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第20話 魔王様、風邪をひく

 魔王となってから、一か月。


 アレンは毎日、魔王としての仕事に追われていた。


 朝は各部族との会議。


 昼は視察。


 夜は書類仕事。


 七歳の身体には、少し無理があった。


 ある朝。


 窓の外は、いつものように冷たい風が吹いていた。


 魔王領の気温は氷点下。


 雪こそ降らないが、乾いた寒さが身体を刺す。


 しかし、この寒さは魔族には何の問題もない。


 困るのは――元人間のアレンだけだった。


 大きなベッドの中。


 アレンは布団を頭まで被り、小さく震えていた。


「……さむい。」


 額は熱い。


 身体はだるい。


 喉も痛い。


「……。」


 枕元に置かれた金色のベルへ手を伸ばす。


 チリン……


 静かな音が部屋へ響いた。


 数秒後。


 コンコン。


「魔王様、失礼いたします。」


 ノエルが部屋へ入ってきた。


 ベッドを見るなり、表情が変わる。


「魔王様!」


 急いで額へ手を当てる。


「熱い……。」


 アレンは布団の中から小さく顔を出した。


「……つらいから、寝てる。」


 その一言だけだった。


 ノエルは優しく微笑む。


「はい。」


「今日は全部お休みしましょう。」


 ◇◇◇


 その頃。


 玉座の間では、ガルドとレイグが部族長たちへ説明していた。


「本日の会議は中止だ。」


「魔王様がご病気だ。」


 部族長たちは驚く。


「魔王様が?」


「魔王でも病気になるのか?」


 ガルドは腕を組む。


「元は人間だからな。」


「寒さには弱い。」


 レイグも頷く。


「今日は我らが警護する。」


 その日から二人は交代で部屋の前へ立ち、誰も近付けないよう警備を始めた。


 ◇◇◇


 部屋ではノエルが温かいスープを作っていた。


「魔王様、お食事だけでも。」


 アレンは首を横へ振る。


「……いらない。」


「食べないと治りませんよ?」


「……。」


 しばらく沈黙した後、小さく口を開ける。


「あーん。」


 ノエルは思わず笑ってしまった。


「ふふっ。」


「はい、あーん。」


 スープを一口。


 アレンはゆっくり飲み込む。


「……おいしい。」


「ありがとうございます。」


 ノエルは空になった器を机へ置いた。


 するとアレンは布団をぎゅっと掴む。


「……ノエル。」


「はい。」


「今日は……そばにいて。」


 その言葉に、ノエルの胸が締め付けられる。


 アレンは普段、弱音を吐かない。


 だからこそ、その一言が重かった。


「もちろんです。」


 ノエルはベッドの横へ椅子を持ってきて座る。


 アレンは安心したように目を閉じた。


(病気になると……。)


(いつも一人だった。)


(あの頃は、それが当たり前だったのに。)


 施設では、病気になっても誰も看病してくれなかった。


 苦しくても、一人。


 泣いても、一人。


 だが今は違う。


 隣にはノエルがいる。


 部屋の外にはガルドとレイグが立っている。


 アレンは小さく笑った。


「……もう、一人じゃないんだ。」


 その言葉を聞いたノエルも、優しく微笑んだ。


「はい。」


「魔王様は、もう一人ではありません。」


 暖炉の火が静かに揺れる部屋で、アレンは安心したように眠りについた。

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