第5話 生き残るために
あの日から、どれだけの時間が経ったのだろう。
アレンには、もう分からなかった。
朝も夜も関係ない。
目を覚ませば実験。
終われば牢屋。
食事は腐りかけた黒パンと濁った水。
それでも食べなければ、生きてはいけない。
周りにいた子供たちは、一人、また一人と姿を消していった。
昨日まで話していた子。
一緒に泣いていた子。
翌日には、もういない。
アレンは、ある日気づく。
「……名前を聞いても、いなくなる。」
だから、誰にも名前を聞かなくなった。
友達を作れば、別れがつらい。
それなら最初から作らない方がいい。
幼いながらに、そう考えるようになっていた。
白衣の男たちは笑いながら話している。
「今回の実験体も失敗か。」
「まあいい。また集めれば済む話だ。」
人間ではない。
道具としてしか見ていない。
アレンはその言葉を聞きながら、小さく拳を握った。
(……絶対に、生きる。)
(こんなところで死にたくない。)
その日から、アレンは変わった。
腐ったパンでも全部食べる。
苦くても薬を飲み込む。
痛くても泣かない。
少しでも体力をつけるためだった。
実験の帰り道。
床に転がっていた小さな木片を見つける。
誰にも見つからないよう拾い、牢屋へ持ち帰った。
夜になると、その木片を剣に見立て、一人で振る。
一回。
二回。
三回。
何百回も。
腕が震えても止めない。
(強くならなきゃ。)
(生き残れない。)
隣の牢屋の子供が、不思議そうに見ていた。
「そんなことして、意味あるの?」
アレンは木片を握り締めたまま答える。
「分からない。」
「でも、何もしなかったら死ぬ。」
その言葉を聞いた子供も、小さな木片を拾った。
翌日には、その子の姿は消えていた。
アレンは何も言わなかった。
もう慣れてしまったから。
それでも、心のどこかで思う。
(俺は、生きる。)
(何があっても、生き残る。)
その決意だけが、幼いアレンの心を支えていた。




