食べられないとか食べたくないという既成概念を覆すのは案外難しい
さて、私はこの国における食糧事情の改善を行うためにアメリカ新大陸から入ってきたものの、現状では主たる食用とされていない農産物を食べる事ができると証明して、それらの栽培を普及させたいと考えてはいます。
ですが、人間の食べられないとか食べたくないという既成概念を覆すのは案外難しいものです。
20世紀後半にはクロレラ・スピルリナ・ユーグレナといったプランクトンが未来のタンパク源として注目されていましたが、結局は肉や魚、卵に乳製品、豆といったものから置き換わることはありませんでした。
光過敏症等の問題もありましたが、主な原因は美味しくないということでしょう。
また21世紀でも高タンパクで環境負荷が少ないと各国政府などが大々的に推奨したにも関わらず普及が進まなかった食材があります。
それはコオロギやゴキブリなどの昆虫色ですね。
これは消費者からの嫌悪感が主な原因。
食用のコオロギやゴキブリは、味は淡白で、エビやアーモンドによく似ており、揚げた小エビのような食感であると決してまずいわけではないようです。
昆虫は節足動物で甲殻類の一部の分類群に過ぎないので、エビやカニにアレルギーが有る人は食べられないわけですが、それ以前の問題としてコウロギやゴキブリを食べるというということ自体に嫌悪感を感じる人が多かったわけですね。
そういう私も好き好んで食べたいとは思いませんが。
しかし80億ほどの地球人口のうちの20億ほどは昆虫食を取っているらしいです。
昆虫を食べているのは退場時代頃までの日本や韓国、中国などの東アジア。
タイ、ベトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジアと言った東南アジア。
パプアニューギニアなどのメラネシア。
ナイジェリア、コンゴ、ケニア、ベナン、ウガンダ、カメルーン、ブルキナファソ、中央アフリカ、ボツワナ、ナミビア、南アフリカ、ジンバブエなどのサハラ以南の西アフリカや中部アフリカ、南部アフリカ。
メキシコやグアテマラ、ブラジル、ペルー、コロンビアなどの中南米。
そしてヨーロッパではイギリス。
ロンドンでは普通にゴキブリのペーストをパンに塗って食べていたらしいですしね。
これらの地域の中でもとくにユーラシアやアフリカ、メラネシアの場合は主食がヤムイモやタロイモの場合が多く、狩猟対象になる鹿や猪がすくなく、家畜や家禽の飼育や豆の栽培に向かないため、接種するタンパク源の多くを昆虫に依存してきた熱帯、亜熱帯地域ですね。
日本においては群馬県、長野県、山梨県、岐阜県のような海に隣接していない地域ではイナゴ、カイコ、はちのこ、ザザムシ、セミ、コオロギ、ガムシなどの昆虫が食べられていたようですし、ゴキブリも塩焼きや素揚げ、天ぷら、唐揚げなどにして食べられていたみたいなのが。
とはいえ基本的に食用とされるアルゼンチンゴキブリやマダガスカルゴキブリはは植物食で、餌としてフスマやフルーツを与えて育てられているものなので、肉食や腐食性もある多くの都市部で見られるようなゴキブリは食用には不向きなんですけどね。
そして、そういったことを鑑みるとやはりジャガイモの栽培や食材としての普及が遅れた理由は明確ですね。
そもそもが旧約聖書において”神は「地の全面にある、種のできるすべての草と、種の入った実のあるすべての木を、今あなたがたに与える」と宣言された(創世記1:29)”と記されているので、種芋を使って育てる芋という作物そのものが悪魔の植物と忌避されるのも仕方ないですし、ジャガイモは見た目も悪く、芋そのものには味もあまりないですからね。
この時代の農民は粥やスープの味付けに使うのは塩だけとか、ラードとキャベツを煮込んで出汁を取ったものくらいなので、味も薄く、粉末にしてパンのように食べることが難しいジャガイモは美味しく食べるのが難しいのです。
まあ、スペイン北部やネーデルランドやはともかく、このあたりはトウモロコシの栽培に適しているはずなので、味も美味しく、トルティ屋として食べられますから、ペラグラさえ防げればさほど問題はないですが。
その点インゲン豆やライ豆はソラ豆と置き換わるように、ヨーロッパにおいて食材としての普及が早く進んだのも納得ですね。




