ワラキアとクロアチアへの呼びかけ――食卓から始める協力
ロードス島への援軍準備と並行して、私はワラキアとクロアチアへの働きかけを進めることにした。
船や物資の手配だけでも大仕事だが、オットマンの脅威を考えれば、海上の対応だけで済ませるわけにはいかない。ハンガリーと連携し、その周辺でも協力してくれる相手を増やせれば、オットマンが自由に兵力を動かすのを妨げられる可能性がある。
私はガッティナーラとマルク伯、ローザリンデを交えて、具体的な方針を相談した。
「ワラキアには、ドナウ川方面の情勢について情報交換を申し入れたいと思っています。いきなり参戦してほしいと頼むのではなく、軍の動きや国境付近の情報を共有してもらうところから始めたいんです」
私が地図の上でワラキアの位置を指し示すと、ガッティナーラは頷いた。
「それが現実的でしょう。ワラキアはオットマンとの関係を無視できません。こちらへの協力が明らかになれば、報復を受ける危険もありますからな」
「向こうにも、こちらと情報を交換する利点はあると思います。ただ、どこまで協力できるかは、相手の事情を聞いてみないとわかりませんね」
私はそう答え、今度はクロアチアの位置に目を向けた。
「クロアチアについては、ハンガリーとの関係を通じて働きかけるのがよいでしょう」
ガッティナーラが地図の西方を指した。
「現地のバンや有力貴族に、国境防衛や偵察体制の強化について相談するのです。国境付近の情報を共有し、オットマンの動きを早めに察知できれば、こちらにとっても利点があります。ただし、実際に兵を増やすとなれば、食料や装備、給金も必要になります」
「まずは、どんな協力が可能なのかを聞き、必要な支援についても確認するわけですね」
「ええ。最初から大きな約束をするのではなく、相手の事情に合わせて条件を詰めるべきでしょう」
「こちらが何を提供できるかも、整理しておきましょう」
ローザリンデが手元の紙を引き寄せた。
「食料や資金など、支援できるものがあるかどうかを調べておけば、交渉の際にも話を進めやすくなります。ただ、ロードス島への援軍もありますから、何でも約束するわけにはいきませんね」
「そうだね。まずは相手の希望を聞いて、こちらにできることを考えよう」
ロードス島への援軍だけでも、船や物資をどれほど確保できるか、まだ具体的な数字は出ていない。ほかの勢力への支援まで安請け合いするわけにはいかなかった。
「では、ワラキアには直接書状を送り、クロアチアについてはハンガリーを通じて協議を申し入れましょう」
ガッティナーラは二つの書状に記す内容を整理した。ワラキアにはオットマンの動向に関する情報交換を、クロアチアには国境防衛と偵察体制の強化を軸に、具体的な協力の可能性を探りたいと伝える。どちらにも、いきなり軍事同盟への参加を要求するような内容にはしなかった。
皇帝カールの承認を得て、ワラキアへの書状と、ハンガリーを通じたクロアチアへの協議要請が正式に送られることになった。
*
それから数週間が経った。
ロードス島への援軍については、港や船の状況を調べる作業が続いていた。物資の調達も進めているが、具体的な兵力や船の数を決めるには、まだ検討が必要だった。
そんな中、ワラキアから返書が届いた。
帝国からの情報交換の申し入れを歓迎し、ドナウ川方面の情勢について話し合う用意があるという。ただし、軍事同盟への参加や公然とした対オットマン行動については、すぐには約束できないとも書かれていた。情報交換についても、その内容や扱いには慎重を期したいという意向が添えられている。
「まずは話し合いに応じてもらえそうですね」
返書を読んだローザリンデが、安堵したような表情を向けた。
「うん。最初から全面的な協力を求めたわけじゃないからね。これなら、次の話し合いにつなげられそうだ」
ガッティナーラも書状を確認し、頷いた。
「ワラキアにとっても、こちらと情報を交換することには利点があります。オットマンの動向を知ることができれば、自国の防衛を考えるうえでも役立つでしょう。ただし、こちらとの情報交換がオットマンに知られれば問題になる可能性もあります」
「それなら、共有する情報の範囲や扱い方を最初に確認した方がよさそうですね」
「ええ。こちらが提供できる情報も整理しておきましょう。一方的に情報を求めるだけでは、長続きしませんからな」
その数日後、クロアチアについても返事が届いた。
ハンガリー側が仲介してくれた結果、現地のバンや有力貴族たちは、国境付近の警戒と情報交換について話し合うことに前向きな姿勢を示したという。
一方、実際に国境の守備を強化するには、兵だけでなく食料や装備、給金も必要になる。そのため、具体的な防衛計画を立てる前に、帝国側がどのような支援を用意できるか相談したいとのことだった。
「こちらも、話し合いには応じてもらえそうですね」
ローザリンデが書状を読みながら言った。
「ただ、国境を守る兵を増やすとなると、食料や武器だけでなく、給金も必要になるでしょう。どこまで支援できるかを考えなければなりませんね」
「そうだね。国境の警戒を強めてもらえるなら、協力する意味は十分にあると思う。でも、こちらにもロードス島への援軍がある。支援できる範囲は慎重に考えないと」
私は地図の上で、ハンガリーからワラキアへ続く線と、クロアチアの国境地帯を見比べた。
ワラキアとはドナウ川方面の情報交換を始められそうで、クロアチア側も国境防衛について協議する意思を示している。どちらも今すぐ大軍を動かすという話ではないが、オットマンの動きを把握し、こちらが対応できる時間を増やすという意味では前進だった。
「次は、双方との協議に向けて準備を整えましょう」
ガッティナーラが二通の書状を並べた。
「ワラキアとは、どのような情報を共有できるのか。クロアチアについては、国境防衛に必要な物資や費用をどこまで支援できるのか。それぞれ具体的に話し合う必要があります」
「ええ。まずは相手が何を必要としているのかを確認して、こちらが約束できる範囲を決めましょう」
私は頷いた。
ワラキアとの情報交換なら、兵や物資を直接動かさずに始められる可能性がある。一方、クロアチアの国境防衛を実際に強化するとなれば、費用や物資の支援が必要になる。どちらも協力を得る意味はあるが、こちらが負担するものは同じではなかった。
ローザリンデが、机の脇に置いていた物資の一覧を広げた。
「ロードス島への援軍に必要な物資も、まだ確定していないのですよね。クロアチアへの支援を考えるなら、全体でどれだけ余裕があるのかを確認した方がよさそうです」
「そうだね。船や兵の数だけじゃなく、運ぶ食料や水、それに医薬品も考えないといけない。クロアチアへの支援を約束してから、こちらの分が足りなくなるようでは困るからね」
私は地図の横に置かれた物資の一覧に目を落とした。
結局のところ、国が豊かであれば、選べる手段も増える。兵を養い、船を用意し、周辺国を支援するにも、その土台には食料と資金が必要になる。
農業が発展して食料に余裕が生まれれば、備蓄に回すこともできる。余剰が増えれば交易や税収を通じて国の富を増やすことにもつながり、外交や国防で選べる道も増えるだろう。
農業の発展は、ただ民の暮らしを豊かにするだけではない。国を支える力そのものを増やすことにもなるのだ。
そこで、私は以前から考えていた新大陸の作物を思い出した。
「そういえば、トウモロコシやジャガイモ、サツマイモを使ってみるのはどうだろう」
「その作物を、ですか?」
ローザリンデが不思議そうに首を傾げた。
「うん。食料の種類を増やせれば、いざというときに助かるはずだ。もちろん、どこでも育つとは限らないし、すぐに大量に収穫できるわけでもない。でも、試しに育ててもらうことはできると思う」
「もし、その土地に合う作物が見つかれば、食料の確保にも役立ちそうですね」
「そう。まずは料理にして食べてもらい、どんな作物なのか知ってもらう。そのうえで、栽培用の種や芋を渡して、試験的に育ててもらうのはどうかな」
ローザリンデは物資の一覧を見直してから、微笑んだ。
「それなら、外交の席で実際に料理を出してみるのもよさそうですね。食べたことのない作物でも、おいしさや使い方がわかれば、興味を持ってもらえるかもしれません」
「それはいいね。ただ、他国に提供するとなると、僕の一存では決められない。皇帝に相談しないと」
農業振興に役立つからといって、帝国が保有する作物を勝手に他国へ渡していいわけではない。提供する量や相手、栽培方法をどこまで教えるかも、決めておく必要があるだろう。
私はガッティナーラとマルク伯に相談したうえで、皇帝カールに提案することにした。
*
皇帝カールへの説明の席には、フェルディナントとガッティナーラ、マルク伯も同席していた。
「陛下、ひとつ提案があるのですが、新大陸の作物をワラキアやクロアチアにも提供してはどうでしょうか」
私がそう切り出すと、皇帝カールは眉を上げた。
「新大陸の作物を、他国へ渡すというのか?」
「はい。もちろん、陛下のお許しが必要なのはわかっています。ただ、いつまでも帝国だけで独占できるものでもないと思うんです」
マルク伯が、隣で小さく身じろぎした。
「なぜそう考える?」
皇帝に問われ、私は地図の上に目を落としながら答えた。
「商人や船乗りが行き来する以上、いずれ種や芋は外へ出ていくでしょう。誰かが持ち帰り、別の土地で育て始めれば、そこからまた広がっていく。すべてを管理するのは難しいと思います」
「渡り鳥殿……」
マルク伯が低い声で私を呼び、胃の辺りに手を当てた。
けれど、私は構わず続けた。
「だったら、こちらが先に栽培方法を確立し、どの土地に合うのかを調べた方がいい。うまく育つ土地がわかれば、食料を増やせます。周辺国にも広めれば、こちらとの関係を深めることにもつながります」
皇帝カールは私の顔を見つめ、それからガッティナーラへ視線を移した。
「つまり、新大陸の作物を独占するより、普及を主導する方が利益になると?」
「そういうことです。どうせ広まります。だったら、こちらが先に育て方を確立して、周囲に広めた方が得だと思います」
「渡り鳥殿、もう少し言い方というものを……」
マルク伯がとうとう胃を押さえたまま口を挟んだ。
「でも、間違ったことは言っていませんよね?」
「そういう問題ではありません!」
思わず声を上げたマルク伯だったが、皇帝カールの視線に気づくと、慌てて口を閉じた。
フェルディナントは口元を押さえ、ガッティナーラは咳払いをしている。皇帝カールも、わずかに笑みを浮かべていた。
「確かに、いつまでも独占できるとは限らぬな。だが、他国へ提供するのであれば、どのように進めるつもりだ?」
「まずは帝国内で試験栽培を進め、周辺国にも少量を渡して実際に育ててもらいます。トウモロコシは種を、ジャガイモは栽培用の芋を。サツマイモも、育苗に使える材料を用意します。ただし、いきなり大量に渡すのではなく、小さな畑で育ててもらい、収穫量や土地との相性を確かめたいです」
「栽培に成功すれば、食料事情の改善につながるかもしれぬということか」
「はい。国が豊かであれば、選べる手段も増えます。食料に余裕があれば兵を養えますし、備蓄にも回せます。周辺国を支援する余力も生まれます。農業を発展させることは、結局、帝国の力を増やすことにもつながるんです」
私は皇帝に向き直った。
「もちろん、作物を渡しただけで豊かになるわけではありません。実際に育てて、どの土地に合うのか、どれほど収穫できるのかを確かめる必要があります。それでも、試す価値はあると思います」
ガッティナーラが考え込むように顎へ手を添えた。
「栽培に成功する土地が増えれば、食料事情の改善につながる可能性はありますな。各地での試験結果を共有できれば、どの作物がどの地域に適しているかを知る助けにもなるでしょう」
皇帝カールはしばらく黙って地図を見つめていたが、やがて顔を上げた。
「よかろう。まずは帝国内での試験栽培を進めよ。そのうえで、ワラキアとクロアチアへの提供についても認めよう。ただし、提供する量や条件は慎重に決めることだ。試験栽培の結果も、必ず報告させよ」
「ありがとうございます」
私は頭を下げた。
「それから、今後ほかの国へ提供する場合も、勝手に決めるのではなく、改めて相談するように」
「承知しました」
こうして、新大陸の作物を外交の場で紹介し、栽培用の種や芋を少量提供する方針が認められた。
隣では、マルク伯がまだ胃の辺りを押さえていた。
「……渡り鳥殿は、どうして毎回、そのような言い方をなさるのですか」
「え? どうせ広まるなら、こちらが先に動いた方がいいと思っただけですよ」
「だから、その言い方です!」
マルク伯の声が再び部屋に響いた。
*
ワラキアとクロアチアの使節を迎えた会談の日、私は皇帝の許可を得て、本題の協議に先立ち、小さな会食の席を設けてもらった。
正式な交渉では、情報交換や国境防衛への協力、必要な支援について話し合う予定だった。だが、その前に食卓を囲み、互いの距離を少しでも縮められれば、話もしやすくなるだろう。
ローザリンデと料理人たちには、私が用意したトウモロコシ、ジャガイモ、サツマイモを使った料理を作ってもらった。
最初に運ばれてきたのは、トウモロコシ粉を煮込んだ粥だった。黄金色の粥には塩と少量のバターを加え、肉料理にも合うように仕上げてある。さらに、トウモロコシ粉を使って焼いた薄いパンも添えた。
「こちらは、海の向こうから伝わった作物を使った料理です。まずは、召し上がってみてください」
私が勧めると、使節たちは互いに顔を見合わせたあと、匙を手に取った。
「ほう。見たことのない色の粥ですな」
ワラキアの使節が粥を口に運び、少し驚いた顔をした。
「見た目は珍しいですが、穀物の粥と同じように食べられますね。こちらのパンも香ばしい」
「トウモロコシという作物です。粉にして粥やパンにできますし、育て方が合えば、食料として利用できる可能性があります」
「小麦とは違うのですか?」
クロアチア側の使節が、焼きたてのパンを手に取りながら尋ねた。
「別の作物です。土地や気候によって収穫量は変わりますから、どこでも同じように育つとは言えません。ただ、主食に使える作物が増えれば、食料を確保する手段も増やせるでしょう」
続いて運ばれてきたのは、ジャガイモを塩と香草で焼いた料理だった。表面には香ばしい焼き色がつき、中はほくほくとしている。肉料理の付け合わせとして皿に並べると、使節たちは先ほどのトウモロコシとは違う食感に興味を示した。
「こちらは、芋のようですが……」
「ジャガイモです。土の中で育つ作物で、収穫した芋を料理に使えます。今回は焼きましたが、茹でても食べられます」
クロアチア側の使節は一切れを口に運び、ゆっくりと噛んだ。
「これは、なかなか腹にたまりそうですな。肉の付け合わせとしてもよい」
「ええ。食べ方を工夫できるのも利点です。ただし、栽培に適した土地かどうかは確かめる必要があります」
最後には、サツマイモを焼き、少量の蜂蜜を添えた料理を出した。焼いた芋の甘い香りが広がり、食事の締めにふさわしい一皿になった。
ワラキアの使節はひと口食べると、目を丸くした。
「これは甘い。砂糖をふんだんに使った菓子とは違うのに、これほど甘みがあるとは」
「サツマイモです。こちらも土の中で育つ作物ですが、ジャガイモとは性質が違います。育て方も別に考えなければなりません」
ローザリンデが微笑みながら、使節たちの皿に目を向けた。
「どの料理も、珍しいだけではなく、普段の食事に取り入れられそうですね」
「そうだね。特別な料理として食べるだけでなく、普段の食料にできるかどうかが大切なんだ」
私は頷いた。
会食の場は和やかな空気になっていた。もちろん、おいしい料理を食べてもらったからといって、それだけで外交上の問題が解決するわけではない。それでも、相手にとって未知のものを実際に味わってもらうことで、こちらが提案する作物に興味を持ってもらうきっかけにはなるだろう。
「これらの作物は、そちらでも育てられるのですか?」
クロアチア側の使節が、ジャガイモの皿を見ながら尋ねた。
「それを、これから確かめたいんです。気候や土壌が違えば、同じように育つとは限りません。まずは少量を試験的に育てて、どの程度収穫できるかを調べてもらいたいと思っています」
「種や芋を分けていただけるということでしょうか」
ワラキアの使節も興味を示した。
「はい。トウモロコシは種を、ジャガイモは栽培用の芋を用意できます。サツマイモについても、育苗に使える材料をお渡しするつもりです。ただし、最初から大規模に栽培するのではなく、小さな畑で試してもらうのがよいでしょう」
「なるほど。どの土地に合うかは、実際に育ててみなければわからないというわけですな」
「その通りです。収穫量だけでなく、手入れにどれほど手間がかかるか、食料として保存しやすいかといった点も確かめる必要があります」
私は、作物の栽培を一度に広げるつもりはなかった。新しい作物が役に立つかどうかは、実際に育ててみなければわからない。収穫が少なかったり、土地に合わなかったりすれば、期待したほどの効果は得られないだろう。
それでも、試す価値はある。
「もし、そちらの土地でも十分に育つとわかれば、食料を確保するための選択肢が増えます。こちらとしても、栽培の結果を教えていただければ、どの作物を広めるのがよいか考える参考になります」
ローザリンデが説明を添えた。
「こちらで育てた結果をお伝えすれば、そちらでも役立つということですな」
「ええ。互いに情報を共有できれば、試験栽培の結果も生かしやすくなります」
これは単に作物を贈るだけの話ではない。ワラキアとクロアチアが、それぞれの土地で育てた結果を共有してくれれば、どの作物がどの地域に向いているかを調べることができる。農業の情報交換という形で、協力関係を一つ深められるかもしれなかった。
*
会食の後、私たちは改めて協議の席についた。
ワラキア側とは、まず共有できる情報の範囲や、その扱いについて話し合った。オットマンとの関係がある以上、情報交換を公然とした軍事協力に見せるわけにはいかない。そのため、互いに提供できる情報を確認し、慎重に進めることで一致した。
クロアチア側とは、国境付近の警戒や偵察体制の強化について話し合い、必要な物資や費用について、具体的な内訳を出してもらうことになった。こちらとしても、ロードス島への援軍準備を優先しながら、どこまで支援できるのかを調べる必要がある。
さらに、食事の席で紹介した作物についても、両者から試験栽培を検討したいとの反応があった。
すぐに大きな成果が出るわけではない。それでも、情報交換や防衛協力の話し合いと並行して、新しい作物の栽培を試す機会を設けられたことは、小さくない前進だった。
協議を終えたあと、私はローザリンデとともに、持ち帰った書類や物資の一覧を机に広げた。
「ワラキアとは情報交換、クロアチアとは国境防衛の協力。それに、新しい作物の試験栽培も加わりましたね」
ローザリンデが書類を整理しながら言った。
「うん。ただ、どれも始まったばかりだよ。ロードス島への援軍を準備しながら、どこまで進められるかを考えないと」
「それでも、作物の栽培がうまくいけば、長い目で見て食料を増やせるかもしれません。そうなれば、兵を養うだけでなく、困ったときに周辺国へ支援できる余裕も生まれますね」
「そうなんだよ」
私は物資の一覧に目を落とした。
結局のところ、国が豊かであれば、選べる手段も増える。兵を養い、船を用意し、周辺国を支援するにも、その土台には食料と資金が必要になる。
農業が発展して食料に余裕が生まれれば、備蓄に回すこともできる。余剰が増えれば交易や税収を通じて国の富を増やすことにもつながり、外交や国防で選べる道も増えるだろう。
農業の発展は、ただ民の暮らしを豊かにするだけではない。国を支える力そのものを増やすことにもなるのだ。
もちろん、新しい作物を紹介しただけで、すぐに国が豊かになるわけではない。実際に育て、収穫量や土地との相性を確かめ、うまくいく方法を探さなければならない。それでも、試す価値はある。
「まずは援軍に必要な物資の見積もりを固めよう。そのうえで、クロアチア側が求めている支援と照らし合わせる。ワラキアとは、共有できる情報の範囲を詰めていけばいい」
「わかりました。作物の試験栽培についても、渡す種や芋の量を整理しておきます」
ローザリンデが一覧に項目を書き加えた。
ロードス島を守るための援軍を準備し、周辺国との協力を進め、さらに農業の発展につながる種をまく。どれもすぐに成果が出るとは限らないが、今できることを一つずつ積み重ねていくしかない。
私は地図と物資の一覧を見比べながら、次に確認すべきことを書き出していった。




