妹
露木と別れた樹は玄関のドアノブを捻った。どうやらカギはかかっていない。誰かが先に帰ってきているようだ。大体の見当はついていた。
樹は靴を脱いで、廊下を歩き、リビングの扉を開け「ただいま」と言った。しかし、返事は無かった。
樹はリビングを見渡すとソファーに誰かが寝そべっている。音を立てないようにひっそりと近付いて、ソファーを覗き込むと、そこにいたのはそこまで伸びていない髪を後ろで縛り、部屋着を着ている女の子がうつ伏せで耳にイヤホンをしながらスマホを触っていた。その女の子は樹の妹で中学三年生の瑞泉 那由多であった。
那由多はスマホに夢中で樹に気付いていないようだった。ならば、イタズラをしてやろうと思った樹は、そっと近付きタイミングを見計らって那由多の一番弱いところ、足の裏をくすぐった。
「ひゃっ! だ、だれ!?」
驚いた那由多は可愛らしい声を上げ、飛び起きてくすぐられた足元を見た。樹と目が合った那由多は驚きの表情からまるでゴミを見るかの様な表情へと変わっていった。
「だから、いつも止めてくださいって言ってますよね? そんなことも分からないなんて人間としてどうかと思いますよ」
「そんな冷たくするなよ。兄妹同士のスキンシップだろ? それにそんな敬語なんて使うなよ」
「そんな人が嫌がるようなスキンシップを取ってくる兄と兄妹だと思いたくありません」
樹はきっぱりと物を言う那由多にショックを受け、膝から崩れ落ちた。
樹は妹と普通に仲が良い兄妹だと思っている。那由多が中学二年生までは一緒に遊びに出かけたり、怖い夢を見たからと言って一緒の布団で寝たこともある。しかし、それが三年生に上がってから反抗期になったのだろうか、急に敬語を使いだしたり、先程みたいなゴミを見るような目を向けてくるのだ。それも、樹だけに。
父や母には普通に接している。何故、樹だけそういう態度を取るのか、樹は不思議でたまらない。
心当たりがあるとすれば、今みたいに足をくすぐるか、寝起きの状態で足をくすぐるか、お風呂上りに足をくすぐるぐらいしか思い浮かばない。
一体、何がいけないんだ。と考えていると、「今、考えていること全部がダメなんです。少しは反省してください」と見透かしたように那由多は言った。
「何で分かったんだ?」
「兄妹ですから」
樹の問いに那由多は即答すると、あっかんべーをしてリビングから出ていき二階にある自分の部屋へと戻っていった。
しばらく、足の裏をくすぐるのをやめようと樹が心に固く誓ったのは言うまでもない。
今まで、樹のことを「瑞泉」と表記していたのですが、妹が登場したので、今後は「樹」表記でいきたいと思います。
最初からそうしろよ。という話なんですが忘れていました。申し訳ありません。




