↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
農業大学生、異世界で皇帝に呼ばれる――「迷い鳥」は国を変える  作者: 水源


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/41

異世界農業改革記 次なる切り札はインゲン豆と新しい豆?

 さて。


 食糧事情の改善について考えているうちに、私はふと一つの問題に気がついた。


 主食については、かなり目処が立ってきている。


 トウモロコシを普及させれば、穀物不足の改善には大きく貢献できるだろう。


 そして、以前から栽培しているピーナッツも重要だ。


 ピーナッツは栄養価が高く、特にタンパク質や脂質を補う食品として優秀だ。


 ただし――。


「……ピーナッツばかり食べるわけにもいかないんですよね」


「どうされました、ユーリ様?」


 隣にいた農業担当者が不思議そうな顔をする。


「いえ。ちょっと考え事です」


 ピーナッツは確かに優秀な作物だ。


 だが、脂質も多い。


 食生活全体を考えるなら、ピーナッツだけに頼るのではなく、別の植物性タンパク源も用意したほうがいい。


 日本なら――。


「……大豆があるんですけどね」


 思わず呟いてしまう。


 大豆。


 タンパク質が豊富で、油も取れる。


 豆腐、味噌、醤油、納豆。


 加工方法も恐ろしく多い。


 まさに万能豆だ。


 ……しかし。


 この世界で、いきなり大豆を探し出せるとは限らない。


 そもそも大豆は東アジア原産だ。


 この国で簡単に手に入る作物とは限らない。


「別の豆を探すしかありませんね」


 そう考えたとき。


 私の頭に、いくつかの名前が浮かんだ。


 インゲン豆。


 ライ豆。


 ルピナス。


 そして――。


「……そういえば、あれもありましたね」


 私は机の上の紙に名前を書き始めた。


 まずは。


 **インゲン豆。**


 インゲン豆はアメリカ大陸原産のマメ科作物だ。


 現在では世界各地で栽培されている。


 完熟した豆を乾燥させて食べることもできるし、品種によっては若い莢を野菜として利用することもできる。


 つまり。


 一つの作物から、複数の食べ方ができる。


 これは大きな利点だ。


「ヨーロッパでは、ソラマメやエンドウ豆がよく利用されていますが……」


 私は考える。


 ソラマメもエンドウ豆も、古くからヨーロッパで重要な豆だった。


 特にソラマメは、古代から地中海世界やヨーロッパで食べられてきた。


 ただし、ソラマメには一つ厄介な問題がある。


 遺伝的な体質によっては、ソラマメを食べることで溶血性の発作を起こすことがある。


 いわゆるソラマメ中毒――ファビズムだ。


 もちろん、これは「ヨーロッパ人なら誰でも起こる」という話ではない。


 特定の遺伝的体質を持つ人に起こるものだ。


 とはいえ。


「食べられる豆の選択肢は、多いほうがいいですよね」


 エンドウ豆も優秀だ。


 冷涼な気候に適していて、ヨーロッパの農業にはよく合っている。


 若い莢を食べることもできるし、成熟した豆も食べられる。


 現代ならグリーンピースやサヤエンドウなど、実にいろいろな食べ方がある。


 ……ちなみに。


 前世では豆苗もよく食べていた。


 あれはエンドウの若い芽だ。


「そう考えると、エンドウ豆も悪くないんですけどね」


 問題は、この時代の品種だ。


 現代の品種と比べれば、食べられる部分や収量、品種の多様性には当然差がある。


 それなら。


 別の豆を導入して、食卓そのものを広げてしまえばいい。


 そこで候補になるのが――。


 **インゲン豆だ。**


「インゲン豆は、かなり有望ですね」


 私は紙に丸をつけた。


 タンパク質を含み、食物繊維も多い。


 しかも、油脂の多いピーナッツとは栄養面で性格が違う。


 ピーナッツ。


 インゲン豆。


 そして既存の穀物。


 こうして組み合わせれば、食生活の幅を広げられる。


「ただし、生の豆をそのまま食べてはいけません」


「……毒があるのですか?」


「種類によってはあります」


 特に乾燥したインゲン豆の一部には、十分な加熱が必要な成分が含まれている。


 だからこそ。


「豆は種類ごとに、正しい調理方法を一緒に広める必要があります」


「なるほど」


 種を配るだけでは駄目だ。


 栽培方法。


 収穫方法。


 保存方法。


 調理方法。


 全部まとめて普及させなければならない。


 それが農業改革というものだ。


 そして、もう一つ。


 私の頭に浮かんだのが――。


 **ライ豆。**


 正式にはライマメ。


 これもアメリカ大陸原産の豆だ。


 大きな豆をつける品種もあり、乾燥豆として利用されている。


「これも食料として使えますね」


 ただし。


 私はすぐに注意書きを加えた。


「品種による違いには注意が必要です」


 豆類は、名前が同じでも品種によって性質がかなり違う。


 生育期間も違えば、暑さや寒さへの強さも違う。


 だから。


「これもいきなり大量栽培するのではなく、試験栽培からですね」


「承知しました」


 農業担当者が頷く。


 そして。


 もう一つ。


 私が名前を書いたのは――。


 **ルピナス。**


 いわゆるルパン豆だ。


「これも食用になります」


「豆なのですね」


「はい。ただし、これは特に注意してください」


 ルピナスには、品種によって苦味の原因となるアルカロイドが含まれている。


 食用にする場合には、低アルカロイドの食用品種を選び、適切な下処理を行う必要がある。


 水に浸して、何度も水を替える。


 そうやって苦味の成分を抜いてから食べる。


「手間がかかりますね」


「ええ」


 私は苦笑した。


「でも、その手間に見合う価値はあります」


 ルピナスはタンパク質が豊富なことで知られている。


 しかも脂質が比較的少なく、食物繊維も多い。


 食糧不足の時代には、かなり面白い作物だ。


「ただし、食用種の選定を間違えないこと」


 私は紙に大きく書き込む。


 **食用品種。**


 **アルカロイドへの注意。**


 **適切な下処理。**


 そして――。


 **試験栽培。**


「これだけは徹底してもらいましょう」


「はい」


 農業担当者は真剣な顔で頷いた。


 新しい作物というのは、便利なものばかりではない。


 扱い方を間違えれば、食中毒を起こすことだってある。


 だからこそ。


 知識と一緒に普及させなければならない。


 そして最後に。


 私はもう一つの名前を書いた。


 **マカ。**


「……これは少し変わった作物ですね」


 マカは南米アンデス地域の高地で栽培されてきた作物だ。


 食べるのは主に根。


 そして何より特徴的なのが、その生育環境だ。


 高地。


 寒冷な環境。


 そうした場所でも栽培されてきた。


「この国にも山地がありますから」


 私は地図を見る。


「もし、この国の高地でも育つなら面白いんですけどね」


 もちろん。


 アンデス高地と、この国の山地は同じではない。


 標高。


 気温。


 降水量。


 日照。


 土壌。


 どれも違う。


 だから、マカを見つけたからといって、


「山に植えれば育つ!」


 などと簡単に考えてはいけない。


 そもそもマカには、食料としての利用価値はあっても、健康効果については慎重に考える必要がある。


 前世では「ホルモンバランスを整える」「性機能を改善する」など、さまざまな効果が宣伝されていた。


 研究も行われていたが、万能薬のように扱えるほど確立した話ではない。


「薬として期待するより、まずは作物として考えましょう」


 私はそう結論づけた。


 重要なのは、食べられる根が取れること。


 そして、この国の環境で育つこと。


 それだけだ。


「ただ……」


 私は少し考える。


 マカについては、栽培方法を慎重に調べたほうがいい。


 高地の特殊な環境で育ってきた作物なのだから、連作や土壌への影響についても試験する必要がある。


「これも少量からですね」


「はい」


 農業担当者が記録する。


 インゲン豆。


 ライ豆。


 ルピナス。


 マカ。


 四つの名前が、机の上に並んだ。


「……こうして見ると、結構ありますね」


「はい」


「でも、全部がこの国で育つとは限りません」


「当然です」


 農業担当者が頷く。


 その通りだ。


 農業に「絶対」はない。


 前世の知識があったところで、種を植えれば必ず収穫できるわけではない。


 気候が違えば結果も変わる。


 土壌が違えば結果も変わる。


 病害虫が違えば結果も変わる。


 だから――。


「試しましょう」


 私は地図を広げた。


 平地。


 丘陵。


 山間部。


 それぞれの場所に、どの作物が適しているのか。


 一つずつ確かめていく。


「インゲン豆は平地と丘陵で」


「ライ豆も候補に」


「ルピナスは食用品種を選んで慎重に」


「マカは山地で試験栽培」


 私は地図に印をつけていく。


 そして、ふと思った。


 食糧不足を解決するために必要なのは、


「一番優れた作物を一つ見つけること」


 ではないのかもしれない。


 トウモロコシ。


 ジャガイモ。


 サツマイモ。


 カボチャ。


 ピーナッツ。


 そして、今回の豆類。


 一つ一つは万能ではない。


 けれど。


 それぞれの長所を組み合わせればいい。


「……作物にも、それぞれ得意分野がありますからね」


 穀物はカロリーを。


 豆はタンパク質を。


 ピーナッツは脂質を。


 野菜や果物はビタミンやミネラルを。


 保存食には保存食の役割がある。


 だから。


 食糧事情を改善するというのは、単純に「たくさん収穫する」ことではない。


 **食卓そのものを豊かにすること。**


 それが大切なのだ。


「ユーリ様」


「はい?」


「では、今回の作物についても種子を集めるよう手配します」


「お願いします」


 私は書類をまとめた。


 インゲン豆。


 ライ豆。


 ルピナス。


 マカ。


 さて。


 この中で、この国の大地が受け入れてくれるのはどれだろう。


 もしかしたら。


 この四つの中から、未来の農民たちを支える作物が生まれるかもしれない。


 そう考えると、少し胸が躍った。


 ……とはいえ。


「まずは、種を手に入れないといけませんね」


「そこからですか?」


「はい」


 思わず笑ってしまう。


 農業改革というのは、結局のところ地味な作業の積み重ねだ。


 種を探す。


 運ぶ。


 植える。


 育てる。


 失敗する。


 原因を調べる。


 もう一度試す。


 そして、ようやく成功する。


 私は机の上の紙を見つめた。


 その一枚一枚が、これから始まる新しい実験の設計図だ。


「さて……」


 私は新しい紙を一枚取り出した。


 そして、そこに大きく書く。


 **新規作物・種子調達計画。**


 食糧改革は、まだ終わらない。


 むしろ――。


 これからが本番だった。


今回はアメリカ原産の豆でした。


おまけにキヌアとアマランサス、マカもいっしょに紹介しておきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。