サツマイモの蔓まで食べる軍用食改革
前回の感想で挙げた改善点を反映し、歴史説明と数字の羅列を圧縮しながら、**主人公の発見→兵站への視点→実際に試す**という流れを強めました。
私は紙の上に書いた文字を眺めていた。
**兵士一人、一日分。**
ここから計算を始めようとした、そのときだった。
「……待って」
ふと、畑が目に入る。
そこには、サツマイモの蔓が広がっていた。
芋を収穫すれば、それで終わり。
普通ならそうだ。
だが――。
「これも使えるはずよね」
私は一本の蔓を手に取った。
前世では、サツマイモの蔓も食用にされていた。
筋っぽい部分を取り除き、下茹でして調理する。
「……これ、芋がらみたいにできないかしら」
乾燥させれば軽くなる。
保存もできる。
水で戻せる。
「試してみましょう」
料理人に蔓を集めてもらい、柔らかい部分を選ぶ。
皮を剥く。
筋を取る。
下茹でする。
そのまま干すもの。
細く裂いて干すもの。
下茹でしてから干すもの。
条件を変えて試していく。
数日後。
「……軽い」
生のときには、あれほどかさばっていたのに。
乾燥すると、驚くほど小さくなっている。
だが、軽いだけでは軍用食にはならない。
私は紙へ項目を書いた。
**可食率。**
**乾燥後重量。**
**復水時間。**
**調理時間。**
**保存性。**
**食味。**
そして――。
**兵士評価。**
生の蔓一〇〇グラム。
下処理して――八〇グラム。
「可食率、八〇パーセント」
乾燥させる。
十五グラム。
「かなり減るわね」
だが、減った大部分は水だ。
運ぶには、それだけ都合がいい。
次は復水。
三十分。
かなり柔らかくなった。
加熱して、さらに三十分。
「これなら食べられる」
次は実食だ。
塩だけ。
豆と煮る。
保存肉と合わせる。
油で炒める。
「肉と一緒なら、かなり食べやすいですね」
「豆とも合います」
「塩だけだと少し物足りませんが……」
「歯ごたえは悪くないです」
私は頷いた。
「何日も続けて食べてもいいと思いますか?」
「毎日これだけは嫌ですね」
兵士の一人が笑う。
「でも、パンだけよりはいいです」
「何日に一度なら?」
「それなら問題ありません」
私は書き込んだ。
**食味――良。**
**継続摂取――可。**
「よし」
これは主食ではない。
腹を満たすものでもない。
だが――。
軽い。
保存できる。
戻せる。
副食になる。
そして何より。
「捨てるはずだった蔓が使える」
食べられない部分は、繊維として使える可能性もある。
私は紙へ書いた。
**乾燥サツマイモ蔓――軍用副食候補。**
その横に――。
**繊維利用――要試験。**
「これも農業改革ね」
だが、そこで気づいた。
――では、誰が運ぶ?
兵士は武器を持つ。
食料も持つ。
水も必要だ。
衣類や道具もいる。
「持たせすぎれば、兵士自身が動けなくなる」
そこで必要になるのが――。
**輜重。**
荷車。
荷駄。
大量の食料。
鍋。
予備の衣類。
道具。
兵士が持てないものを運ぶ。
そして軍には、それとは別に多くの人間が付き従う。
食料を運ぶ者。
料理をする者。
商人。
職人。
兵士の家族。
さまざまな人間が軍とともに移動する。
私は紙に書いた。
**トロス。**
「そういえば……」
この時代のヨーロッパでは、現代のような国家常備軍がすべてを占めているわけではない。
軍の中核となるのは、契約で集められる傭兵。
そして諸侯が抱える騎士たち。
もちろん歩兵や銃兵もいる。
だが――。
「傭兵も、騎士も、腹は減る」
思わず笑ってしまう。
騎士なら馬もいる。
荷車にも馬がいる。
荷駄にも馬がいる。
「……馬まで食べるのよね」
私は新しい欄を作った。
**軍馬一頭、一日分。**
そこで頭に浮かんだのが、トウモロコシだった。
「これ、馬にも使えるはずよね」
トウモロコシは人間の食料になる。
だが、軍馬のように重い仕事をする馬へ、エネルギーを補う飼料としても使える。
「これは大きいわ」
ただし、トウモロコシだけでは駄目だ。
牧草や干し草を基本にして、不足するエネルギーを補う。
私は書いた。
**牧草・干し草――基礎飼料。**
**トウモロコシ――エネルギー補給。**
「一つの作物から、人間と馬の両方を支えられる」
農業改革としても重要だ。
そして――。
兵站としても重要になる。
ここで、国外の情勢が頭をよぎった。
西ではフランスとスペインが争っている。
戦場となるのはイタリア。
フランスから軍が来る。
スペインからも来る。
ドイツの諸侯も動く。
東ではオスマン帝国がハンガリーへ進み、ハプスブルク勢力とぶつかっている。
「……みんな、軍隊を動かしている」
そして軍隊が動けば――。
食料が必要になる。
馬が必要になる。
荷車が必要になる。
倉庫が必要になる。
「結局……兵站なのよね」
私は紙へ書いた。
**傭兵。**
**騎士。**
**歩兵。**
**軍馬。**
**トロス。**
**輜重。**
**後方備蓄。**
これだけの人間と動物を維持する。
ならば、一人分の食料から考えるだけでは足りない。
私は最初の紙へ戻った。
**兵士一人、一日分。**
パン。
肉。
チーズ。
豆。
乾燥サツマイモ蔓。
これを一〇人。
一〇〇人。
一〇〇〇人。
そして――。
「一か月なら……」
数字を書いた。
食料だけで、とんでもない量になる。
しかも、これは兵士だけ。
トロスも食べる。
輜重も食べる。
騎士も食べる。
馬も食べる。
「それに予備も必要」
雨。
道路の破損。
荷車の故障。
馬の病気。
敵の襲撃。
倉庫の火災。
計算どおりにいかない理由はいくらでもある。
「だから、必要量ぴったりじゃ駄目なのね」
私は書いた。
**必要量+予備量=計画供給量。**
さらに――。
**生産地。**
↓
**地方倉庫。**
↓
**中継拠点。**
↓
**前線備蓄。**
↓
**兵士。**
「一か所に置くのも危険ね」
倉庫が焼ければ、全部なくなる。
ならば分散する。
輸送路も一本に頼らない。
食料の種類も一つに頼らない。
農業改革と同じだ。
**多様化。**
私はその文字を紙の中央へ書いた。
そして、ふと気づく。
「食料を軽くするだけでも、かなり違う」
水分を抜く。
乾燥する。
必要な場所で戻す。
乾燥豆。
乾燥野菜。
乾燥サツマイモ蔓。
どれも、生のまま運ぶより軽い。
ただし――。
乾燥には人手がいる。
設備もいる。
薪も使う。
だから、どこで加工するかまで考えなければならない。
「生産地でやるか」
「中継拠点でやるか」
「軍営地でやるか」
私は三つの案を書いた。
**生産地加工。**
**中継拠点加工。**
**軍営地加工。**
「これも実際に比べないと分からない」
ここまで来て、ようやく理解した。
軍用食というのは――。
美味しい食事を作る研究ではない。
兵士が食べる。
トロスが運ぶ。
輜重が届ける。
倉庫に保管する。
軍馬が食べる。
そして、戦場まで切らさない。
その全部を考える仕事だ。
「……大変ね」
思わず苦笑する。
でも――。
面白くもある。
一つずつ数字にすればいい。
一人分を決める。
百人分にする。
千人分にする。
荷車へ積む。
馬に引かせる。
そして実際に行軍させる。
「理屈だけじゃ分からないこともある」
私は新しい紙を取り出した。
そこへ大きく書く。
**軍用食料・実地試験。**
「まず一〇〇人」
次に――。
「十日分」
食料。
水。
薪。
馬の飼料。
荷車。
必要な人員。
全部を実際に準備する。
兵士には携行させる。
残りは荷車へ積む。
馬にも実際にトウモロコシを含む飼料を与えてみる。
どのくらい食べるのか。
どのくらい歩けるのか。
どのくらい荷物を運べるのか。
そして――。
食料は何日持つのか。
「これなら、本当に必要な量が分かる」
私は筆を握り直した。
厨房で始まった、小さなサツマイモ蔓の実験。
それがいつの間にか――。
軍隊の胃袋を丸ごと考える話になっていた。
「まずは、やってみましょう」
私は紙の一番上へ、最後の一文を書いた。
**兵士一人、一日分。**
その数字が――。
これから始まる兵站改革の、最初の基準になる。




