女料理長とカボチャ
さて、私が貧しい人たちがトウモロコシをおいしく食べられるようにするにはどうすればいいかいろいろ考えていたところ、ヨハン様が大勢の女性を連れて部屋にやってきました。
「彼女たちは今日から君に仕えることになる者たちだ」
まずはそのうちの一人が私に向かって挨拶をしてくれました。
「迷い鳥たるユーリ様にご挨拶申し上げます。
本日より女家庭教師として働かせていただきますマリアです。
どうぞよろしくお願いいたします」
片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、両手で裾をつまみながら、背筋は伸ばし、目線を外さぬようにあいさつをするカーテシーを行いながら彼女はそういった。
西洋においては日本のように頭を下げて目線を外すのは失礼に当たるんでしたっけ?
「あ、は、はい、こちらこそ、よろしくお願いいたします。
ところで私はどのようなことを教わるのでしょうか?」
「はい、私のお教えすることはドイツ語にラテン語とギリシア語の読み書きや基本的な計算、家事の基本、舞踊、刺繍、詩作、詩吟、絵画に楽器の演奏と礼儀作法などになります」
「家事の基本ですか?
料理や掃除なら一通りはできますが」
「家事の内容は家政婦長を通じて使用人たちに掃除、洗濯、糸紬、機織り、服飾、刺繍などの指示を出すことです。
ご自分でやる必要はございません」
「あ、そうでしたか」
「楽器に関してはハープ、リュート、レベック、ヴァイオリンやヴィオラなどの弦楽器にオルガンやクラヴィコード、チェンバロなどの鍵盤楽器、フルートのような管楽器などですね。
必要であればトランペットやトロンボーンなども覚えていただきます」
「随分と多いのですね」
でもまだこの時代にはピアノがないのでまだましですよね。
「それはもちろんです」
これは大変そうです。
「迷い鳥たるユーリ様にご挨拶申し上げます。。
私は迷い鳥様の女相談役のイサベル・デ・アウストリアです。
どうぞよろしく」
彼女がそういうとヨハン様が付け加えました。
「この方はカール様の妹君で、フェルディナンド様の姉君に当たられる。
いろいろあり現状は未亡人であられる」
「な、なるほど、イザベル様には何を教わるのでしょうか」
「主に諸外国の名前や外交と社交についてでございます。
当面はあなた様につきしたがって話し相手となり、社交や外交の場において、位の高い人々にたいしての名代として、あなたを印象づける役割をやらせていただきます」
「ひぃ、そんなことを私が?」
「はい」
私はただの一般人なのですけど……いつの間に社交だの外交だのに関わることになっていたのでしょうか?。
「また、お着替えや衣服や宝飾品の管理など身の回りの世話をする私室付き女官(侍女)は4名となります」
ヨハン様がにこやかにそういいますが……。
「お、多くはありませんか?」
「いえいえ、これくらいは必要でしょう。
その他には家事を統括する家政婦長とその下に宮女(使用人)として、部屋の清掃担当、廊下の掃除担当、洗濯担当、糸紬担当、機織り担当、裁縫担当などがいます」
「迷い鳥たるユーリ様にご挨拶申し上げます。
家政婦長のアレクシアでございます。
どうぞよろしくお願いいたします」
「またそれとは別に女料理長が統括し、それを補佐する副料理長、食材の調達係・燃料の調達係・食糧庫番・燃料庫版・魚料理係・肉料理係・温製前菜係・冷製前菜係・スープ係・パン係・菓子係・ソース係・飲料係・屠殺係・切り分け係・給仕係・搾乳婦・皿洗い係などを統括します」
「迷い鳥たるユーリ様にご挨拶申し上げます。
女料理長のローザリンデです。
どうぞよろしくお願いいたします」
「私一人の料理のためにそんなに?!」
「当然です。
貴方は大切な迷い鳥様なのですから、待遇としては皇帝・皇妃に匹敵いたしますので」
なんだかとても大ごとになってきました。
あ、でも女料理人のローザリンデさんに相談すればトウモロコシのレシピやそれを調理するための調理器具も増やせるかも。
そういえば新大陸原産の作物にはかぼちゃもありましたよね。
「あ、ローザリンデさん。
かぼちゃってここで手に入りますか?」
私がそう聞くとローザリンデさんは首をかしげました。
「手に入ると思いますが、私は庭師ではないので詳しくございません」
「あ、なるほど、そうでしたか。
かぼちゃは美味しいですし。
美容にもよいですからね。
かぼちゃは野菜の中では糖質や脂質が多いためカロリーが高く、ビタミンやミネラルが豊富で、特にかぼちゃに含まれるビタミンEの含有 量は野菜の中ではトップクラス。
ビタミンEの持つ抗酸化作用により細胞を若く保てるはず。
そのようにかぼちゃは栄養価の高い野菜ですが、そういえばこの時期はジャガイモやトマト同様にかぼちゃも観葉植物なんでしたか。
かぼちゃは煮てもおいしいですし、かぼちゃの皮を利用したシチュやグラタンにもでき、かぼちゃサラダにもできます。
そういったおかずではなくパンプキンパイやケーキに練りこんでデザートにしてもおいしいですし、かぼちゃのスープもおいしいですよね。
とはいえ苦みのある有毒なかぼちゃもあるから注意は必要ですが。
じゃがいもやトマト同様にすぐに食用として栽培されなかったのは毒のあるかぼちゃのせいでしょうね。
ちなみに果実の姿はキュウリ、食感はナスにも似ているズッキーニは実はかぼちゃの仲間です。
「あ、今は実が取れる季節ではないですよね。
かぼちゃはおいしいので秋になったら、ぜひ料理させてほしいのですが」
「は、はあ、承知いたしました」
料理の見識が深い人がいるのは心強いですが、農民の料理については知ってはいないような気はしますね。
そういう点ではあの人形を売っていた女の子の家に行って、実際の調理や食事の風景を見てみたいですが、たぶん難しいでしょうね。
というわけで今回はかぼちゃですね。
ハロウィンに使うジャックオーランタンも、もとは蕪を使っていたとか。