表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/13

神聖帝国皇帝カールと摂政フェルディナンドとタバコ

 さて、バーデンで一夜を明かし、再び豪勢なウプラウトに着替えさせられた私の胸元には高価そうな大きなサファイヤのはまったブローチが追加されています。


 そしてウプラウトには金糸の大きな花の刺繍が施されていました。


 これはおそらくザクロの花ですね。


 ブドウやイチジク同様にザクロはキリスト教に置いては神聖な存在とされ、美と豊穣、多産を司る存在として高貴な身分の女性の衣服によく使われていたんですっけ?


「ではこれより帝都へ向かい皇帝陛下並びに宰相閣下に謁見していただきます。

 ただし、今のところ迷い鳥様の存在は可能な限り秘匿しておくご意向のため、謁見は謁見室ではなく、喫煙の間にて行います」


「それは謁見が大々的に行われるよりずっと助かります。

 しかし、喫煙の間ですか?」


「はい、新大陸より伝わったタバコ(ツィガレテ)を嗜むための部屋ですね」


 そういえばタバコの葉も元はアメリカ大陸原産で、この頃は万病に効く万能薬という扱いでしたね。


 同様なアメリカ大陸原産の存在にコカインの原料になるコカの葉もありましたっけ。


 このころの主な喫煙形態としては葉巻と細かく刻んだ葉をトウモロコシの皮で巻く巻きたばこ、トウモロコシの芯を使ったコーンパイプ、粘土を素焼きにしたクレーパイプとなどのパイプタバコ、乾燥させたタバコの葉を粉末状に細かく砕き、鼻腔内に吸い込むことで摂取する嗅ぎタバコだったはずですが、喫煙が医療行為に等しいこの時代ではタバコは高価なもので、喫煙室も謁見室よりも奥の重要な客を秘密裏に迎えるための応接室だったようなきがします。


「それはそれで大ごとな気もしますが」


迷い鳥フェアローレナー・フォーゲル様に万一のことがおきてはこまりますからね。

 では、参りましょう」


 私は小さくため息をついてから答えま。


「承知いたしました」


 マルク伯に先導され私は宮廷の奥へと歩いていく。


「失礼いたします陛下。

 マルク伯ヨハンが迷い鳥フェアローレナー・フォーゲル様をお連れいたしました。

 入室に許可をいただけますか」


「良い、入れ」


「はっ」


 私はヨハンさんといっしょに入室します。


「陛下,迷い鳥フェアローレナー・フォーゲル様をお連れいたしました」


「うむ」


 皇帝陛下と呼ばれた年若い金髪碧眼の男性が私をじっと見てから言いました。


「漆黒の髪に瞳。

 確かにこの辺りの国では見ないな」


 そしてその脇に立つ男性がいいました。


迷い鳥フェアローレナー・フォーゲル様。

 この度は宮廷までご足労いただきありがとうございます。

 こちらが神聖ローマ帝国のローマ皇帝、およびスペイン国王、オスタルリキ東方辺境伯のカール5世陛下。

 私はボヘミア王にて摂政`を務めておりますフェルディナンドと申します。

 迷い鳥様、失礼ながら名をお伺いしても?」


「あ、はい。

 私は坂田遊里(ばんだゆうり)と申します」


「ではユーリ様。

 すでにお聞きいた抱いたかもしれませんが、あなた様は我が国初になる迷い鳥フェアローレナー・フォーゲル様であります。

 そして迷い鳥とは異なる世界の知識や技術をもって国へと繁栄をもたらす存在として聞き及んでおります」


「えっと、でも私はそんなに特別な知識や技術なんて持っていないのですが」


 そこでヨハンさんがいいました。


「いいえ、渡り鳥様はトルコ小麦を食べているものの病とその治療法をさずけていらっしゃたと聞き及んでおります。

 これは立派な知識でございますし、同様な知識をまだまだお持ちかと見受けます」


「あ、なるほど、その程度のことでしたらお役に立てるかもしれません。

 とはいえ……」


 今が西暦で何年なのか分からないと何とも言えない。


「つかぬことをお聞きしますが、今は西暦何年でしょうか?」


 私の質問にフェルディナンドさんが答えてくれた。


「現在は帝国暦1519年ですね」


 帝国暦がグレゴリオ暦で西暦1519年というと日本では永正十六年、北条早雲の没年で今川義元や伊達晴宗の生年だったかな?


 12年前の永正4年(1507年)には室町幕府管領細川政元が暗殺された永正の錯乱も起きているので日本は戦国時代に突入していたはず。


 ヨーロッパだとそろそろルターによる宗教改革が起きてキリスト教内部が混乱しているころかな。


 だとするとオーストリアの状況はあまり良くないかも。


「この国がエスターライヒというのは教えていただきましたが、周辺諸国も教えていただきますか?」


 私がそう聞くとフェルディナンドさんが教えてくれた。


 まず東は異教徒のオットマン帝国。


 北にはプロテスタントの支持を受けるドイッチュラント。


 西にはフランケライヒ。


 南にはイタリア諸国。


 このころはまだ21世紀のような正確な地図はないが、ある程度はあって、エスターライヒ、つまりこの頃のハプスブルグ帝国の領地は現代のオーストリア、チェコ、スロベニア、クロアチア、イタリア北部とオランダ、ベルギーのネーデルラントとスペインとその海外植民とかなり広いようだ。


 で、問題なのは東のオットマン帝国とは宗教的に絶対的に相いれず、北のドイッチュラントの諸侯とも同様、西のフランケライヒとはイタリア北部をめぐってた対立している。


 そしてこの頃のオットマン帝国、すなわちオスマン・トルコは最盛期で経済的にも軍事的にもとてつもない強敵。


 おそらく10年後には12万人の大軍にここヴィーナーは包囲を受けるはず。


 もっとも陥落はしていないのですけどね。


 この辺りまでは異教徒や異民族の侵入が時々起こる。


 故にここは辺境の国エスターライヒなわけだけど。


「とりあえず私でもできそうなことは、この国の食糧事情の改善でしょうか」


 私がそう言うとフェルディナンドさんが頷いてから言う。


「我が国における食糧事情は決してよいとはいえません。

 ですので、それは非常に助かります」


「わかりました。

 できる範囲でですが頑張ってみます」


 と言うわけで、私はこの国における食糧事情を改善することになるのでした。


「あ、それとお二人はタバコはたしなまれますか?」


 私がそう聞くと二人はうなずいた。


「うむ、たばこの煙は健康に良いのであろう?」


「私もそう聞いております」


 うーん、21世紀の現代ではタバコは吸う本数が少なくても健康に悪いといわれているんですよね。


 主な原因はニコチンとタールに燃焼するときに出る一酸化炭素のせいと言われています。


 しかし、ニコチンは神経伝達物質(ドーパミン、アドレナリン、β-エンドルフィン)の放出が促進され脳の活動を賦活化する。


 少量だと副交感神経を刺激することで軽度の鎮静作用とリラクセーションの作用が現れ、うつや統合失調症の症状を軽減し、一酸化炭素(CO)は微量では生体にとって保護的に働き、抗炎症作用、抗酸化ストレス作用を発揮し、パーキンソン病などの神経変性疾患の症状が改善したり、発生率が減少したり、代謝促進効果があるので痩せやすくなるらしい。


 またニコチンを摂取することで短期的記憶も向上するらしいのですよね。


 アルコールの場合はアルコールがLDL(悪玉)コレステロールの増加を抑え、HDL(善玉)コレステロールを増加させ、血液が血管の中で詰まりにくくなるため、心筋梗塞や狭心症など虚血性心臓病を予防する効果があり、1日平均アルコール消費量の平均23g未満(日本酒1合未満)では無飲酒よりよいらしい。


 まあ高血圧や脳出血、肝硬変や脂質異常症のリスクは少量でも上がるのですが。


「それは吸い方と量によると思います。

 小さい葉巻(シガリロ)やパイプをゆっくり目に短い時間で一日一本とかであればたぶん大丈夫ではないでしょうか。

 むろん煙は口の中にとどめるようにするべきですが」


 私がそういうと二人はうなずいていう。


「なるほど、あなたがそういうのであれば正しいのでしょうな」


「さすがは迷い鳥フェアローレナー・フォーゲル様ですな」


「いえ、どんな薬でも、飲みすぎれば毒になるものですよ」


 ただニコチンは中毒性が高いので、危険なのは確かなんですよね。


 これはお酒もですが。

というわけでトウモロコシ同様にコロンブス交換で世界中に広がったことで強い影響力を持ったタバコを取り上げてみました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ