159 SS級の魔物達(3)★
★ ★ ★ ★ ★ (エル視点)
「剣士イディアさん、頼りにしています」
「任せろ! エル」
イディアさんは素直ないい性格だ。ソフィアさんもだけど、上級貴族なのに謙虚なんだよなー。みんな、カナデ君の影響だろう。
あのことがあってから人を警戒するようになったシンティも、すっかり昔の性格に戻っている。
ぼくの家も一応貴族だったらしいけど、何かのトラブルに巻き込まれて、みんな世界樹の空に旅立ってしまった。ぼくがまだ小さい頃の話だ。
マルモル公爵領のオレコス様に引き取られて、シンティと一緒に育ってきた。
そして、ぼくの父がまだ生きていた時に約束したシンティとの婚約を守ってくれて、許嫁として大切に育ててくれた。感謝しかないよ。
シンティも、こんなぼくのことを好きになってくれた。ぼくも、シンティのことは大好きだ。小さいころからずっと一緒だった。大切にしたい女性なんだ。
「エル、何考えているの」
「ああ、昔のことを思いだしていたんだ」
「シンティがいつもおまえの後を追いかけていたことだろう。見ていて微笑ましかったぞ」
「う、あの頃は距離感が分からなくて逃げていました」
そうだった。ディーラさんもあのころは屋敷にいたんだった。
「逃げるから追いかけたの。だって、普通に遊んでくれるのはエルだけだったのよ」
「みんな忙しかったんだよ。魔動機関貴族や他家との抗争で手一杯だったんだ」
「シンティよ、本当に大変だったんだぞ」
「わかっているわよ」
あーあ、不機嫌になった。しばらくそっとしておこう。
「来た。大きい魔物よ……うそ、甲虫型だわ」
「まずいな、我々とは相性が悪いぞ」
「ディーラさんその通りです。相手は守りの堅いパワー型、こちらは魔法使いと剣士なので向こうが有利です」
「ふん、関節を狙えばよいのだ。問題ない」
「イディアさん、通常の魔物ならそれで対処できますが、あいつはたぶん駄目です」
「エル、なぜだ」
「ここが高濃度の魔素地帯だからです。カナデ君が言っていました。甲虫型の場合は関節ねらいは相手の思うつぼだそうです」
「エル、うちもあのタイプの弱点は関節だと思う。カナデは何を心配しているの」
「9層の魔物達は、生存競争を勝ち抜いた強者揃いです。つまり、強くて賢い。ならば、弱点をそのままにしているはずがないんです」
「なるほど、理解したぞ。弱点だと舐めてかかったら返り討ちにあうと言うことだな」
「エルが言いたいことは分かった。ならどうやって攻めるのよ」
「あいつと力比べできる強い魔物がぼく達の味方にもいますよ」
「『白』ね」
「そうです」
「ふん、なかなかおもしろそうな事を考えるじゃないか。エルよ見直したぞ」
「つくも(猫)さん、もし危険なときは助けてください」
「当然だ。護衛だからな。だが、今のおまえ達は強い、たぶん、おれの出番はないな」
つくも(猫)さんにそう言ってもらえると力が湧いてくる。さて、どこまでぼくたちの力が通用するのか、試させてもらうぞ。
「相手は、堅い外骨格で守られた体と鋭い爪の足を持っています。動けなくするにはひっくり返してしまえばいいのですが、前から近づけば全てあの巨大な角で放り投げられてしまうでしょう」
「後ろから行けばいいのではないか」
「イディアさん、後ろ足の爪で引き裂かれます。足が6本あるんです。安定感は抜群です」
「つまり、横からも駄目という事ね」
「く、最強だな」
「まずは、相手の能力を確かめましょう。イディアさん、用心しながら関節を狙ってみてください」
「任せろ」
「シンティ、ぼく達も外に出て戦います。ディーラさんはここで『白』との意思疎通をお願いします」
「わかった」
「ふん、俺様が側にいる。存分に戦え」
「ねこちゃんありがと。頼りにしている」
オキナさんが言うには、つくも(猫)さんは、言葉はそっけないけど気持ちは暖かいという特性を持っている『ツンデレ』という種族らしい。
なるほど、尻尾が激しく振られている。嬉しいときのつくも(猫)さんだ。
「シンティ、ぼく達は属性魔法使いだ。この高濃度魔素の中だとS級を上回る力が使えるはずなんだ」
「ええ、さっきから体が正直よ。怖いぐらいに力がみなぎっている」
「精神にも影響が出ているな、ぼくがこんなにも攻撃的な思考するなんて信じられない」
「そんなエルも頼もしくて素敵よ」
「はは、ありがとう。また力が湧いてきたよ」
「イディアさん、お願いします」
「魔法陣展開 神装力跳躍」
イディアさんの跳躍は約10メートル。その間合いに入れるかを試そう。
「なんだ、剛毛が伸びたぞ」
ディーラさんが指さす。
「気持ち悪い、蛇みたいなのもいるわよ」
シンティが嫌そうな顔をしている。
やってくれる。ただでさえ堅い外骨格を剛毛が触手のように守っている。さらに、明らかに毒をもった蛇のような口を持ったやつがウネウネしている。
「エル、あれでは関節が狙えない。それに、そこも毛で覆われてしまったぞ。どうする」
カナデ君の言った通りだ。もはや弱点ではない。近づけば噛みつかれて毒を注入される。
「だが、にらみ合いだ。あいつはどうやって攻撃するんだ」
「イディアの言う通りよ。襲ってこなければ見逃してやるって言う平和主義者なのかしら」
「それはなさそうだよ。嫌な予感がする。角が光り出した」
2本に分かれている角の先端が光っている。色も変わりだした。今は赤色だ。う、これはもしかすると魔法攻撃かもしれないぞ。
「シンティ、神装結界強力なのだ」
「神装結界発動 壁」
ほぼ、同時だった。甲虫型が超高温の火球を飛ばしてきた。周りの空気が焦げているんじゃないかという威力だ。それを、シンティの壁がはじき返した。
「まじ、一発で壁が破壊されたわ」
いや、向こうもびっくりしていると思うぞ、あれを防げる壁に初めて出会ったんじゃないかな。
え、うそだろう。また色が変わっている。今度は白だ。なら来るのは氷柱だ。
「壁2枚」
属性魔法使いに本来詠唱はいらない。だが、高度な魔法を使うときは、イメージを作りやすくするために言葉に出す。
シンティの作った2枚の壁に、でっかい氷柱が突き刺さっていた。かんべんしてよ。
「おいエル、あいつはパワー型じゃなかったのか」
「知るか、こっちが聞きたいぐらいだ」
ふざけるな。パワー型が何でこんな強力な魔法を使えるんだよ。
どうする。打つ手がないぞ。
つくも(猫)さんは……動かない。というか、欠伸をしながら後ろ足で耳を掻いている。器用な猫だ。
ぼく達に任せると言うことか。ならば、期待に応えないとな。
あいつも警戒している。ならば、考える時間はある。
整理するぞ。
ここは、魔木の森。火魔法を使っても火事にならない。
大木がきれいな等間隔で並んでいる。何となく檻みたいだな。
あいつは、パワーがあり魔法も使う魔物だ。
ぼく達の戦力は、シンティが『火・土・金』の3属性魔法。ぼくが『土・金』、ディーラさんが『火・金』だ。
イディアは『金』の魔法剣剣士、そしてここでならA級以上の力を持つ『白』だ。
パワーには、『白』で対抗できる。ディーラさんは土魔法で支援ができる。
魔法には、ぼくとシンティで対応可能だ。
ははは、なんだ、簡単じゃないか。おれ達の楽勝だ。
剣士イディアさんが自由に動ける。存分に暴れてもらおう。
「作戦を伝えます。ぼくとシンティで魔法攻撃をします。あいつの魔法もぼくたちが防ぎます。白とディーラさんで真っ向勝負の力比べをしてください。それでやつは手一杯になります。イディアさん、思う存分暴れてください」
「その言葉を待っていたぞ。任せろ!」
「それと、みんなさん。装着です!」
「了解、装着!」
戦闘モードになっているので一瞬で装着できる。
さて、SS級の魔物よ。覚悟してもらおうか。
「シンティは攻撃。ぼくが防御」
「わかった」
「土壁発動 魔法陣展開 神装結界纏、浮遊二重がけ」
これで、どんな攻撃にも360度防御可能だ。
「エル、上出来よ。火球発動 連射100」
え、まじですか!
うわー、容赦ないな。
シンティの火球が100連発で甲虫型を襲った。堅い外骨格と剛毛が全てはじき返している。
相手が怒ったようだ。角が光る。赤だ。火球が来る。
神装結界を纏った土壁がはじき返した。
光が点滅した。連続で来るぞ。
3発火球が放たれた。なんと、曲げられるようだ。弧を描いて飛んできた。
ただの土壁だと思うなよ。神装結界だぞ。
「分離 防御」
神装結界が2つに分離する。土壁は火球がぶつかり霧散する。後の球ははじき返した。
「どこ見ているのよ。火球発動 100連射 3回」
え、うそでしょう。
100連射が3回、魔物を襲った。さすがにひるんだ。
「隙ありだな、白、全ての足を拘束しろ」
白の触手が伸びる。体長5メートルほどの魔物の足を全て拘束した。巨大角が動くが空中でもがくだけだ。
毒の牙は、ディーラさんの土魔法で固められている。
「さて、我が神力剣の錆になってもらおうか」
イディアさん、その刀錆びません。
イディアさんの神力剣が、剛毛を草のように刈っていく。
あらわになった足の関節部分を切り裂く。
6本全て切り裂いたところで、甲虫型の巨体が崩れ落ちた。もはや動けない。
角が光る。しかし、その角を自由になった白の触手がへし折った。
勝負ありだ。魔物は30センチほどの魔石を残して霧散した。
ふー、何とか勝ったな。僕たちは強くなった。
「やっと動き出したか。待ちくたびれたぞ」
え、つくも(猫)さん、何が動き出したのですか。
信じられない光景が目の前で展開されていた。
木魔だと思っていた大木が動き出したのだ。
「なんだあれは、でかいぞ」
ディーラさんが叫んだ。
1本の大木の長さがだいたい10メートルぐらいある。それが、7本連結していく。あれも魔物なのか。
真ん中の大木の両脇から足が4本生えている。一番先頭の大木からは、2本の足が出てきた。
この虫を知っているぞ。『ナナフシ』だ。
全長70メートル、伸ばした前足まで含めれば100メートル近い、巨大な魔物だ。
檻に見えたのは、ナナフシの体だった。
等間隔に並んでいるはずだ。生物だったんだ。
「おまえ達は休んでいろ。こいつは俺様の獲物だ」
つくも(猫)さんが舌なめずりをしている。
うん、任せよう。
「みんな、白の中に待避です。つくも(猫)さんの狩りが始まるので邪魔になります」
慌ててみんなが走って行った。ぼくもそうしよう。
「ふん、でかいだけだな」
「神装力第三権限開放 神力猫の爪」
つくも(猫)さんの神力が開放された。空気が震えている。七節型が怯えているのが分かる。
巨大な前足が振り回されている。20メートルはある大木が小枝のように舞っている。きっと、重さを軽減する魔法のようなものを使っているはずだ。
本当の魔木がなぎ倒される。
つくも(猫)さんは、ひょいひょいと避けている。
大型の嵐が通り過ぎた森のようになった。
一瞬だった。
つくも(猫)さんの鋭く伸びた猫の爪が、七節型の巨体を輪切りにしていた。
魔物は、直径80センチはありそうな巨大な魔石を残して霧散した。
「ふん、思ったよりも小さいな」
猫さんが、プンプン怒っていた。
尻尾がちぎれるんじゃないかと言うぐらい、地面に叩きつけていた。
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