第26話 開戦
ゴォォォォォ――。
黒紫色の瘴気が荒野を覆う。
空は暗雲に包まれ、大地が小さく震え始めた。
勇者一行は思わず身構える。
「これが……魔王。」
魔法使いの額から汗が流れる。
僧侶も祈りを止め、アレンを見つめた。
今まで倒してきた魔物とは、存在そのものが違う。
勇者ビーストだけは、静かに聖剣を構えていた。
「行くぞ。」
三人は頷く。
「おう!」
「はい!」
「任せて!」
次の瞬間。
戦士が大地を蹴った。
ズドォン!!
巨大な斧を振り上げ、一気にアレンとの距離を詰める。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
凄まじい一撃。
岩すら粉砕する斬撃だった。
しかし――。
アレンは動かない。
カキィン!!
龍皇剣が斧を受け止める。
七歳ほどの体格しかない少年が、巨漢の戦士の一撃を片手で受け止めていた。
「……なっ!?」
戦士の目が大きく見開かれる。
「重いね。」
アレンは静かに呟く。
次の瞬間。
軽く剣を押し返しただけで、戦士の身体は十メートル以上吹き飛んだ。
ドガァン!!
岩壁へ叩きつけられる。
「ぐっ……!」
すぐには立ち上がれない。
「速すぎる!」
魔法使いが両手を掲げる。
「炎よ!」
「焼き尽くせ!」
無数の火球が空を埋め尽くした。
轟音とともにアレンへ降り注ぐ。
ドドドドドドッ!!
爆炎が荒野を飲み込む。
「やったか……?」
煙が立ち込める。
しかし。
煙の中から、一人の少年がゆっくり歩いてきた。
ローブには焦げ跡一つない。
「……暖かかった。」
その一言だけだった。
魔法使いの顔から血の気が引く。
「う、嘘……。」
僧侶は急いで補助魔法を唱える。
「勇者様!」
「身体能力強化!」
黄金の光がビーストを包む。
勇者は一気に踏み込んだ。
「魔王アレン!」
聖剣と龍皇剣。
二つの剣が激突する。
ガギィィィン!!
凄まじい衝撃波が周囲へ広がる。
地面がひび割れ、岩が砕け散る。
アレンは初めて笑みを浮かべた。
「いい剣だね。」
ビーストも笑う。
「ああ。」
「お前もな。」
互いに距離を取る。
風だけが二人の間を吹き抜ける。
アレンは龍皇剣を肩へ担ぎ、小さく笑った。
「少しだけ楽しくなってきた。」
ビーストも聖剣を構え直す。
「ここからが本番だ。」
魔王と勇者。
互いに一歩も譲らない戦いが、ついに幕を開けた。




