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第31話 勇者の遺言

 勇者ビーストが息を引き取ってから、しばらくの間。


 アレンは、その亡骸を静かに抱きかかえていた。


 乾いた風だけが、二人の間を吹き抜ける。


「……兄さん。」


 その言葉は、自然と口からこぼれた。


 一歳で家族と引き離されたアレンにとって、「従兄弟」という存在は、あまりにも遠いものだった。


 それでも。


 最後に向けられた笑顔だけは、温かかった。


 その時。


 戦士が身体を起こした。


「勇者様……!」


 魔法使いも、僧侶も駆け寄る。


 だが、ビーストはもう動かない。


 僧侶は震える手で回復魔法を唱える。


「お願いします……!」


「目を覚ましてください……!」


 何度魔法を使っても、光は静かに消えるだけだった。


 僧侶はその場へ崩れ落ちる。


「そんな……。」


 戦士は拳を強く握り締め、地面を殴った。


「くそっ!!」


 魔法使いは涙を流しながらアレンを睨む。


「あなたが……!」


「勇者様を……!」


 アレンは何も言い返さなかった。


 すべて事実だった。


 自分が、この手で勇者を殺した。


 その責任から逃げるつもりはない。


 アレンは静かに立ち上がる。


「……聞いてほしい。」


 三人は武器を構えた。


「今さら何を!」


 アレンは腰を下ろし、勇者の亡骸へ視線を落とした。


「最後に。」


「兄さんは僕へ頼んだ。」


「『俺の代わりに勇者になってくれ。』って。」


 三人は息を呑む。


「そんな……。」


「勇者様が……。」


 アレンは勇者のペンダントを握り締める。


「最初は断ろうと思った。」


「僕は魔王だから。」


「人間でもない。」


「勇者になれる資格なんてない。」


 小さく笑う。


「でも。」


「兄さんは最後まで、僕を信じてくれた。」


 戦士は俯いた。


 魔法使いも涙を拭う。


 僧侶だけが静かに祈り続けていた。


 アレンは勇者へ深く頭を下げる。


「……約束する。」


「兄さん。」


「僕が。」


「勇者になる。」


 その言葉を聞いた三人は、誰も何も言えなかった。


 勇者が命を懸けて託した願い。


 それを否定することはできなかったからだ。


 アレンは立ち上がる。


 静かに三人を見る。


「……君たちにもお願いがある。」


「勇者一行として。」


「最後まで力を貸してほしい。」


 荒野に沈黙が流れる。


 やがて戦士がゆっくりと口を開いた。


「……少しだけ。」


「勇者様の気持ちが分かった気がする。」


 魔法使いは涙を流しながら頷く。


「信じて……みます。」


 僧侶も静かに頭を下げた。


「勇者様の遺言ですから。」


 アレンは三人へ向かって深く頭を下げる。


「ありがとう。」


 この日。


 魔王アレンは、一人の勇者の遺志を継いだ。


 そして、新たな勇者として歩き始めることを決意する。

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