161 SS級の魔物達(5)★
「作戦会議を始めます」
司会はエル、書記はシンティ。
「総隊長、状況説明をお願いします」
「おれの真色眼で確認した危険な昆虫型魔物は5体だ。『蟷螂型』『亀虫型』『甲虫型』『七節型』『カメレオン型』が確認できた」
「カナデさん、5体全部駆除できたということでいいのでしょうか」
「ああ、真色眼は神力だ。信頼できる」
「では、ここでの仕事は終わりです。レームスさんを迎えに行きましょう」
「うわー、いよいよ10層に行くのね。緊張してきた」
「マーレさん。ぼくもです」
「ジェイドも緊張することがあるんだな」
「ディーラさん、ぼくはまだ子どもです」
「すまん。そうだった。ついな」
みんな、ホッとしたんだろう。気持ちが緩んでいる。まあ、緊張の連続だったんだ。仕方ないか。
ん、メディが考え込んでいる。どうした。
「みなさん、私の勘を信じますか」
は、メディは何を言っている。
「父は金儲けに関しての勘はほぼ100パーセントだったんです。そして、私は、危険に対しての勘が鋭いんです」
ああ、確かに。沈みゆく船からいち早く脱出したよな。
「その勘がビンビン警告しています。やばいのがいます」
「社長、メディの危険に対する勘は100パーセントです」
「カナデ、真色眼の条件は何だ」
ん、レーデルさんは昆虫型のことを言っているのか。
「超進化した昆虫型です」
「く、カメレオンは爬虫類だ」
「な、サクラさん緊急上昇!」
「風の道 上昇」
黒い川が流れてきた。
9層に川などある訳がない。あれは超進化した魔物だ。
黒くテカっている。
触覚が2本見える。
6本の細長い足でガサガサと移動している。
個体数は理解を超えている。
黒い川だ。数百キロメートルは続いているだろう。
あいつは『G』だ!
「つくも(猫)神装結界」
「もう発動している。9層からは一匹も出ていない」
「すまない、おれのミスだ」
「でも、どこにいたのよ」
マーレ、ソフィアが泣きそうだ。
「ククク……ウジャウジャどころではない。降参!」
「たぶん、黒いキノコよ」
「メディが正解だ。カメレオン型の主食があいつだったと言うことだ」
「はい。天敵がいなくなったからどこからか湧いてきたと言うことですね」
レーデルさん、チャルダン、それが正解だ。
「あーたぶんだが、9層の魔物達の主食があいつ達だったんじゃねーか」
「……」
イグニスも正解だ。おれ達は、あいつの天敵を全て駆除してしまったんだ。
「カナデ、どうするのよ」
シンティも泣きそうだ。
「時間的な猶予はほとんどない。川が海になりつつある」
「……」
「ニクスの出番なのね」
私の視線を感じたのだろう。サクラさんが静かに立ち上がった。
「ああ、9層を焼くしかない!」
「……」
車内がシーンとなった。誰も言葉を発しない。
「ぼくは賛成します」
「うむ、私も賛成だ」
「他に手段はないですね」
ジェイド、レーデルさん、チャルダンが真っ先に賛成した。
「おれたちも賛成だ」
風の森パーティーも全員が頷いている。
「もちろん、私も賛成する」
「私も賛成」
「それしか方法がないんでしょう。なら賛成よ」
ディーラさん、メディ、シンティも賛成した。
「ぼくも賛成だよ。サクラさん。決めてください」
エルがセルビギティウムの姫に最後の決断を任せた。
「森を焼きます。カナデさん。命令して」
「わかった。つくも(猫)」
「もう、許可は取った」
ははは、できる猫は仕事が早い。
「エスプリさんの許可もでました」
サクラさんの肩の上で、丸い目をぱっちりと開いて、首をくりくりっと回している真っ赤な小鳥と向き合った。
「ニクス、辛い役目をお願いする。すまない」
「それが秩序の探求者の勤めだろう」
「秩序の探求者が命ずる。『フェニクニシス・アルモティア』よ、あの魔物達を9層の森ごと焼き払え!」
「おおせのままに」
赤い小鳥が樹魔車両の窓から飛び立った。そして、真っ赤に燃え上がった。神装力第三権限の火の鳥である。
「秩序の探求者の命により、フェニクニシス・アルモティアが裁きを下す」
火の鳥の体が轟音と共にさらに燃え上がる。体も数百倍に大きくなっている。
「秩序を乱す異端者よ。我が『紅炎』で粒子となれ」
何かを感じたのだろう。さすがは、危機意識の強いSS級魔物だ。
ブーンという羽音がしてきた。それが、どんどん広がっていく。個体数は、数兆を超えているだろう。あいつらが飛び立ったらこの大陸は終わりだ。
「ちょっと、進化が遅かったな」
「はい、間に合いました」
右横でサクラさんが微笑んでいる。
「まとめてポイですね」
左横でソフィアが「ふふふ」と笑っている。何かを思い出したようだ。
空が真っ赤に染まった。
何かが降ってくる。
炎の矢が次々に9層に突き刺さっていく。
刺さった矢が、一瞬で数万度の紅炎となり9層を焼いていく。
樹齢数万年の魔木は、本来火では燃えない。しかし、紅炎は別だ。全て蒸発していった。
「ごめん、おれのミスだ」
つい、言葉が洩れた。
「私の中でのあたなは、ミスも恋もするただの青年ですよ」
ソフィアが私の左手をそっと握ってくれた。
「私の中のカナデさんは、楽しそうに夢を語る基礎研究者です」
サクラさんがそっと、右手を握ってくれた。
「うん、そうだね。ありがとう」
涙が止まらなかった。
姉さん、おれ、とんでもないミスをしたよ。でも、だいじょうぶ。支えてくれる女性ができた。
大切な女性なんだ。
頼もしい仲間達もいる。
おれはもう1人じゃない。
安心して。
姉さん、会いたいよ。家族にもう一度会いたいよ。
つくも(猫)が足下でじっと私を見上げていた。
まんまるの目は、何を考えているんだろう。
でも、癒やされる。
つくも(猫)側にいてくれてありがとう。
★ ★ ★ ★ ★
8層のS級魔物達は、次々と逃げてくる昆虫型を敵と判断した。本能がこいつらは異端者だと感じたのだ。
『魔獣王』『まだら』『角あり』『うっほ』『名持ちの一家』達が次々と襲いかかった。
これは、本来の食物連鎖が行われているだけだ。虫たちは、哺乳類や爬虫類の餌である。
ほぼ、全滅させ、ほっとしたときに、ぞわっとしたものを感じ取った。
何かやばいものが生まれている。危険だ。逃げるべきか。でも、どこへ逃げればいいのだ。
途方に暮れていたときだった。
空が真っ赤に染まった。
炎の矢が、次々と降ってくるのが見えた。
そして、信じられない熱量が9層を駆け抜けていくのが分かった。
しばらくしてから、絶望しかなかった空気があたたかなものに変わっていくのを感じていた。
★ ★ ★ ★ ★
7層でパニックになった魔物達が暴れていた。みんな狂乱状態だ。
「やれやれ、困ったねえ。これはお仕置きをするしかないか」
カルミアの魔力が膨れ上がる。7層でなら、属性魔法使いでもあり風の精霊術を操るこの男に敵はいない。
氷の刃が渦巻く風の道が、次々に魔物達を霧散させていく。
「父様はまだまだ現役だ。おれも負けてはいられないか」
ナツメの魔力も膨れ上がる。
高水圧で回る水の蛇が一斉に放たれた。その大きく開いた口で魔物達を飲み込み粉々にしていく。
「は、エルフは派手だねえ。おれは地味にいくよ」
ラウネンの魔力が膨れ上がる。筋肉も盛り上がる。軽く振った腕から衝撃波が飛んでいく。
木の陰で怯えている魔物が、びっくりして元いた場所に逃げていく。
「あいつらも、狂乱状態じゃなければ逃げることを選択できる。まあ、見逃してやるよ」
「ふん、お優しいことだな。だが、良い判断でもある」
ランダナも、逃げてくる魔物を追い返していく。
彼らの背中にぞわっとした悪寒が走った。
「く、まずいぞ。壊滅的な被害が出る恐れがある」
4人が集まった。魔物達も地面に座ったまま誰も動かない。
絶望しかない。そんな空気が9層から流れてきた。
「いったい何が起きている」
しばらくして、彼らは空から降ってくる炎の矢を目撃する。そして、9層が焼かれていることを確信する。
「さくらたちは無事なのか」
背中に感じていた悪寒は消滅した。かわりに、あたたかな陽だまりが9層から降ってきた。
「終わったな」
「おう、あの分だと大勝利だな」
「いよいよ10層に行くのですね」
「ふん、あいつも約束を守ったか。まあ、サクラが無事なら何でもいい」
★ ★ ★ ★ ★
「これで活動停止だ」
「この魔物で最後かな」
「うん、もう来そうもないね」
「思ったよりも少なかったな」
「まー、あの人たちが関わっているからなー。こんなもんだろう」
「なー、もう一度考えてくれないか。それだけの力があれば、B級でも通用するぞ。おれ達のパーティーに入らないか」
「ごめん、おれ達の就職先はもう決まっているんだよ」
「いや、そこをなんとか……」
「無理だね」
「そんなー」
入り口の町の冒険者が認める実力は本物である。平民学生達は、自分たちのレベルがもはやC級でないことに気がついた。だが、この力がもっとも活かされるのは、別の場所であることも知っている。
その時、空が真っ赤に染まるのを1層から3層までで魔物と戦っていた冒険者達は目撃した。その前に、何か嫌な感じが深層の方から漂って来た事にも、気配に敏感な冒険者達は気がついていた。
「深層で何かが起きているな」
「カナデさん達は大丈夫なんだろうか」
真っ赤に燃える炎の矢が深層に降り注ぐのが見えた。
「あれをやっているのはきっとニクスだね」
「相変わらず派手だな」
「どうやら、終わったみたいよ」
「ああ、いよいよ彼らは10層に行くんだね」
平民学生達は、深層の空を見上げながら新しい世界に期待をするのであった。
★ ★ ★ ★ ★
炎の矢は、大陸中の国から見えていた。
そして、9層の魔物達は全て駆除されたと確信をしていた。
いよいよ、10層の謎が明らかになるときが来た。
燃え尽きた9層に残っていたのは、巨大な五角柱の結界だった。
いままで木魔の森で隠されていた10層の全貌があらわになったからだ。
五角柱の一辺は100キロメートル以上あるだろう。
空中で停止しているベニザクラ号の中から、カナデ達は様々な思いを抱きながらその姿を見下ろしていた。
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