第17話 新たな日常
魔王として認められた翌日。
魔王城は、いつもと変わらぬ朝を迎えていた。
しかし、一つだけ違うことがある。
「魔王様、おはようございます!」
城中の魔族たちが、アレンへ深々と頭を下げていた。
昨日まで反対していた魔族たちも例外ではない。
「おはよう。」
アレンは少し照れくさそうに手を挙げる。
まだ七歳。
魔王と呼ばれることに慣れていなかった。
玉座の間へ向かう途中。
ゴブリンの執事が駆け寄ってくる。
「魔王様、本日の予定でございます。」
「朝食の後、各部族長との会談。」
「その後、魔王領の視察。」
「夕方から軍議となっております。」
アレンは紙を見つめた。
「……。」
しばらく沈黙する。
「難しい。」
ゴブリン執事は困ったように笑う。
「ご安心ください。一つずつ覚えていけば大丈夫です。」
その言葉にアレンは小さく頷いた。
「うん。」
食堂へ入ると、長さ十メートルはある巨大なテーブルが置かれていた。
一番奥の中央。
そこが魔王の席だった。
アレンが腰を下ろす。
右側にはガルド。
左側にはレイグ。
その隣にはノエル。
他に座る者はいない。
ノエルが温かいスープを差し出した。
「熱いのでお気を付けください。」
「ありがとう。」
アレンは一口飲む。
「……おいしい。」
施設では味わえなかった温かい食事。
その一杯だけで、胸が熱くなった。
食事を終えると、ノエルが微笑む。
「それでは魔王様、お召し替えを。」
「え?」
「お仕事用のお召し物です。」
アレンは首を傾げた。
「自分で着る。」
そう言ってローブを持ち上げるが――
袖と首元が絡まり、頭だけ出てしまう。
「……。」
レイグが思わず吹き出した。
「ぷっ……。」
ガルドも肩を震わせる。
「くくく……。」
アレンはローブの中から声を上げた。
「笑うな!」
ノエルは苦笑しながら近寄る。
「やはり私がお手伝いします。」
数分後。
立派な魔王の衣装へ着替えたアレンが鏡の前に立つ。
漆黒のローブ。
黄金の王冠。
禍々しい杖。
そして腰には龍皇剣。
ノエルは満足そうに頷いた。
「よくお似合いです。」
アレンは照れくさそうに頬をかいた。
「……そうかな。」
その姿を見たガルドが笑う。
「魔王様。」
「外では堂々としておられるのに、城では普通の子供ですね。」
アレンは少しだけ口を尖らせた。
「うるさい。」
すると広間中が笑いに包まれた。
昨日まで恐れられていた玉座の間には、穏やかな空気が流れていた。
こうして七歳の魔王アレンは、不器用ながらも少しずつ「魔王」としての日常を歩み始めるのだった。




