退院
裏神様と握手を交わし、手を放したタイミングで那由多が戻って来た。
「遅かったな。迷子にでもなっていたのか?」
「ち、違います! 迷っていた人がいたので場所を案内していたんですっ!」
那由多は否定して頬を膨らませながら椅子に座った。
「そっか、偉いなー」
樹はそう言うと那由多の頭を撫でた。
「もう、そんな子どもじゃないんだからやめてください。ゆかちゃんも見ているので恥ずかしいです」
那由多はそう言って撫でた手を振り払った。那由果はその様子を見て笑っている。
なんだろう、上手く説明できないのだが、今の那由果からは裏神様の気配は感じられない。憑依と言っていたからどこかに出ていったのだろうか。それとも那由果の内に潜んでいるのだろうか。
まぁ、今の那由果の漢字なら後者は無さそうだ。何かを代償に願いを叶える神様だから今もどこかで誰かの願いを叶えているに違いない。
となると、本当に妹が増えたと言うことになる。こうやって那由多、那由果と並んで座っていると全然見分けがつかない。どこか違いが無いかを探し出すことが最初の課題になりそうだ。
「そんなに見つめられると流石にキモいんだけど…」
「まさか、お兄ちゃん。…そんなことないですよね?」
二人の違いがないかを探すことに夢中になって、いつの間にか妹たちを食い入るように見つめていたようだ。
今、その妹たちから軽蔑の眼差しを向けられている。
「い、いや、違うんだ! そっくり過ぎて、違いが分からないなーって思ってさ!」
経つがそう言うと二人は驚いた表情を見せた。
「まさか、家族なのに見分けがつかないの? 露木さんでも簡単に見分けがつくのに」
「お兄ちゃん、事故で忘れちゃったんですか? 私とゆかちゃんの見分け方」
「あ、あはははー、実はそうみたいなんだ。事故ですっかり忘れちゃってさ」
いやいや、そんなわけあるか。事故も何も、つい十分前に増えた妹の見分け方なんか分かるか。大体なんで露木は見分けられるんだよ。裏神様は那由多と全く一緒の体を作ったって言っていたじゃないか。つまり、どっちも那由多だろ。見分けるもクソもあるか。
と思ったが口には出さなかった。
双子はお互いの顔を見合わせると、クスクスと笑い樹の方を見た。そして、二人とも顔を近付けてきた。
「見分け方は、目を見れば分かるよ」
そんな目を見れば分かるって、浮気した男が女にバレたときに言われる決まり文句みたいだな。とか思いながら樹は二人の目を見た。
「…うーん、目を見るって言ってもな。
…どっちも一緒じゃないか?」
「そんなはずないですよ。ちゃんと見てください」
「ほら、お兄ちゃん、よく見たら違うでしょ」
双子にそう言われたのでもう一度、よく見てみた。
「………色?」
よく観察してみれば二人の瞳の色が違うことに気が付いた。我が家はみんな黒色の瞳をしている、はず。ちゃんと確認したことは無いので確証は持てないのだが。
「正解です! 思い出しましたか!?」
「でも、時間かかり過ぎだよ。目が乾くかと思ったし」
いやいや、難易度高すぎ。こんな間違い探しどこの本に載っているんだよ。大体、双子を見分けるのに瞳の色しか違わないってどういうことだ。あれか? 後ろから声をかけようとするならば、一々、前に回り込んでから瞳の色を確認してから声かけなきゃいけないということか? 全国津々浦々にいる双子の親や知り合いはそうやって見分けているのか? いや、絶対に違うはずだ。
早速、心が折れかかり項垂れていると病室の扉が開いた。顔を上げると皿を持った露木が病室に入って来た。
「お待たせ! リンゴ剥いてきたよ!」
露木はそう言って那由多の隣にすわり、リンゴの乗った皿を樹の前に差し出した。皿に載っているリンゴは全部ウサギさんカットになっていた。そのリンゴを見て双子は目をキラキラさせている。
「ねぇ、露木さん!これ食べてもいいの?」
「私も食べたいです!」
双子は今にも飛びつきそうな勢いで露木に尋ねた。その姿はまるで「待て!」と命じられた犬の様だった。
そんな双子を見て露木はクスッと笑い、「どうぞお召し上がりください」と言った。
双子はその言葉を待っていましたと言わんばかりにリンゴに食らいついた。正確には貪り食ったという表現が正しかったかもしれない。
「おい! お前ら、俺の分も残しているだろうな!?」
遅かった。樹がそう言った時には、既に皿に載っていたウサギさんリンゴは跡形もなく消えていた。
満足そうに腹を叩く双子、皿を持ちながら苦笑を浮かべる幼馴染、ウサギさんリンゴを食べ損ねて肩を落とす樹。とても混沌とした絵図になっているに違いない。
そんなことを繰り広げていると病室の扉をノックする音が聞こえた。返事をすると病室の扉が開いて両親と医者が入って来た。登場が随分と遅い気がするが、気にしないでおこう。
それから医者といろいろ話した。今日と明日、検査をして何も異常が見つからなければ退院できるということだった。
検査で何も引っかからなければいいのだが。何せ樹は今、九割九分九厘しか人間ではないのだから。
まぁ、特別、力が強くなっている様子も無いし、何か不思議な力が湧き出てくる感じも無い。この調子だと今日と明日の検査は大丈夫そうだ。
双子は露木に連れられて先に帰った。両親は今日の検査が終わるまで一緒にいてくれるらしい。
――
―
結局、何の異常も無く検査は終わり退院の日を迎えた。退院の日は瑞泉家と露木家総出だった。とは言っても露木は学校に行っていていないのだが。
本当、色々なことがあり過ぎて困惑する一ヵ月だった。とは言っても樹は一ヵ月のほとんどは寝ていたのだが。
特に一番驚いたことは家族が増えたことだ。これからの生活は大変だろうなと樹は思いながら病院を後にした。




