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裏神様に願いを!  作者: ぞのすけ
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水族館

 本日は日曜日。樹は妹の那由多と二人で水族館へと来ていた。何故かと言うと、先日樹の部屋で見つかってしまった本を親に黙っておくことを条件に水族館に行きたいと那由多が提案してきた。どうして水族館なのかと那由多に尋ねると、無くしたキーホルダーは水族館で売られていたものらしくて同じものを買うために水族館へと足を運んだというわけだ。

 そんな前置きはさておいて、水族館へと到着した樹は入場券を買うために窓口へと向かった。

 「あの、すみません。学生二人分のチケットが欲しいんですけど」

 「はい、分かりました。

 本日は学生証はお持ちですか?」

 受付のお姉さんはアクリル板越しに尋ねてきた。樹と那由多はバッグから学生証を取り出し受付のお姉さんに見せた。

 「はい、ありがとうございます。

 学生二名様ですね。合計で千六百円になります」

 受付のお姉さんがそう言うと那由多は財布を取り出し自分の分の料金を支払おうとしたが、樹はそれを止めて那由多の分まで支払った。

 「えっ、いいの?」

 「なゆはまだ中学生だからお小遣い少ないだろ? だから、今日は兄ちゃんが払うよ」

 樹はそう言ってお金をトレイの上に置いた。受付のお姉さんは金額を確認して樹にお釣りを返すと入場券を渡した。入場券を手にした二人は水族館の中へと足を進めた。

 中に入り、エスカレーターを上ると初めに見えたのは大きな水槽の中を優雅に泳ぐジンベエザメの姿だった。その周りを大小様々な魚が泳いでいる。樹は水槽から那由多の方へ視線を移すと、とても楽しみにしていのか目を魚に負けじとキラキラさせている。

 那由多はエスカレーターが完全に上りきる前に走り出した。幸いなことに周りに人がいなかったので誰にも迷惑をかけることがなかった。

 「ほら、走ると危ないぞ」

 樹はそう言ったが那由多の耳には届いていないようで、ジンベエザメの泳いでいる水槽の前ではしゃいでいる。

 「わー! お兄ちゃん! 見て見て! ジンベエザメ! すごく大きいよ!」

 那由多は最後まで口に出してから我に返った。

 「…じゃなかった。お兄ちゃん見てください! ジンベエザメです! すごく大きいです!」

 樹は突っ込まなかった。面倒くさいというのもあったが、敬語を使うのも那由多なりの理由があるに違いないと思ったからだ。

 「おお、そうだな。本当に大きいな」

 樹はそう言いながら水槽に近付いた。しばらく水槽にいる魚たちを眺め、ふと那由多の方を見ると少し不機嫌そうな顔をしている。

 楽しくないのだろうかと樹は思った。

 「おーい、なゆ。どうかしたのか? そんな不愛想な顔をして。

 もしかして、つまらないのか?」

 樹の問いかけに那由多はハッとした顔をして首を横に振った。

 「いえ! そんなことはありませんよ! 少し考え事をしていただけです。

 ほら、早く次に行きましょう」

 那由多はそう言うと樹の手を引っ張った。樹は少し強引だなと思いながらも那由多の後に続いた。

 次のフロアに差し掛かるところで那由多は急に足を止めた。

 「おい、急に止まるなよ。ビックリするだろ」

 樹はそう言ったが那由多には聞こえていないようだった。那由多は樹の手を握ったままそのフロアを見ることなく通り抜けようとした。

 「おい、なゆ。どうしたんだ? せっかく来たんだから、ゆっくり見て回ろうぜ」

 そんな樹の言葉を無視して那由多は先へ進もうとしている。まるで、何者かから逃げようとしているようにも思えた。

 フロアの半分を通り過ぎようとした時、樹は誰かに話しかけられた。

 「あれ? もしかしてたっくん?」

 樹は聞きなれた渾名を呼ばれ、声が聞こえた方へと振り返った。すると、そこに立っていたのは露木であった。

 「あれ、露木じゃん。こんなところで何してんの?」

 「何って、水族館を見て回ってるに決まってるじゃん。私、水族館大好きだし!

 ほら、年間パスポートも持っているんだよ」

 露木はそう言って小さな鞄から水族館の年間パスポートを取り出し樹に見せてきた。

 「そう言うたっくんは那由多ちゃんと二人で水族館に来たの?」

 「まぁ、そんなところだよ。

 ほら、なゆも挨拶しとけ」

 樹がそう言うと那由多は小さな声で「こんにちは」と言った。

 「こんにちは! 相変わらず可愛いねぇ」

 露木はそう言うと那由多の頭を撫でた。撫でられた那由多は少し嫌そうにしていたが、その手を払うことなく撫でられることを受け入れていた。

 「妹と二人なんて珍しいね。もしかして、デート?」

 「ちげーよ。ちょっとした入用があって今日は水族館に来ただけだよ」

 「そうなの?

 じゃあさ、二人が良かったらでいいんだけどさ、一緒に見て回らない?」

 「俺は別に構わないけど…」

 樹はそう言って那由多を見た。那由多は少し不満そうな顔をしたが、すぐ仕方ないといった表情を浮かべた。

 「私も別に大丈夫ですよ」

 那由多がそう言うと露木は凄く喜んだ。

 「本当!? ありがとう!」

 それから、三人で水族館を回ることになったのだが、実際は樹と那由多に水族館のガイドさんが付いたという表現が正しいような感じだった。

 話を聞くところによると年間パスポートを持っている露木は毎週のように水族館に足を運んでいるらしく、魚はもちろんのこと、施設内の構造も知り尽くしている為、飽きさせることなく樹と那由多をガイドしてくれた。

 一通り見て回ると、目の前にお土産コーナーが見えてきた。那由多はそのコーナーを見るや否や「ちょっと見てきますね」と言って小走りで去っていった。取り残された樹と露木はその後に続くようにしてお土産コーナーに足を踏み入れた。

 中にはいろいろなものが並んでいる。エイのぬいぐるみやペンギンの筆箱、魚の形を模したクッキー、そして様々な種類のキーホルダーなどが置かれている。

 那由多の方を見ると那由多は必死に何かを探しているようだった。そんな那由多を見て、樹は今日水族館に来た目的を思い出した。

 それから十分少々してから三人はお土産コーナーから出た。那由多はお目当ての物が無かったようで少し落ち込んでいる。樹はそんな那由多に近付き、さっき買った物を渡した。

 「俺も探してみたけど同じものは無かったわ。

 形は違うけどお土産でやるよ。今度は無くすんじゃねぇぞ」

 樹が小さな包みを渡すと那由多の表情は明るくなった。

 「ありがとうございます!! 開けていいですか!?」

 「どうぞ」

 樹がそう言うと那由多は包みを丁寧に開けて中からジンベエザメの形をしたキーホルダーを取り出した。那由多はそれを眺めている。その顔はとても嬉しそうな顔をしていた。樹と露木は那由多の顔を見て微笑んだ。

 「お兄ちゃん、ありがとう! また水族館に連れて行ってね!」

 「おう、それじゃ、帰るぞ」

 そう言って三人は水族館を後にした。


 ――

 ―


 水族館からの帰り道、日は落ちかけて辺りは薄暗くなり始めてきた頃、樹を始め三人はさほど広くない道を並んで歩いていた。

 「いやー、しかし、なゆがあそこまで喜んでくれるとは思わなかったよ」

 「良かったね、那由多ちゃん」

 「はい! これは宝物にします!」

 三人はそんな話をしながら歩いた。本当に楽しい時間だった。

 あの瞬間が来るまでは。

 話に夢中で気が付かなかった。後ろから猛スピードで三人に近付いてきている車に。

 その車に逸早く気付いたのは露木であった。

 「危ない!!」

 そう言って二人を、いや正確に言うと二人同時に難しかったようで、樹よりも那由多の方を前方へと力一杯に突き飛ばした。

 そのお陰で那由多は間一髪のところで車との衝突を避けることができた。そして、そのまま車は露木と樹の二人に突っ込んだ。

 本当に一瞬の出来事だった。楽しい時間が一瞬にして地獄へと変わった。

 突き飛ばされた那由多はゆっくりと起き上がった。自分の身に怒ったことを理解するのに数秒を要した。そして、脳の処理速度が通常に戻り、今起きた事柄を理解すると那由多は慌てて二人の元に駆け寄った。

 「ねぇ! しっかりして!」

 露木は完全に意識を失っていた。樹も車に轢かれたが、意識は辛うじてあった。樹は薄れゆく意識の中で那由多に話しかけた。

 「…よ、よかった…

 怪我はねぇか…?」

 「私は大丈夫だよ! それより二人が!」

 那由多が大丈夫だということを確認できたことで安心した樹はそこで意識を失った。

 那由多は兄を抱きかかえながら泣き叫んだ。

 遠くから聞こえる救急車のサイレンが少し肌寒い夕暮れ時に鳴り響いていた。

次回、とうとう裏神様が登場します。どうぞ、よろしくお願いします。

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