第26話『文化祭⑧-チーム対抗混合リレー-』
体育祭の残りの種目はチーム対抗混合リレーのみとなった。
男子リレーと女子リレーで熱い戦いが繰り広げられたのもあり、会場は今日一番といっていいほどに盛り上がっている。俺が卒業した小学校や中学校でも最終種目はチーム対抗のリレーで、毎年とても盛り上がっていたな。
ただ、今まではチーム対抗リレーは見る側だった。まさか、出場する側になる日が来るとは。
「悠真君! リレー頑張ろうね!」
「ああ、頑張ろうな!」
「うんっ! ……おまじないのキスをしていい?」
「もちろんさ。俺にも頼む」
「分かった!」
結衣は俺のことをぎゅっと抱きしめて、俺におまじないのキスをしてきた。
結衣がいい走りができますように。結衣と唇が触れる中で俺はそう強く願った。
これまでにお互いにしてきたおまじないのキスよりも長い。今回は双方で勝利のおまじないをしているからかな。
少しして、結衣の方から唇を離した。目の前には持ち前の明るい笑みを浮かべる結衣がいた。そんな結衣を見て、結衣は大丈夫だと思えた。また、今の結衣を見て、もうすぐリレーが始まることの緊張が和らいだ。
「お互いにおまじないをかけるから、長めにキスをしました」
「そういうことか。……結衣のおまじないのおかげで頑張れそうだ」
「私も頑張れそうだよ」
結衣はニコッと笑った。
「おっ、混合リレーのみんないた」
青チームのチームリーダーである青海先輩が俺達のところにやってきた。
「本部に聞いたら、女子リレーが終わった段階でうちらは1位だよ。ただ、2位の赤チームはうちと僅差だから優勝の可能性は残っているの。緑チームと黄色チームには優勝の可能性はないよ。だから、うちらか赤チームのうち、混合リレーで上位になった方が優勝になるよ」
と、青海先輩が説明した。
つまり、どんな順位であれ、混合リレーで赤チームに勝てば優勝できるのか。
「了解だ。青チーム、優勝目指して最後の混合リレー頑張ろう!」
混合リレーに出場する3年生の男子生徒が力のこもった声で鼓舞した。
『おー!』
結衣や俺を含め、混合リレーのメンバーは声を揃えて大きく返事した。
「悠真君、頑張ろうね。パトン渡しに行くから」
「ああ、待ってるぞ」
俺はそう言って、右手を握りしめた状態で結衣に突き出した。
結衣はニッコリと笑って、俺にグータッチしてきた。
結衣は走る順番が奇数であるメンバーと一緒にスタート地点のある方へ向かった。俺は順番が偶数であるメンバーと一緒に、スタート地点の反対側へ。
「結衣、低田君、そして青チーム頑張ってください! 全力で応援するのです!」
「結衣ちゃん、低田君、頑張ってね! 青チームのみんなもみんなで応援してるから!」
「赤チーム頑張ってください! あと、ゆう君と結衣ちゃんも頑張って!」
「赤チーム頑張れー! 悠真と高嶺ちゃんも頑張って!」
レジャーシートのうちのクラスのエリアから、伊集院さん、福王寺先生、胡桃、中野先輩が声援を送ってくれる。クラスメイトも「頑張れ!」「応援してるよ!」と言ってくれて。また、
「ユウちゃん! 結衣ちゃん! そして、青チーム頑張って!」
「悠真! 結衣ちゃん! 青チーム頑張って!」
「悠真も結衣さんも頑張って」
「結衣、悠真君、頑張ってね! 青チームのみなさんも!」
「結衣、低田君、青チームのみなさん頑張って」
俺の家族と結衣の御両親をはじめとした来場者達も、来場者の応援スペースから声援を送ってくれる。
「ありがとうございまーすっ! 頑張りまーすっ!」
という結衣のとても大きな返事が聞こえてきた。
「ありがとうございます! 頑張ります!」
うちのクラスの方や来場者の応援スペースの方を向いて俺も返事した。
これだけ多くの人達が応援してくれているんだ。青チームが優勝できるように、リレーメンバーの一人として頑張らなければ。赤チームよりも先にゴールするぞ!
『お待たせしました! いよいよ、最終種目であるチーム対抗混合リレーを行ないます! この種目で今年の体育祭の勝敗が決まります!』
放送委員会の女子生徒によるアナウンスで、会場の熱気はより増していく。
スタート地点を見ると、バトンを持った各チームの第1走者がスタート地点に立つ。青チームと赤チームは男子、緑チームと黄色チームは女子か。そして、
――パンッ!
スターターピストルの音が鳴り響き、チーム対抗混合リレーがスタートした。
『最終種目のチーム対抗混合リレーがスタートしました!』
最終種目だけあって、始まった直後から会場が盛り上がる。
男子だからなのか、青チームと赤チームがトップ争いをしている。その少し後ろで緑チームと黄色チームが3位争いをしている。ただ、各チームとも男女6人ずつの計12人構成だし、女子でも結衣のようにかなり足の速い生徒もいる。今後どうなるかは分からない。
青チームと赤チームはほぼ同時で、第1走者から第2走者にバトンが渡る。両チームとも男子から女子だ。
その直後に緑チームと黄色チームもほぼ同時で第1走者から第2走者にバトンが渡った。両チームとも女子から男子だ。それもあり、この2チームが前を走っている青チームと赤チームに迫っていく。その結果、4チーム全てがほぼ同時で第3走者にバトンが渡った。
走る順番について、性別を含め特に制約はない。それもあって、中盤あたりまでは全チームで頻繁に順位が入れ替わる。
ただ、終盤に入って、戦局が変わった。
『赤チームが他のチームとの差を広げています!』
そう。赤チームがトップになり、他の3チームとの差を広げ始めたのだ。
青チームは緑チームと黄色チームと2位争いを繰り広げている。優勝のためには赤チームに勝たなければいけないのに、赤チームとの差をなかなか縮められない。
全てのチームが第10走者にバトンが渡ったので、俺を含めアンカーである生徒達がトラックに出る。ちなみに、赤チームのアンカーは男子生徒だ。
「低田君、頑張ってください!」
「頑張ってね、低田君!」
「ゆう君、応援してるよ!」
「悠真、頑張ってね!」
トラックに出たからか、伊集院さん、福王寺先生、胡桃、中野先輩がそう声を掛けてくれる。体育祭実行委員の岡崎や鈴木さんを中心にクラスメイトの多くも「頑張って」と言ってくれて。嬉しいな。
「ああ、頑張るよ!」
俺はうちのクラスの方に向かって手を振った。
リレーを見ると……あっ、赤チームがアンカー前の第11走者の女子生徒にバトンが渡った。
青チームは……第10走者の3年生の女子生徒が奮闘して、単独2位になっている。2位のまま、第11走者である結衣にバトンが渡った!
『おおっ!』
結衣に渡った直後、大きな歓声が沸き起こる。
部活動対抗リレーのように、結衣はとても速いスピードで1位を走る赤チームの女子生徒との差をグングン縮めてきているのだ。
「結衣! 頑張れ!」
俺は今日一番と言える大きな声で結衣に声援を送る。
「結衣ー! 行くのでーす!」
「結衣ちゃんその調子! 頑張って!」
「結衣ちゃん凄いよ! 頑張って! 赤チームも!」
「さすがは高嶺ちゃん! 赤チームも高嶺ちゃんも頑張って!」
「結衣! 頑張って! 赤チームの子を抜けるわ!」
「いい走りをしているよ、結衣!」
伊集院さん、福王寺先生、胡桃、中野先輩、結衣の御両親を中心に俺の知っている人の応援の声が響き渡る。
応援が結衣を後押しできたのだろうか。結衣はコーナーを回りきったところで、1位の赤チームの生徒を抜いた。結衣、凄いな!
俺は前を向く。結衣が「ゴー!」と言ったら走り出し、「はい!」と言ったら右手を出してバトンを受け取ることになっている。これまで何度も練習してきたので、きっとバトンパスできるはずだ。
「ゴー!」
結衣の声が聞こえた! 俺は勢い良く走り始める。
「はいっ!」
結衣のその言葉を合図に俺は右手を後ろに出した。その直後、俺の右手には固い物が触れたのが分かった。大きく手を振り、視界に青いバトンが入ってくる。ちゃんとバトンパスできたな。
『青チームが最初にアンカーにバトンが渡りました! そして、その直後に赤チームもアンカーにバトンが渡りました!』
実況もあって、会場はより一層盛り上がる。
「うおおっ! 青チームに負けねえぞ! 優勝するんだ!」
後ろから男子生徒のそんな雄叫びが聞こえてくる。今の言葉や戦況からして、言っているのは赤チームのアンカーの男子生徒だろう。
「俺だって負けない!」
最初の種目の100m走から青チームみんなで得点を積み重ねたおかげで、このリレーで赤チームに勝てば優勝できるんだから! 混合リレーのみんなが繋いできて、結衣が渡してくれたこのバトンを持って1位でゴールするんだ! 優勝するんだ!!
「低田君! その調子なのです! 頑張るのです!!」
「低田君もいいよ! その調子で頑張って!!」
「ゆう君かっこいいよ! ゆう君も赤チームも頑張って!!」
「悠真速いね! 悠真も赤チームも頑張れっ!!」
「ユウちゃん速くてかっこいいよ! ユウちゃんなら1位でゴールできるよ! 頑張って!!」
「悠真! 頑張って!」
「悠真、頑張れ!」
たくさんの人達が応援しているのに、友人や先生や家族やクラスメイト達の応援する声がはっきりと聞こえてくる。そして、
「悠真君、頑張って! 悠真君なら1位でゴールできるよ! 頑張って!!」
結衣の声が一番はっきりと聞こえてきた。
その瞬間に体が軽くなった感じがして。体がどんどん前に進んでいく感じがして。
俺の視界には他のチームの生徒の姿は見えない。赤チームとの差がどのくらいなのかは分からない。
俺は持てる全ての力を出して、ゴールに向かって必死に走り続けた。
ゴールに張られたゴールテープに段々近づいていき……そして、俺の体でテープを切った。
『ゴール! 青チームが1位でゴールしました!』
『わああっ!』
ゴールを少し過ぎたところで、そんなアナウンスと割れんばかりの大歓声が響き渡った。そのことで1位になれたことの喜びがこみ上げてきた。
「1位で……ゴールできたんだな……」
俺はゆっくりと立ち止まり、そう独り言ちた。
結衣を含めたリレーメンバーの頑張りや、みんなの応援や結衣のおまじないのおかげもあって1位になれたんだと思う。
トラック半周だけど、全力で走ったから息苦しい。結構疲れたな。ただ、1位でゴールできて、青チームの優勝を決められたからこの疲れが心地いい。
深呼吸をして息を整えた直後、
「悠真君、やったね! 1位だよ!」
結衣が嬉しそうな笑顔で俺のところに走ってきて、その勢いのまま俺に抱きついてきた。勢いがかなりあるし、走った疲れもあるから危うく倒れそうになるけど、何とか耐えた。
結衣のことを抱きしめて、至近距離で結衣の笑顔を見る。結衣の笑顔が可愛いし、結衣の温もりや柔らかさや汗混じりの甘い匂いが心地いい。そのおかげで、走った疲れがいくらか和らいだ。
「悠真君、速かったね! かっこよかったよ!」
「ありがとう。みんなの応援とか結衣からのおまじないとかもあって、速く走れたよ。結衣も速かったな」
「私も応援や悠真君からのおまじないのおかげで速く走れたんだよ。ありがとう。お礼にキスするね!」
「ああ、俺もキスする」
お互いに顔を近づけて、俺達はおまじないのお礼のキスをした。
今日はこれまでに何度もおまじないとかそのお礼のキス、それ以外では借り物競走とかでキスをたくさんしてきた。だけど、今のキスが一番気持ち良くて嬉しい気持ちにさせてくれる。青チームの優勝が決まったからだろうか。勝利の美酒的な感じで。
数秒ほどして、結衣の方から唇を離した。目の前には結衣のとても嬉しそうな笑顔があって。そのことで胸にある嬉しい気持ちが膨らんでいく。
その後、混合リレーの青チームのメンバーが俺達のところにやってきて、喜びのハイタッチを交わした。
『チーム対抗混合リレーは1位青チーム、2位赤チーム、3位黄色チーム、4位緑チーム! これにより、今年の体育祭の優勝チームは青チームになりました!』
放送委員会の女子生徒によって最終結果が発表され、会場は拍手に包まれた。
「低田君、かっこよかったのです! 結衣も凄くいい走りでした! 1位にしてくれてありがとうございます!」
「低田君も結衣ちゃんも凄くいい走りだったよ! チームを優勝に導いてくれてありがとう!」
「ゆう君も結衣ちゃんも凄かったよ! 青チーム優勝おめでとう!」
「悠真も高嶺ちゃんも速くて凄かったね! 青チームに負けたよ! 青チーム優勝おめでとう!」
伊集院さん、福王寺先生、胡桃、中野先輩は結衣と俺に称賛の言葉を送ってくれた。あと、胡桃と中野先輩は朝に宣戦布告をしていたから、今の言葉は敗北宣言ってことかな。
クラスメイトからも「よくやった!」とか「1位凄い!」といった声が聞こえてきて。みんなとても嬉しそうで。1位でゴールしたからこそ、みんながここまで嬉しそうになれているのだろう。そう思うと本当に嬉しい。
「ユウちゃん、結衣ちゃん、かっこよかったよ! 1位でゴールしたユウちゃん最高! 青チーム優勝おめでとう!」
「悠真、結衣ちゃん、とってもよかったよ! 青チーム優勝おめでとう!」
「悠真、結衣さん、いい走りだったね。優勝おめでとう!」
「結衣も悠真君も凄く速かったね! 悠真君は本当にかっこいいね! 青チーム優勝おめでとう!」
「結衣も低田君もよく頑張ったね。優勝おめでとう!」
「悠真君も結衣ちゃんも速かったよ! 芹花ちゃんの言うように1位でゴールした悠真君かっこよかったね! 青チーム優勝おめでとう! 金井高校の体育祭面白かった!」
「結衣ちゃんと低田君、本当に速かったわ。青チーム優勝おめでとう!」
俺の家族と結衣の御両親、月読さん、伊集院さんの母親の華子さんが称賛の言葉を送ってくれる。嬉しいな。芹花姉さんは凄く喜んでいるし。
「結衣ちゃんと低田君、さすがだったね。青チーム優勝おめでとう! 胡桃と千佳ちゃんのいる赤チームお疲れ様!」
「胡桃と千佳ちゃんの赤チームは頑張っていたわね。お疲れ様! 青チーム優勝おめでとう!」
「千佳、胡桃ちゃん、赤チームのみんなお疲れ様! 低田君、結衣ちゃん、姫奈ちゃん、青チームのみんな優勝おめでとう!」
胡桃のお姉さんの杏さん、胡桃の母親の夏芽さん、中野先輩の母親の穂南さんも青チームに称賛の言葉を言ったり、赤チームへの労いの言葉を送ったりした。それにも嬉しい気持ちになる。
「みなさん、応援ありがとうございました!」
結衣はうちのクラスや来場者の応援スペースに向かって、とても大きな声でお礼を言った。
「応援ありがとうございました!」
結衣に倣って、俺もとても大きな声でお礼を言った。
アンカーとして走って1位でゴールできて、青チームを優勝することができて本当に良かった。結衣と一緒に混合リレーに出場して良かった。結衣達の笑顔を見ながら俺はそう思った。




