れた!」


 アルベルトが苦笑する。


「まるで。」


「あいつだな」


「誰が?」


「ビーストだ」


 国王が見る。


「昔から。」


「自分のことより。」


「他人を先に助ける馬鹿だった」


「……」


 アルベルトはアレンを見る。


「似てきたのかもしれんな」


「……勇者に?」


「ああ」


 ◇◇◇


 その日の夕方。


「……ん」


 アレンの指が動いた。


「アレン様!」


 王女が立ち上がる。


 アレンがゆっくり目を開く。


「……ここ。」


「王城です」


「……」


 アレンは天井を見る。


「また倒れた?」


「はい」


「……そっか」


「何が『そっか』ですか!」


「うわっ」


 王女の声に。


 アレンの翼が跳ねた。


「怒ってる?」


「怒っています!」


「……ごめん」


「一人で行かないと約束しましたよね?」


「一人じゃないよ」


「ノエルが――」


「影の中でしょう!」


「……はい」


「それは一人です!」


「……はい」


 アレンは布団へ少し潜った。


「ごめんなさい……」


 ◇◇◇


「それで。」


 アレンが尋ねる。


「みんな。」


「生きてる?」


 王女は一瞬黙った。


 そして。


「はい」


「聖剣同盟の方々も。」


「地下にいた人たちも。」


「全員」


「……そっか」


 アレンは安心したように笑う。


「よかった」


「……」


 王女はその顔を見る。


「アレン様」


「何?」


「どうして。」


「そこまでして助けたのです?」


「……」


「あなたを殺そうとしていた人たちですよ?」


「うん」


「爆発から。」


「逃げることもできたのでは?」


「できたよ」


「ではなぜ」


 アレンは少し考える。


「……兄さんなら。」


「助けたと思ったから」


「……」


「それに。」


 アレンは自分の手を見る。


「僕。」


「勇者になったんでしょ?」


「……はい」


「だったら。」


「敵だから助けないって。」


「なんか違う気がして」


 ◇◇◇


 その日の夜。


 別室。


 グレイヴは国王の前に立っていた。


 拘束はされていない。


 だが。


 騎士たちが周囲を囲んでいる。


「聖剣同盟盟主グレイヴ」


「……はい」


「余は。」


「そなたを許すつもりはない」


「当然です」


「魔王暗殺未遂。」


「王城への潜入。」


「王国騎士への内通。」


「そして。」


「多数の者を危険に晒した」


「……」


「罪は重い」


「承知しています」


 国王はグレイヴを見る。


「だが。」


「一つだけ聞く」


「何でしょう」


「まだ。」


「魔王アレンを殺したいか?」


「……」


 グレイヴは答えられなかった。


 ◇◇◇


 脳裏に浮かぶ。


『僕が勇者だから!』


 自分たちを守り。


 魔力を使い果たし。


 倒れた少年。


「……分かりません」


「何?」


「私は。」


「魔族を憎んでいます」


「今でも」


「家族を殺された者たちの怒りも。」


「消えることはない」


「だが。」


 拳を握る。


「魔王アレンを。」


「ただの怪物だとは。」


「もう思えません」


「……」


「私は。」


「分からなくなりました」


 国王は静かに答える。


「それでよい」


「……?」


「疑え」


「考えろ」


「憎しみだけで。」


「答えを決めるな」


「……」


 ◇◇◇


 翌朝。


 アレンの部屋。


「魔王様」


「……ん」


「朝でございます」


「……あと五分」


「駄目です」


「病人だよ?」


「もう熱もございません」


「……」


「起きてください」


「嫌だ」


 ノエルが布団をめくる。


「やだ!」


「魔王様!」


「今日は休む!」


「国王陛下がお待ちです!」


「説教でしょ!?」


「おそらく」


「じゃあなおさら行かない!」


 王女が扉の近くで笑っていた。


「ふふっ」


「王女!」


「お元気そうで安心しました」


「助けて!」


「駄目です」


「なんで!?」


 ◇◇◇


 結局。


 アレンはノエルに着替えさせられ。


 王女に連れられ。


 国王の執務室へ向かった。


「アレン」


「……はい」


「座れ」


「はい……」


「まず。」


「一人で敵地へ行った件だが」


「一人じゃ――」


「ノエルが影にいた、は禁止だ」


「……」


「王様。」


「何だ?」


「みんな同じこと言う」


「当然だ!」


「はい!」


 ◇◇◇


 説教は一時間続いた。


 そして。


 最後。


 国王が尋ねた。


「アレン」


「はい」


「そなた。」


「本当に勇者になるつもりなのだな?」


 アレンは少し驚いた。


「……うん」


「魔王なのに?」


「うん」


「人間に恨まれても?」


「……うん」


「魔族から。」


「人間に媚びたと言われても?」


「それはもう言われてる」


「……そうか」


 国王は少し笑った。


「なら。」


「好きにしろ」


「……え?」


「ただし。」


「死ぬな」


「……」


「そなたが死ねば。」


「人間と魔族。」


「双方が再び戦争を始める可能性すらある」


「今のそなたは。」


「もう一人の少年ではない」


「魔王で。」


「勇者で。」


「そして。」


 国王が少し嫌そうに付け加える。


「余の娘の婚約者だ」


「最後だけ言い方違わない?」


「気のせいだ」


「絶対違うよ」


 ◇◇◇


 アレンは窓の外を見る。


 王都。


 その先。


 遥か北には魔王領がある。


 人間。


 魔族。


 二つの世界。


「……兄さん」


 小さく呟く。


「僕。」


「勇者になれてるかな」


 答えは返ってこない。


 だが。


 アレンは少しだけ笑った。


 勇者は死んだ。


 魔王が殺した。


 その魔王は。


 勇者の遺言を継ぎ。


 少しずつ。


 少しずつ――。


 本当の勇者へ近づいていた。


 そして。


 王城の地下牢では。


 聖剣同盟の者たちが。


 今後の処遇を待っている。


 彼らを裁くのか。


 許すのか。


 それとも――。


 別の道を選ぶのか。


 アレンは。


 次の決断を迫られることになる。

いいねとフォローよろしくお願い致します

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。