第4話 人体実験
冷たい石の床を歩かされる。
小さな足では追いつけず、何度も転びそうになった。
「歩け。」
黒いローブの男は容赦なくアレンの腕を引っ張る。
泣いても、叫んでも誰も助けてくれない。
廊下の先には、大きな鉄の扉があった。
ギィィ……
扉が開く。
部屋の中には奇妙な装置が並んでいた。
鉄の台。
鎖。
色とりどりの薬品。
そして白衣を着た男たち。
「今日の実験体か。」
「まだ小さいな。」
「成功率は低そうだ。」
まるで人ではなく、物を見るような目だった。
アレンは震えながら首を振る。
「お、おうちに帰りたい……。」
しかし、その願いが届くことはない。
「固定しろ。」
二人の男がアレンを持ち上げ、鉄の台へ寝かせる。
手首と足首を革のベルトで固定された。
動けない。
「やだ……。」
「やだぁ……。」
涙が止まらない。
白衣の男は、透明な液体が入った注射器を持ち上げた。
「魔力活性薬、投与。」
ブスッ。
針が腕へ刺さる。
「うぁぁぁっ!」
身体の中を焼かれるような痛みが走る。
息ができない。
全身が熱い。
苦しい。
目の前が真っ白になる。
「魔力量、急上昇。」
「まだ耐えているぞ。」
「記録を続けろ。」
男たちは興奮した様子で紙に何かを書き込んでいる。
誰一人として、泣き叫ぶ子供を心配しない。
やがて薬の効果が切れると、アレンはぐったりと力尽きた。
「今日はここまでだ。」
拘束が外され、床へ投げ捨てられる。
立ち上がる力も残っていない。
四つん這いになりながら部屋へ戻る。
その途中だった。
隣の実験室から、一人の子供の悲鳴が聞こえた。
「いやぁぁぁぁぁぁっ!」
そして――
悲鳴は突然、止んだ。
静寂だけが廊下を包む。
アレンは恐る恐る扉の小窓を覗く。
そこには白い布をかけられ、運ばれていく小さな身体があった。
自分と同じくらいの年齢の子供だった。
アレンは唇を震わせる。
「……しんじゃったの?」
誰も答えない。
その日、アレンは初めて知った。
この場所では、人は簡単に死ぬのだと。
そして、自分もいつ死ぬか分からないのだと。
冷たい石の床に小さく丸まりながら、アレンは涙を流し続けた。
母の顔を思い出そうとしても、もう記憶はぼんやりとしていた。
それでも、最後に小さく呟く。
「……おかあさん。」
その声が届くことは、もう二度となかった。
――続く




