↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
49/100

第49話 王女、魔王城へ

 翌朝。


 王城の謁見の間には、重苦しい空気が流れていた。


「……もう一度言ってみよ。」


 国王が低い声で尋ねる。


 その前には勇者ビースト――その姿をしたアレン。


 そして王女が並んでいた。


「私も、勇者ビースト様と共に北方魔族領へ向かいます」


「ならん!」


 即答だった。


「何を考えておる!」


「魔王亡き後、反乱が起きている土地なのだぞ!」


「だからこそです、お父様」


 王女は一歩も引かなかった。


「魔族領で何が起きているのか、人間側も知る必要があります」


「それを調べるのが勇者の役目だ!」


「私は王族です」


 王女は父親を真っ直ぐ見つめる。


「いつか、この国の外交に関わる立場となります」


「知らないから恐れる」


「恐れるから争う」


「それでは、いつまでも同じことの繰り返しです」


「……」


 国王は黙り込んだ。


 アレンは隣で感心していた。


(昨日より説得力増してない?)


 もちろん。


 王女が「魔王本人に連れていってもらいます」とは言えるはずもない。


 国王はしばらく考えた末、アレンを見る。


「ビースト」


「はい」


「娘を守れるか?」


「必ず」


 アレンは迷わず答えた。


「僕の命に代えても」


 王女がちらりとアレンを見る。


 国王は深く息を吐いた。


「……分かった」


「ありがとうございます!」


「ただし!」


 国王の声が響く。


「危険と判断した場合、即座に帰還せよ」


「はい」


 こうして――。


 人間の王女が初めて、北方魔族領へ向かうこととなった。


 ◇◇◇


 数時間後。


 北方国境。


 王国の護衛たちは、ここで待機することになった。


 アレンと王女は二人で森の奥へ進む。


「寒っ……!」


 王女が身体を震わせた。


「だから言ったでしょ」


「まだ国境ですよね?」


「うん」


「魔王城はもっと寒いよ」


「……帰ってもよろしいでしょうか」


「早いよ」


 アレンは苦笑する。


 そして周囲に人間がいないことを確認した。


「ここからは、この姿じゃない方がいいな」


 胸元の《幻影の首飾り》へ手を掛ける。


 シュゥゥゥ――。


 光が身体を包む。


 勇者ビーストの姿が崩れ――。


 白髪。


 漆黒の翼。


 鋭い爪を持つ鳥のような足。


 魔王アレンの姿へ戻った。


「……よし」


 王女は、もう驚かない。


「やはり、そちらのお姿の方が自然ですね」


「僕も楽」


 アレンが翼を広げる。


 そして自分の影へ視線を落とした。


「ノエル」


 ブワッ――!


 黒紫色の瘴気が噴き出す。


「お呼びでしょうか、魔王様」


 ノエルが現れた。


 王女は小さく頭を下げる。


「ノエル様」


「王女殿下」


 ノエルも丁寧に一礼した。


「魔王城までご案内いたします」


 ◇◇◇


 魔族領を進むにつれ。


 王女は何度も辺りを見回していた。


 人間の王国とは何もかも違う。


 黒い木々。


 冷たい風。


 遠くを飛ぶ魔物。


 空には薄暗い雲が広がっている。


 だが――。


「……?」


 王女はあることに気付いた。


 小さな集落。


 そこでは魔族たちが普通に暮らしている。


 店がある。


 畑がある。


 子供たちが走っている。


 洗濯物を干している者までいる。


「……人間の村と。」


「そんなに変わらないでしょ?」


 アレンが言った。


「はい……」


 王女は呆然とする。


 人間の国では。


 魔族は恐ろしい存在だと教えられてきた。


 人を襲い。


 人間を憎み。


 魔王の命令一つで戦争を始める。


 そんな存在だと。


 しかし。


「待てー!」


「返せー!」


 魔族の子供たちが笑いながら走り回っている。


 その光景は。


 王都の子供たちと何も変わらなかった。


「アレン様」


「ん?」


「あなたが以前仰っていたこと」


『人間と同じです』


『家族がいて、家があって、腹が減れば食べる』


「ようやく分かった気がします」


 アレンは少しだけ笑った。


「でしょ?」


 ◇◇◇


 さらに進む。


 やがて――。


 巨大な黒い城が見えてきた。


 北方魔族領の中心。


 魔王城。


「……大きい」


 王女が見上げる。


「王城より大きくありませんか?」


「たぶん」


「たぶん?」


「大きさ測ったことないから」


「……」


 巨大な正門へ近づく。


 門番の魔族たちがアレンに気付いた。


「……え?」


 一人の兵士が目を見開く。


「ま……」


 槍を落とした。


 ガラン!


「魔王様!?」


 次の瞬間。


「魔王様だ!!」


 城門の上から叫び声が響いた。


「魔王様がお戻りになられたぞ!!」


「魔王様だ!」


「生きておられた!!」


 瞬く間に騒ぎが広がる。


 城門が開く。


 兵士。


 使用人。


 魔族の民。


 次々と人々が飛び出してきた。


「魔王様!」


「ご無事だったのですね!」


「勇者に討たれたと聞いて……!」


「よかった……!」


 泣いている者までいる。


「……」


 王女は、その光景を呆然と見つめていた。


 アレンは少し困った顔をする。


「みんな。」


「心配かけてごめん」


 その瞬間。


 魔族たちが一斉に跪いた。


「お帰りなさいませ――魔王様!!」


 声が響き渡った。


 王女は言葉を失った。


(これが……。)


(魔王?)


 人々から恐れられる支配者ではない。


 帰還を泣いて喜ばれる王。


 そして――。


「魔王様!!」


 城の奥から大声が響いた。


 ガルドだった。


「おおおおお!!」


「ちょっ――」


 ガシッ!


 アレンが思い切り抱き締められる。


「ご無事でぇぇぇ!!」


「ガルド!」


「苦しい!」


「申し訳ございません!」


 そう言いながら離さない。


「離して!」


「魔王様ぁぁぁ!」


「ノエル、助けて!」


「ふふっ」


「笑ってないで!」


 王女は思わず吹き出した。


「ふふっ……」


「王女まで笑わないでよ!」


 だが。


 次の瞬間。


 ガルドが王女の存在に気付いた。


「……」


 笑顔が消える。


「魔王様」


「ん?」


「そちらの人間は?」


「ああ」


 アレンは王女を見る。


 そして。


「僕の婚約者」


「…………」


 ガルドが固まった。


 周囲の魔族も固まった。


 レイグまで城の入口で止まった。


「…………は?」


 アレンは首を傾げる。


「だから。」


「人間の王国の王女で。」


「僕の婚約者」


 沈黙。


 数秒後――。


「「「ええええええええええええ!?」」」


 魔王城が揺れるほどの叫び声が響いた。


 王女は頬を赤くする。


 ノエルは楽しそうに笑っている。


 アレンだけが耳を塞いでいた。


「うるさい……」


 こうして。


 魔王アレンは久しぶりに、自分の城へ帰還した。


 しかも――。


 人間の王女であり、自分の婚約者を連れて。


 だが。


 再会を喜んでいる時間は長くない。


 魔王城の外では今もなお。


 アレンの「死」を利用した反乱が広がり続けていた。


 そして城内には――。


 アレンの帰還を快く思わない者たちも、確かに存在していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。