第33話 首飾りの魔導具
翌朝。
魔王城には重苦しい空気が流れていた。
勇者ビーストを失った悲しみは、人間だけでなく魔族たちの間にも広がっていた。
アレンは玉座には座らず、静かに地下の霊安室を訪れる。
棺の中では、ビーストが眠るような穏やかな表情を浮かべていた。
「……兄さん。」
「約束、守るから。」
そう呟くと、静かに霊安室を後にした。
◇◇◇
古龍の間。
巨大な古龍はアレンを待っていた。
「来たか。」
「うん。」
アレンは真っ直ぐ古龍を見つめる。
「勇者になる。」
「そのために、力を貸してほしい。」
古龍は静かに目を閉じた。
「覚悟はできておるようだな。」
すると、ノエルが黒い箱を抱えて部屋へ入ってくる。
「古龍様。」
「お持ちしました。」
箱の蓋が開く。
中には、一つの銀色の首飾りが入っていた。
中央には蒼い宝石が埋め込まれている。
アレンは首を傾げた。
「これが?」
古龍は頷く。
「ああ。」
「高位魔導具――《幻影の首飾り》。」
「装着すれば、望む姿へ変化できる。」
「ただし。」
「姿だけだ。」
「魔力までは隠しきれぬ。」
アレンは首飾りを手に取る。
ひんやりと冷たい。
「……これで。」
「兄さんになれるんだ。」
古龍は静かに答えた。
「勇者ビーストの姿にはなれる。」
「だが、お前自身を忘れるな。」
「お前は勇者ではない。」
「魔王アレンだ。」
アレンはゆっくり頷いた。
「分かってる。」
「僕は僕。」
「でも。」
「兄さんの約束だけは守りたい。」
首飾りを首へ掛ける。
その瞬間。
蒼い宝石が眩しく輝いた。
シュゥゥゥ……
白い光がアレンを包む。
小さな身体が少しずつ伸びる。
白髪は勇者ビーストと同じ髪色へ。
顔立ちも変わる。
漆黒の翼も、鳥のような足も見えなくなった。
光が消える。
そこに立っていたのは――
勇者ビースト本人だった。
ノエルは驚きを隠せない。
「まるで……本人です。」
ガルドもレイグも息を呑む。
「見分けがつかない……。」
アレンは自分の手を見る。
「これが……兄さん。」
しかし。
古龍だけは静かに首を横へ振った。
「姿は同じでも。」
「魂は違う。」
「それを忘れるな。」
アレンは静かに頷く。
「うん。」
「兄さんにはなれない。」
「でも。」
「兄さんのような勇者には、なってみせる。」
その言葉を聞いた古龍は、小さく微笑んだ。
「それでよい。」
こうして魔王アレンは、人間の世界へ戻る準備を整えた。
勇者として。
そして、誰にも知られてはならない秘密を胸に抱えながら。




