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裏神様に願いを!  作者: ぞのすけ
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廃工場にて

 しばらく走ると那由果が急に足を止めた。

 「どうした?」

 「ふぅ、面倒なことになったのう」

 どうやら裏神様が那由果に憑依したようだった。

 「裏神様は相手がどんなやつなのか知っているんですか?」

 「…うむ。まぁ、ちっとばっかし厄介な相手だということは間違いない。

 とりあえず、今はその廃工場とやらまで向かうぞ」

 裏神様はそう言うと樹の手を取り、有り得ない速度で移動を始めた。

 走り出して二分足らずで廃工場まで辿り着いた。普通に走れば一時間近くかかる。

 樹は裏神様の手を振り解くように離し、廃工場内へと駆け足で入った。

 「おい! 来たぞ! どこにいやがる!」

 叫び声が廃工場内に木霊した。

 「ようやく来ましたか。正直怖気付いて来ないかと思っていましたよ」

 暗くて相手の顔が見えない。声色からして男であることは間違いなさそうだ。

 声がする方へとゆっくり近づいた。すると暗闇の中から人影が浮かび上がった。そこにいたのは執事服を着た男と学ランを着た少年の姿があった。

 話は冒頭に戻り、樹の怒気の籠った叫び声が工場内に木霊した。

 すると、バンカラな格好をした少年が口を開いた。

 「にぃちゃん、お前は運命って言葉を信じるか?」

 「…運命?」

 思いもしない言葉に樹は思わず戸惑った。

 「そう、運命だ。

 俺らが今日攫ったお嬢ちゃんは本来、にぃちゃん達が水族館に行った日に起きた事故で死ぬはずだったんだ。それが、何故か今現在も心臓は止まることなく生き続けている。

 これは、にぃちゃんら人間界、そして俺ら『天界』にとっても非常に困ることでなぁ。

 その事についてはお前さんの隣にいる神様もよぉーく分かっていることだと思うぜ」

 樹はその言葉に驚いて、那由果に憑依している裏神様を見た。裏神様は樹に一瞥もくれず、バンカラな少年を呆れたとも取れる目つきで、じっと見ていた。

 「おいおい、久しぶりの再会だと言うのにそんな怖い顔で見るなよ」

 バンカラな少年は少し笑いながら右手の子湯で眉毛を掻きながら裏神様に言った。

 「うるさい。それにあまり適当なことを抜かすでないわ。

 確かに『人間界』は困るかもしれないが『天界』はこまることではないであろう? 迎えを間違えるのは多々あるこではないか」

 「確かに、迎えを間違えることはある。だが、今回の場合は間違えたじゃ済まない話なのだよ」

 樹だけ完全に置いてけぼりを食らっている。自分だけ取り残されないようにとバンカラ少年に向けて質問した。

 「おい! 『そちら』とか『こちら』とか『迎え』ってなんだよ。ちゃんと分かるように説明しろよ!」

 バンカラ少年は面倒臭そうな目で樹を見ている。それを横目に執事服姿の男が口を開いた。

 「まず、自己紹介からと参りましょう。

 名乗り遅れて申し訳ありません。私、祓川と申します。そして、こちらは私の仕える主様の死神様であります」

 紹介されたバンカラ少年は軽く手を挙げた。

 「し、死神? なんで、死神がここに?」

 「そりゃ、仕事だからに決まっているだろ。

 祓川、続けろ」

 「はい。

 簡単に説明しますと、『そちら』とは私達人間界のことを指しています。

 『あちら』と言うのはそこにおります、死神様と裏神様等の神様がいる世界のことですね。

 …ここまでの説明で分からないことはありますか?」

 「いや、正直信じられない話だが、問題はない」

 「そうですか。

 続けますね。それで、『迎え』と言うのが私達、死神の用語で死ぬ人の魂を取りに行くことなんです。

 一般的に死神ってあまり良いイメージが無いとは思うんですけど、実際はそんなことは全然ないんですよ。…まぁ、全然と言ったら少し語弊があるのですが。

 死神の仕事は死んだ人の魂を迷わないように展開に連れて行く役割があります。それを『迎え』と呼んでいるんですよ」

 「懇切丁寧にどうもありがとうございます。

 まぁ、ある程度理解出来たよ。

 だが、露木が生きていることが『こちら』と『そちら』に困るようなことがあるんだよ」

 「それは俺が説明するよ」

 死神はそう言って祓川の前に立った。

 「さっき、お前さんに運命を信じるかって質問したのは覚えているか?」

 「…あぁ、覚えているよ。

 それが何か関係があるのか?」

 「関係しかないね。

 この世には神様はたくさんいる。我々のように死を司る神様もいれば、豊作をもたらす神様もいる。そして、お前さんの隣にいるのも神様だ。

 神様は万能ではない。一柱、一柱の足りないところを補う為にたくさんいるんだ。

 そうなると、運命を司る神様がいてもおかしい話ではないだろ?」

 死神はそう言いながら一歩ずつ近付いてくる。工場内に下駄の音と死神の声が虚しく響いていた。

 「さっき言った通り、俺らの仕事は死んだ人間、もしくは死ぬはずの人間の魂を回収するのが仕事だ。そいつが今日死ぬかどうかを決めるのは俺らの仕事じゃない」

 「…それを決めるのが運命を司る神様の仕事ってことか?」

 「そう! さすがにぃちゃん。鋭いねぇ。

 その運命を司る神様が死期を決めて俺らが回収に行くんだ。

 ただ、どうしても運命通りにいかないこともある。そちらの言葉を借りれば奇跡だ。こっちでは災いの種と呼んでいるがな。

 なんで災いと呼ばれているのかって言うと、それから先のことが狂ってしまうんだ。それが吉と出るか凶と出るのかは運命の神様しか分からない。これぞ正しく神のみぞ知るってやつだな。

 さっきも言った通り、ここにいるお嬢ちゃんはあの事故で死ぬはずだった。それは運命で決まっていたんだ。だが、奇跡が起きて死ななかった。別にその軌跡事態は悪いことじゃない。だが、お嬢ちゃんの場合は話が変わってくる」

 死神はとうとう樹の目の前に立った。背丈は妹よりも少し大きいぐらいだが、体からは溢れんばかりの威圧感が漂っていた。その威圧感に何もされていないのだが後退りをしてしまいそうになった。

 樹は額に汗を滲ませながら死神に尋ねた。

 「な、なんで露木の場合だけ話が変わってくるんだよ」

 その質問に答えたのは目の前にいる死神ではなく祓川だった。

 「たくさん人が死ぬんですよ。十や二十じゃなくて、今、地球上にいる人間の半分が。それも一年後にね」

 余りにもぶっ飛んだ回答に言葉が出なかった。それを見た死神は鼻で笑った。

 「ふっ、当然の反応だよなぁ。だが、紛れもない事実なんだよ。

 …正直なことを言うとあのお嬢ちゃんは本当は自分の寿命を全うするはずだったのさ。

 だが、そうはいかなくなった。何故ならお嬢ちゃんには『禍魂』が宿っていてね」

 「…禍魂?」

 「そう、禍魂。禍の魂と書いて禍魂。発生条件も発動条件も不明。千年単位で禍魂を持つものが現れなかったり、一年に一回のペースで出てきた利ってな感じで気分屋なんだ。

 分かっていることは禍魂が現れた時は世界に一人しか持っていないってことぐらいかな。そして、その禍魂は世界を滅ぼしかねない爆弾ってことぐらいだな。そこで眠っているお嬢ちゃんは一年後に世界の人口半分を消し飛ばす程の時限爆弾を抱えているってことなのさ。

 運命の神様は人口の半分とお嬢ちゃんの命を天秤にかけた。結果は言うまでも無くお嬢ちゃんを殺すことだった。

 考えてみてくれ。お嬢ちゃん一人の命で何千万、何億人の命が救われるんだ」

 「…ねぇだろ」

 「何だ?」

 「納得できるわけねぇだろ!!」

 「はぁ、あのなぁ、納得出来る出来ないの次元の話じゃねぇんだよ。

 …まぁ、口で言っても分からないなら実力行使でいくしかねぇな。

 まず、第一、なんでお前を呼び出したと思うか? お嬢ちゃんを殺すのが目的ならお前なんか呼び出さず、どこかで事故死にでもして殺せばいいだけの話なんだ。だけど、…おい祓川」

 死神は祓川に何か指示を出した。祓川は頷いて懐から一本のナイフを取り出した。そして、そのまま大きな箱の上に横たわっている露木に近付いた。

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