寝癖
夜が明け、新しい朝が来た。目覚まし時計がけたたましい音を鳴り響かせている。樹は寝惚けながら目覚まし時計のアラームを止めて時間を確認した。時計の針は午前七時十五分を指していた。いつもならば、そのまま二度寝をして遅刻ギリギリに家を出るのだが、今日は服装検査があるので早めに起きて身支度をすることにした。とは言え樹は引っかかるような項目はない。しかし、備えあれば患いなしという諺があるので確認は怠らないようにしようと思った。
重たい体を起こし、ベッドから出てリビングへと入ると母はシンクで洗い物をしており、父は新聞を読んでいた。那由多はというとソファーに座りテレビを見ながらココアを飲んでいた。
「おはよう、母さん。顔を洗ってくるから朝食をよろしくお願いします。
樹は母にそう伝えると一度リビングから出て洗面所へと向かった。洗面所に到着し、鏡を見る。そこには酷い寝癖の樹が映っていった。樹は鏡に映った自分の姿を鼻で笑った。
顔を洗って寝癖を直すと再びリビングへと戻った。席に着くと朝食は既に用意されていた。トーストに目玉焼きとウインナーが付いていた。
樹は「いただきます」と言ってトーストを口に運んだ。すると丁度その時、父が新聞を畳んで鞄を持った。
「それじゃ、行ってくるよ」
「はい、気を付けて」
父と母の毎朝のやり取りだ。短い言葉を交わすだけなのだが、そこには何とも言えない妙な安心感というか、言葉に表現しにくい何かがあった。
父がリビングから出たのとほぼ同時にココアを飲み終えた那由多がシンクへとコップを持ってきた。
「おはよう」
「…おはようございます」
樹と那由多が交わした挨拶は父と母が見せたようなものには到底及ばなく、まるで先生と生徒の挨拶のようだった。
樹は少し呆れたような目で那由多を見た。すると、少しばかりの違和感があった。
「なぁ、なゆ。なんで今日は制服を着ていないんだ?」
那由多は朝食を食べ終えると、一回部屋に戻り制服に着替えてからココアを飲むというルーティンがあるのだが、今日は制服を着ていたかったのだ。
「今日はこの前の行事の振替休日です」
「あー、そう言えばそんなこと言ってたな。どっか遊びに行くのか?」
「いえ、今日は一日家にいますけど。…なんでそんなこと聞くんですか?」
那由多は怪訝な表情を浮かべ、質問に質問で返した。
「別になんでって聞かれても特に意味はないよ。
…ふぅ、ご馳走様でした」
樹は曖昧な返事をすると椅子から立ち上がり食器をシンクへと運んだ。
「そうですか。では、なゆは部屋に戻りますから」
そう言うと那由多はリビングから出た。
「…じゃあ、母さん。俺も今日服装検査があるから早めに出るわ。行ってきます」
「行ってらっしゃい。気を付けるのよ」
「はーい」
母との会話を済ませて樹は家を出た。




