服装検査 前
学校へ向かう道中、前方に見たことある人物が樹の視界に入った。それは露木であった。樹は露木に近付き声を掛けた。
「おはよう」
「あっ、たっくん! おはよう! 珍しいね、こんな時間に会うなんて」
露木は朝から元気のいい声で挨拶を返しニコリと微笑んだ。
「まぁ、今日は服装検査もあるし、早めに家を出ようと思ってさ。
ていうか、服装検査、面倒臭いよな。無くなったりしないかなー」
「そうかなぁ? 私は授業が無くなるから楽だけどなぁ」
「おいおい、優等生の露木さんがそんな発言して大丈夫か?」
「もう、私は優等生なんかじゃないよ。授業は面倒臭いし、友達とも遊びに行くんだよ?
それに…」
露木は足を止めた。
「ん? それに、どうしたんだ?」
「それに私も普通に恋をするんだよ! 凄く好きな人がいて、今とても楽しいの!」
露木は急に走り出し、樹を追い抜いたところで止まって振り返った。そして、またニコリを微笑んだ。
なんとまぁ、羨ましい奴がこの世界に存在しているのだろうか。きっと前世で徳を積んだ人間に違いない。…とりあえず、悠だけは無さそうだ。
そんなことを考えながら露木と談笑していると学校に到着した。
樹は下駄箱で露木と別れ、教室へと向かう。やはり昨日、今日、露木と一緒にいたからなのだろうか、あちらこちらから視線を感じる。
だいたい家がとなりなんだから仕方ない部分があるだろうが!と思いつつ教室へと入り自席に着いた。
「ふぅ、なんだかもう疲れた」
早速疲労に襲われながら、鞄の中に入っている教科書を取り出し机の中に入れた。その後はやることが無く、ボーっと外を眺めていると暑苦しい声の人物が話しかけてきた。
「おいっす! 今日も朝から黄昏てんな!」
声の方へ目をやると、そこに立っていたのは想像していた通り、悠が立っていた。昨日の呼び出しを食らった後とは大違いであった。いや、むしろ落ち込んでいる方がレアなのだ。写真に収めておくべきだったと樹は反省した。
「お前は相変わらず朝から暑苦しいな」
「樹はクール! 俺はホットだからな!
まるで北極と南極みたいな感じだろ!」
朝から一体、どんなボケをかましてくるんだ。しかし、本人はこれがボケだとは微塵も思っていない。突っ込むと一から説明をしなくてはならないので適当に肯定した。
悠としばらく話していると朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが鳴った。悠は「じゃあ、また後で」と言って自分の席に戻っていった。悠が席に戻ってから二分ほどして担任の先生が教室へと入って来た。
「おーい、日直。号令かけろー」
担任がそう言うと日直が号令をかけた。朝のホームルームが始まる。
「えー、昨日言っていた通り、服装検査があるからな。三時限目と四時限目にある。
…概ね、直してきたみたいだな。まぁ、生徒指導室に入りたくない奴はそれまでにどうにかしろよー
じゃあ、ホームルーム終わりね」
担任はそう言うと教室から出ていった。
樹はざっと辺りを見渡した。今の見た感じではクラスの九割が服装を正してきている。茶髪に染めていた谷口も生徒指導の杉谷のことを恐れて黒髪に染め直してきている。まぁ、それならば最初から染めるなと思うのだが。
その他の生徒もそうだった。クラスのギャルやイケイケ男子も優等生みたいな服装をしている。やはり、杉谷恐るべしと言ったところだった。
だが、その中でも唯一、違反している生徒がいた。髪を茶色に染め、規定シャツではなく雑貨屋で撃ってそうなTシャツを着ている猛者がいた。その姿は良く言えば、悪の組織に一人立ち向かう勇者のように見えなくもない。少なくとも樹の目にはそう映っている。
しかし、他のみんなはそいつのことを畏怖の念を抱いたような目で見ている。
一時限目が始まる前にそいつの周りには、いつものメンツが集まっていた。
「お前、すげぇな! 杉谷のことが恐くねぇのかよ!」
「バカ、恐いに決まってんだろ。
だけどよ、昨日裏神様にお願いしたから大丈夫だろ。顔は見えなかったけど、夢に出てきて『その願い、確かに聞き入れた』とか言ったから俺の願い事叶えてくれるんだよ」
「へぇ、お前もそんなの信じるんだな。
それで、どんな願い事にして、払う代償は何にしたんだ?」
「そんなもん決まってんだろ? 今日の服装検査が無くなりますようにって。
代償は金にしようと思ったんだけどさ、なんか勿体無い気がして体にしたわ」
おいおいおい、一旦落ち着け。金が勿体無いというのは、百歩譲って理解したとしよう。だが、その代わりが体というのはどういうことだ? どっからどこまでを代償として払うつもりだ? 全身が代償なのか? と話を盗み聞ぎしていた樹は心の中でツッコミを入れていた。
ここでも出てきた裏神様。噂が本当ならば、どんな願いも代償が対等であれば叶えてくれるというのならばきっと服装検査はなくなるはずだ。彼の体を代償に。
一体、どんな風に願いを叶えるのだろうか。そんな考え事をしていると一時限目の授業の開始を告げるチャイムが鳴った。




