163 冒険の探求者の驚き
9層は、ニクスの放った『紅炎の矢』で焼かれた。
樹齢数万年の巨大な魔木は、10000度という熱で蒸発した。
生存の危機を感じ取り、羽ばたく為の進化をしていたG型は、その進化が完了する前に超高熱によって全て霧散した。
あぶなかった。やつらがもし飛び立ってしまったら、この大陸は終わっていただろう。
それほど、やつらの増殖速度が異常だった。
あれは、分裂ではない。もっと違う何かだ。
魔物が誕生する瞬間を見た者はいない。
どうやって生まれているのか分からないのだ。
魔物誕生の謎に迫る興味深い現象だった。
レーデルさんとの議論が必要だ。
「レーデルさん、あぶなかったです。おれ達の判断があと数分遅れていたら、間に合わなかったかもしれません」
「ふん、その時はあいつが時を止めていた。そして俺様が全て処分していた。おまえが責めを負う様な事にはさせない」
グスッ! つくも(猫)ありがとう。
「カナデ、魔物の増え方を見たな。あの現象に答えがあるかもしれんぞ」
レーデルさんが興奮している。うん、おれも謎に迫れるかもしれないとワクワクしている。
「カナデ、これからどうするのよ」
おっと、シンティがお冠だ。きっと、怖かったんだろう。申し訳ない。
「大樹の杜人の里に行きます。レームスさんと合流です」
「わかった。風の道」
ベニザクラ号が時速100㎞程で進み出した。
「9層、本当に何もないです」
ジェイドが窓の外を見てそうつぶやいた。
実際、見えているのは赤く焼かれた地表のみだ。
「9層を焼くという行為は、計画では考えていたんだ」
「ええ、判断が早かったです。そうだと思いました」
「ただな、魔木まで一緒に燃やす予定はなかったんだよ」
「そこはおれも不思議に思っているぞ。カナデ、なんでだ」
イグニスが珍しく困惑している。
「まだ仮説だ。だがほぼ真実だろう。超進化の原因があの巨大な魔木だ」
「ああ、わたしも今回のことで確信したよ。あの魔木が、超高濃度の魔素を垂れ流していた。それが原因だ」
「社長、わかりました。あの小さな魔物が異常繁殖したのは、その超高濃度魔素の影響だったんですね」
「はい、ぼくも分かりました。天敵達がいなくなったのでその魔素を自由に取り込めるようになってしまったんですね」
「チャルダン、ジェイド正解だ。異常繁殖は、魔素の需要と供給の関係が崩れた結果なんだよ」
それだけ、SS級達が取り込んでいた魔素の量が膨大だったという事だ。いずれ、あの巨木は処分しなければならなかった。それを思うと罪悪感も少し和らぐ。
「まあ、何にしても、今回はおれの大きなミスが原因だ。楽勝だと浮かれていた罰が下ったかな」
「ごめんなさい。わたしもそう思っていました」
今回の第1功労者が謙虚に手を挙げた。メディの直感がなければ対応はもっと遅れていた。きっと、間に合わなかった。
「あーすまん。おれもだ」
「はい、わたしもです」
「余裕だと思っていたっす」
「ククク、同罪!」
次々に手が上がっていった。みんな、同じだったか。
「見えました。大樹の杜人が手を振っています」
プリスさんとネポスさんがいるのが見えた。迎えに来てくれたようだ。
ベニザクラ号がピタッと止まる。そのまま降下した。
「迎えに来てくれたんですね。ありがとうございます」
あれ、苦笑いをしている。どうした?
「ずいぶんと派手にやったみたいだな」
あーその件ですか。
「すみません。でも、必要だったんです」
「おれらはそう思っているがな、ペリペアがかなり怒っているんだよ」
「ええ、レーデルとカナデを連れてこいって、まあ、うるさくて……」
そう言って、2人が申し訳なさそうにしている。
「ふん、俺様がお仕置きしてやるか」
いや、騒ぎが大きくなりそうだからやめて!
「ふん、相変わらずの見識が狭いアホだ!」
うわー、レーデルさん辛辣です。
「そうなのよ、レーデル、ガツンといくのよ」
「カナデさん、とにかく行ってみましょう。きっと、説明すれば分かってくれると思うんです」
私の婚約者様はこういう時に頼りになる。
「わかった、行くメンバーはどうする」
「カナデよ、全員だ。丁度いいので10層について少し説明したい」
「わかりました。みんな、すまないが付き合ってくれ」
レーデルさんの提案だ。異論は出ない。みんなでぞろぞろと里長に家に向かった。
太い幹の上に少し大きめの木の家が乗っている。一応、階段のようなものが付いている。そこを登り入り口のドアを開けた。
そこには、真っ赤な髪の毛と同じぐらい顔を真っ赤にさせた鬼がいた。いや違った、冒険の探求者がいた。
「来たな、てめえら、何をしたか分かっているんだろうな。魔動機関貴族がやろうとしていたことと同じ事をしたんだぞ」
怒っていたのはそこかー。うん、気持ちは分かる。
「猫よ、呼べるか」
ん、レーデルさん、だれを呼ぶの?
「呼べるが、いいのか。ショックはでかいぞ」
「ふん、このバカにはいい薬になる」
「おもしろい。俺様もこの態度にはイラッとしていた。スッキリさせてもらうぞ」
「てめえら、さっきから何勝手に喋っている。みんなまとめてそこに座れ。俺が直々に裁きを下してやる」
「ピーピーうるさいのよ」
オキナがペリペアの周りに第2権限の結界を張った。
ペリペアは動けなくなった。
「キリロス、邪魔しないのよ」
「分かっている。好きにしろ」
狼の神獣が、そのまま床に丸まった。
「キリロス、この壁を借りるぞ」
狼が尻尾をピコンと上げた。了承だろう。
つくも(猫)がちょこんと立ち上がり、前足で魔法陣を構築する。この姿はいつ見てもかわいい。癒やされる。
出来上がった、魔法陣を壁に押し当てた。次元渦巻を設置するようだ。
わかったよ。呼ぶのはあの人だ。いや、今は白猫か。
「みんな、おひさー! ジェイドくーん。あいたかったよー」
白猫が渦から飛び出し、ジェイドに飛びついた。
額をジェイドの頬に押し当て、ぐりぐりしている。
喉もゴロゴロ鳴っている。
「なんだこの猫は、どこから入ってきた」
自由になったペリペアが白猫に迫る。そして、つかまえようと手を伸ばしたとき、白猫がバチッと放電した。
「つ、この光、この気配、エスプリか」
「ペリペアにしては、気がつくのが早かったじゃない。1600年で少しは成長したのかしら」
「いや、でも、なんで、猫なんだ?」
「何でって、私は神装力第3権限の精霊神獣だからよ」
「はぁー……?」
「ペリペアよ、少しは冷静になったか」
「はっ、レーデルどういうことだ! 説明しろ」
「うるさいのよ。また動けなくしてほしいのかしらなのよ」
全員から冷たい視線で睨まれて、さすがにこれはまずいと感じたのか、ペリテアは大人しく床に座った。
「みんなも座ってくれ。少し話が長くなる」
全員が床に座った。
つくも(猫)もごろんと寝転び、背中の毛繕いを始めた。
「エスプリよ。おまえは世界樹ではないな」
「ええ、そうよ。私は世界樹の意志を伝える代理人よ」
ペリペアが目を見開いた。何かを言おうとしているが、キリロスに制止されている。
「すまないが、詳しい経緯を説明してくれないか」
「ええ、いいわよ。ただ、もしかすると変換されない言語があるかもしれないけど許してね」
白猫はそう言うと、ジェイドの腕の中から抜け出してエジプト座りになり語り出した。
世界樹が眠りについてからの長い長い期間の物語である。
みんなは、黙ってその話をじっと聞いていた。
話が進んでいく中で、ソフィアの目に涙が光った。ホークがその頬にそっと頭を押しつける。
サクラさんが『資格者』の部分で目を見開いた。自分が何者なのかが分かった顔をしている。
ニクスが黙って頷いていた。
「まあ、今話せるのはこんなところかな」
白猫の話が終わった。
「エスプリ、なんで今まで黙っていた」
ペリペアがまたいらだっている。
「聞かれなかったからよ。それに、あの姿で話をするのはなんとなく嫌だったの」
発光体のことだろう。火の鳥のような具現化した姿がよかったんだろうな。
「く、ならば、カロスの言ったことは間違いだったのか」
「間違いではないわよ。私は世界樹本体から全権を委ねられた代理人よ。つまり、世界樹の意志なの。ならば、カロスがその意志と初めて会話をしたエルフになるわ」
理屈ではその通りだ。間違いない。ファーストコンタクトってやつだな。
「ペリペアよ、10層でのエスプリの言動を思い出せ。自分から話しかけてくるような性格だったか」
「う、確かに。なら、何で今はこんなに軽いんだ」
みんなが私を見た。
「すみません。女神の具現化は私がイメージしました。サクラさんの性格がだいぶ反映されています」
「なるほど、エスプリ殿のモデルはサクラか」
ディーラさんの言葉に、「あー、なるほど」と、みんなが大きく頷いて納得している。
天然エルフは、キョトンとしていた。
「さて、では、10層について少し話をしようじゃないか」
レーデルさんが、メガネをクイッと少し持ち上げて、語り出した。
次話投稿は明日の7時10分になります
魔術学院編の最終話です




