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農業大学生、異世界で皇帝に呼ばれる――「迷い鳥」は国を変える  作者: 水源


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新大陸の粉でトルティーヤを

焼き板がすでに作られている設定を反映し、**「焼き板がない」というやり取りを削除**して、既存の焼き板を利用してトウモロコシ料理を試作する流れに修正します。さらに、以前から出ているペラグラ対策と、今回のニシュタマリゼーションへの伏線も自然につなげました。


 宮廷へ戻ると、私はすぐに料理長と一緒に厨房へ向かった。


 製粉所で挽いてもらったトウモロコシ粉の入った袋を、料理人たちの前に置く。


「これが、先ほど製粉所で挽いてもらったものです」


「随分と綺麗な色ですね」


 料理人の一人が袋から粉を少し取り出し、指先で擦っている。


「小麦粉とは、かなり違います」


「ええ」


 私は頷いた。


 黄色みを帯びた粉。


 前世で見慣れていたものと比べれば、少し粗い。


 それでも、十分に料理へ使えるはずだ。


「まずは、これを使って何が作れるか試しましょう」


「パンにするのでしょうか?」


 料理長が尋ねる。


「最初は、それでもいいと思います」


「でしたら、小麦粉と混ぜてみるのがよいでしょう」


「……」


 私は少し考えた。


「いえ」


「何か問題がありますか?」


「トウモロコシだけで作ってみたいです」


「トウモロコシだけ、ですか?」


「はい」


 せっかく新しい作物なのだ。


 小麦を大量に混ぜなければ成立しないのであれば、農民の食糧事情を改善するという目的から少し外れてしまう。


「小麦は貴重ですから」


「なるほど」


 料理長も納得した。


「では、トウモロコシ粉だけで試してみましょう」


 まずは水を加える。


 少しずつ混ぜる。


 だが。


「……これは?」


 料理人が首を傾げた。


 小麦粉のようにはまとまらない。


 指でつまむと、ぽろぽろと崩れる。


「やはり、そうなりますか」


 私は粉を指で触った。


 小麦にはグルテンがある。


 だから水を加えて捏ねれば、粘りのある生地になる。


 だが、トウモロコシには同じような性質がない。


「水の量を増やしてみましょう」


「分かりました」


 水を加える。


 少しずつ混ぜる。


 今度は、しっとりとした生地になった。


「おお」


 料理人から声が上がる。


「これなら形を作れそうです」


「では、薄くしてみましょう」


 生地を手のひらで押す。


 丸い。


 薄い。


 少し不格好ではある。


 だが――。


「これは……」


 料理長が目を見開いた。


「パンというより、何か別のものですね」


「そうです」


 私は頷いた。


「パンにする必要はないんです」


 前世の記憶を思い出す。


 中南米では、トウモロコシを粉にして生地を作り、それを薄く伸ばして焼く。


 ――トルティーヤ。


 小麦パンとはまったく違う。


 けれど、立派な主食になる。


「これを焼いてみましょう」


 私は厨房に置かれていた焼き板を指差した。


「焼き板で焼けばいいんです」


「なるほど」


 料理長が頷く。


 すでにこの宮廷では、焼き板を使った料理の試作も行っている。


 これなら、新しい調理器具を用意する必要はない。


 焼き板を温め、その上に平たく伸ばした生地を置く。


 じゅっ。


 表面から水分が抜け、香ばしい匂いが漂ってくる。


 しばらくして、料理長がひっくり返した。


「……いい焼け色ですね」


「ええ」


 両面が焼けたところで、皿に乗せる。


「食べてみましょう」


 私は一枚を手に取った。


 少し硬い。


 けれど、噛むとトウモロコシの甘みがある。


「……うん」


「いかがですか?」


「美味しいです」


 料理長も一枚口にする。


「確かに」


 料理人たちも次々と試食する。


「素朴ですが、悪くありません」


「むしろ、この甘みは面白いですね」


「焼きたてなら、かなり美味しいです」


 私は頷いた。


 まずは成功だ。


 しかも。


 焼き板がすでにある。


 なら、農民の家でも同じような料理を作れる可能性がある。


「料理長」


「はい」


「この料理なら、農民の家でも作れそうですね」


「焼き板が普及している家庭なら、可能でしょう」


「なら、この料理は有望です」


 私は頷いた。


 新しい道具を作る必要がない。


 今あるものを使って、新しい作物を食べられる形にする。


 これこそ、今回の目的だった。


「ただし」


 料理長が生地を見る。


「粉の粗さは、もう少し調整したほうがよさそうです」


「どうしてですか?」


「少し粒が残っています」


 なるほど。


 焼いたあとに食べると、確かに舌にわずかなざらつきが残る。


「製粉所で、もう少し細かく挽いてもらいましょう」


「分かりました」


 私は頷いた。


「では、次に粗い粉も試しましょう」


「粗い粉ですか?」


「はい」


 今度は粗めに挽いたトウモロコシ粉を鍋に入れる。


 水を加えて火にかける。


 木べらで混ぜ続ける。


 最初はさらさらだったものが、少しずつ粘りを増していく。


「おお……」


「かなり固まってきましたね」


 やがて、黄色い濃厚な粥のようになった。


 塩を少し加える。


 私は匙ですくって口に運ぶ。


「……これも美味しい」


「こちらは、かなり簡単ですね」


 料理長が感心したように言った。


「鍋と火があれば作れます」


「そうなんです」


 私は笑った。


 これは農民向け料理としてかなり有望だ。


 パンを作るより簡単。


 発酵も必要ない。


 しかも、トウモロコシそのものを大量に使える。


 ただし。


「これだけでは、ちょっと足りませんね」


 私は鍋の中を見つめた。


 炭水化物としては優秀だ。


 だが、これだけを食べ続けるのは栄養面で問題がある。


「豆と一緒に食べましょう」


「インゲン豆ですか?」


「はい」


 料理長が理解した顔をする。


「トウモロコシと豆を組み合わせる、と」


「そうです」


 私は頷いた。


 トウモロコシだけに偏るのではなく、豆類や他の食材を組み合わせる。


 栄養面でも、そのほうが良い。


「では、このトウモロコシの粥に豆の煮込みを添えてみましょう」


「承知しました」


 先ほど作ったインゲン豆の煮込みを温める。


 黄色いトウモロコシの粥。


 その横に、豆と野菜の煮込み。


 見た目は質素だ。


 だが。


 一口食べてみる。


「……美味しい」


 トウモロコシの甘み。


 豆の旨味。


 少量のラードのコク。


 思った以上に相性がいい。


「これはいいですね」


 料理長も頷いた。


「しかも、今ある食材だけで作れます」


「それが一番大事です」


 私は笑った。


「新しい料理のために、わざわざ高い材料を買う必要がありません」


 私は一枚の紙を取り出した。


 そして、料理の組み合わせを書き込んでいく。


『トウモロコシ粥+インゲン豆の煮込み』


『トウモロコシの薄焼き+豆料理』


『ジャガイモ+豆料理』


 さらにその下に、


『季節の野菜を追加』


 と書き加える。


 これなら、農民が育てられる作物を使って食卓を豊かにできる。


 そこで私は、ふと別の問題を思い出した。


 ――ペラグラだ。


「……ですが」


「はい?」


 料理長が私を見る。


「トウモロコシの栄養面については、まだ考える必要があります」


「先ほどもおっしゃっていましたね」


「ええ」


 私はトウモロコシ粉を見つめた。


「豆と一緒に食べるだけではなく、トウモロコシそのものの調理方法も考えたほうがいいと思います」


「調理方法、ですか?」


「はい」


 前世では、トウモロコシを粉にする前に、アルカリ性の灰や石灰などを利用して処理する方法があった。


 これによって栄養面の問題を改善し、トウモロコシを生地にしやすくすることもできる。


 ――ニシュタマリゼーション。


 私はその方法を思い出した。


「……これなら」


「何か思いつきましたか?」


「ええ」


 私は少し考えてから口を開いた。


「トウモロコシを粉にする前に、少し手を加えてみましょう」


「別の製粉方法ですか?」


「いいえ」


 私は首を振る。


「製粉する前に、粒そのものを処理するんです」


 料理長が首を傾げた。


「どういうことでしょう?」


「それは……」


 私は言葉を選んだ。


「少し特殊な方法になります」


 新しい作物を普及させるなら。


 ただ粉にして焼くだけではなく。


 ――より美味しく、より栄養を活かせる方法まで考えなければならない。


 私は料理長を見る。


「明日、この方法を試してみましょう」


「承知しました」


 料理長が頷く。


 そして私は、焼き板の上に残った最後の一枚を見つめた。


 黄色い薄焼き。


 まだ名前すら、この世界では決まっていない。


 けれど。


 これが農民たちの食卓に並ぶ日が来れば。


 きっと、新しい食文化が始まる。


 私は、そんな未来を思い描きながら、もう一度その薄焼きを口に運んだ。


「……これ、案外いけますね」


 まずは一歩。


 新大陸の一粒のトウモロコシが。


 ようやく、この国の食卓へ向かって歩き始めたのだった。


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