↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
19/100

第19話 新人執事

 魔王アレンが正式に即位してから数日。


 魔王城では、新たな使用人たちが働き始めていた。


 その中には、まだ経験の浅い新人もいる。


 ゴブリン族の青年。


 名はグラム。


 今日が執事として初めての仕事だった。


「き、緊張する……。」


 両手に銀の盆を持ちながら、小さく震える。


 先輩執事が肩を叩いた。


「落ち着け。」


「魔王様はお優しいお方だ。」


「は、はい!」


 しかし、相手は史上最悪の魔王。


 そう聞かされて育ったグラムは、不安しかなかった。


 ◇◇◇


 魔王の執務室。


 アレンは机へ向かい、山積みになった書類を眺めていた。


「……文字、多い。」


 隣ではノエルが苦笑する。


「少しずつ覚えていきましょう。」


「うん……。」


 コンコン。


「失礼いたします。」


 グラムが紅茶を運んできた。


 足は震え、手も震えている。


(落とすな……。)


(絶対に落とすな……。)


 一歩。


 二歩。


 三歩。


 その瞬間だった。


 カツン。


 絨毯の端に足を引っ掛ける。


「しまっ──」


 ガシャン!!


 紅茶が宙を舞った。


 熱い紅茶が、そのままアレンの黒いローブへ降り注ぐ。


「……あ。」


 部屋が凍り付いた。


 ノエルの目が見開く。


 ガルドもレイグも言葉を失う。


 新人見張りのリザードマンは顔面蒼白。


(終わった……。)


(魔王様が怒る……。)


 グラムは震えながら、その場へ土下座した。


「も、申し訳ございません!!」


「どうか命だけは……!!」


 涙まで浮かべている。


 部屋には重苦しい沈黙が流れた。


 アレンはローブを見下ろした。


 びしょ濡れである。


「……熱かった。」


 そう呟くと、ゆっくりグラムへ近付く。


 グラムは目を閉じた。


(殺される……。)


 だが。


 アレンは小さく息をついて言った。


「次から気を付けて。」


「それだけ。」


 部屋中が静まり返る。


「……え?」


 グラムは顔を上げた。


「お、怒らないんですか?」


 アレンは首を傾げる。


「わざとじゃないでしょ?」


「失敗は誰でもある。」


「僕もいっぱい失敗するし。」


 そう言って笑った。


 ノエルも微笑む。


「魔王様のお言葉です。」


「次から気を付ければ大丈夫ですよ。」


 グラムは何度も頭を下げた。


「ありがとうございます!」


「一生お仕えします!」


 その日の夕方。


 城中で噂が広がる。


「新人執事が魔王様へ紅茶をこぼしたらしい。」


「それで?」


「『次から気を付けて』の一言だけだったそうだ。」


「……本当か?」


 その話を聞いた魔族たちは驚きを隠せなかった。


 恐怖で支配する王ではない。


 失敗を許し、人を育てる王。


 その日、魔王アレンへの忠誠を誓う魔族が、また一人増えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。