第11話 新たな身体
静かな朝だった。
小鳥のさえずりが森に響く。
アレンはゆっくりと目を覚ました。
「……ここは。」
柔らかな布団。
暖炉の火。
木の香りがする部屋。
六年間、冷たい石の床で眠っていたアレンには、すべてが夢のようだった。
身体を起こそうとした、その時だった。
「……あれ?」
視界に映った髪が、真っ白だった。
昨日までの黒髪ではない。
雪のように白く、美しい髪。
「なんで……。」
慌てて部屋の鏡へ近づく。
そこには、見知らぬ少年が映っていた。
白髪。
透き通るような蒼い瞳。
頬は以前より血色が良く、傷跡もほとんど消えている。
「……僕?」
信じられなかった。
その時、部屋の扉が静かに開く。
ノエルが温かいスープを持って入ってきた。
「お目覚めですか。」
アレンは鏡を指差した。
「これ……僕なの?」
ノエルは優しく微笑む。
「はい。」
「古龍様の秘薬が、あなたの命を救いました。」
「ですが……。」
その表情は少しだけ曇る。
「代償もあります。」
アレンは不安そうに自分の身体を見る。
「代償……?」
ノエルは静かに頷いた。
「髪の色が変わりました。」
「そして、お身体は人間ではなく、魔族へ近付いています。」
その言葉を聞いても、アレンは驚かなかった。
もう覚悟は決めていた。
「……生きられるなら、それでいい。」
その答えに、ノエルは少しだけ目を見開く。
「後悔はしないのですか?」
アレンは窓の外を見る。
森の木々が風に揺れている。
「死ぬよりは、ずっといい。」
「それに……。」
小さく笑った。
「僕、人間の世界には帰れないから。」
その言葉には、七歳とは思えないほどの諦めが滲んでいた。
ノエルは胸が締め付けられる思いだった。
(この子は……。)
(七歳で、こんな表情をするなんて。)
彼女はそっとアレンの頭を撫でる。
「これからは、一人ではありません。」
「私たちがいます。」
アレンは少し照れくさそうに笑った。
「……ありがとう。」
その笑顔を見て、ノエルは心の中で誓う。
(この子は、私が守る。)
(何があっても。)
その日から、ノエルはアレンの世話係となった。
それが、後に魔族たちから**「堕落した天使」**と呼ばれる始まりだった。




