第21話 小さな魔王
アレンが風邪をひいてから三日。
熱はようやく下がり始めていた。
「……ん。」
ゆっくりと目を覚ます。
暖炉の火はまだ燃えている。
ベッドの横を見ると、ノエルが椅子に座ったまま眠っていた。
「ノエル……。」
その寝顔を見たアレンは、小さく笑う。
「ずっと、いてくれたんだ。」
毛布をそっと持ち上げ、ノエルの肩へ掛ける。
すると。
「……魔王様?」
ノエルが目を覚ました。
「起きられたのですね!」
「うん。」
「もう大丈夫。」
ノエルは安心したように胸を撫で下ろした。
「本当に良かったです。」
◇◇◇
その日の昼。
久しぶりに食堂へ姿を見せたアレン。
魔族たちは一斉に立ち上がる。
「魔王様!」
「お身体は大丈夫ですか!」
アレンは少し照れながら頷く。
「もう元気。」
すると、新人執事のグラムが駆け寄ってきた。
「魔王様!」
「お見舞いに果物を持ってきました!」
両手いっぱいに抱えた果物を机へ並べる。
アレンは目を輝かせた。
「ありがとう!」
その笑顔を見て、周囲の魔族たちも自然と笑顔になる。
◇◇◇
午後。
執務室では、ガルドとレイグが仕事の報告をしていた。
「魔王様が寝ている間、問題はありませんでした。」
「国境も異常なしです。」
「ありがとう。」
アレンは小さく頭を下げる。
その姿にガルドが苦笑した。
「魔王様。」
「王が家臣へ礼を言う必要はありません。」
アレンは首を傾げる。
「でも、お仕事してくれたんでしょ?」
「だったら、お礼は言うよ。」
その一言に、ガルドもレイグも言葉を失った。
普通の魔王なら。
家臣へ礼など言わない。
それが当たり前だった。
ガルドは笑みを浮かべる。
「……やはり、あなたは変わった魔王です。」
レイグも静かに頷いた。
「だからこそ、皆がついていくのでしょう。」
◇◇◇
夜。
仕事を終えたアレンは、大きな窓から魔王領を眺めていた。
乾いた大地。
黒い山々。
そして魔王城の灯り。
「きれい……。」
その横へ古龍が歩いてくる。
「体調は戻ったようだな。」
「うん。」
古龍は遠くの景色を見つめながら言う。
「アレン。」
「王とは、強いだけでは務まらぬ。」
「民を想い、民に想われる者こそ、本当の王だ。」
アレンは静かに頷いた。
「僕……そんな王様になれるかな。」
古龍は穏やかに笑う。
「もうなり始めておる。」
「力で従わせた者は恐れる。」
「心で従った者は、最後まで王を守る。」
アレンはその言葉を胸に刻む。
「……うん。」
七歳の小さな魔王は、少しずつ王として成長していく。
そしてこの優しさが、後に魔族だけでなく人間たちの運命までも変えていくことになる。




