第32話 勇者を弔う
夕日が荒野を赤く染めていた。
勇者ビーストは静かに息を引き取り、アレンの腕の中で眠るように目を閉じている。
戦士、魔法使い、僧侶の三人は、その場に膝をついたまま動けなかった。
誰もが、勇者の死を受け入れられずにいた。
アレンは静かにビーストの亡骸を抱き上げる。
「……まずは。」
「兄さんを、魔王城へ連れて帰る。」
戦士が顔を上げた。
「魔王城へ?」
アレンは頷く。
「ちゃんと棺へ納めて。」
「丁重に弔いたい。」
魔法使いは困惑する。
「でも……魔王城ですよ?」
「勇者様を?」
アレンは真っ直ぐ三人を見つめた。
「敵だったからこそ。」
「最後くらい、敬意を払いたい。」
僧侶は涙を拭い、小さく頷く。
「……勇者様なら。」
「きっと、それを望まれます。」
戦士も拳を握り締めた。
「分かった。」
「勇者様を頼む。」
アレンは静かに頭を下げた。
「必ず。」
◇◇◇
その頃、魔王城。
城門ではノエル、ガルド、レイグが帰還を待っていた。
やがて、小さな人影が見える。
「魔王様だ。」
ガルドが呟く。
しかし、近づくにつれ、その表情は曇った。
アレンは勇者ビーストを静かに抱えていた。
その姿だけで、何が起きたのか理解できた。
ノエルはゆっくり頭を下げる。
「……お帰りなさいませ。」
アレンは小さく頷いた。
「ノエル。」
「はい。」
「棺を一つ。」
「一番立派なものを用意して。」
ノエルは迷わず答える。
「承知いたしました。」
ガルドも兵士たちへ命じる。
「急げ!」
「魔王様のご命令だ!」
兵士たちはすぐに動き始めた。
◇◇◇
その夜。
勇者ビーストは白い布で丁寧に包まれ、美しい木製の棺へ納められた。
花が添えられ、地下の霊安室へ静かに安置される。
アレンは棺の前へ立ち、深く頭を下げた。
「……兄さん。」
「少しだけ。」
「ここで眠っていて。」
「全部終わったら。」
「必ず王国へ帰す。」
静かな約束だった。
その後ろでは、戦士、魔法使い、僧侶の三人も棺へ向かって祈りを捧げていた。
アレンは三人へ向き直る。
「……今日は休んで。」
「客室を用意した。」
「敵だった君たちを縛るつもりはない。」
「帰りたくなったら、帰ってもいい。」
三人は驚いた表情を浮かべる。
戦士が静かに口を開く。
「……ありがとう。」
魔法使いも小さく頭を下げる。
「あなた、本当に魔王なの?」
アレンは苦笑した。
「一応ね。」
「でも……。」
「戦争は好きじゃない。」
その言葉に、三人は何も返せなかった。
勇者ビーストが命を懸けて遺言を託した理由が、少しだけ分かった気がした。
そしてアレンは、勇者ビーストの棺をもう一度見つめる。
「……兄さん。」
「約束は守る。」
「僕が、勇者になる。」
その決意は、誰にも揺るがすことはできなかった。




