特別なことをすると色々なところで目をつけられるのである
「私はカルム、この子はセレーネ」
「にゃーん」
エマと名乗ったプレイヤーにこちらも自己紹介をしておく。
彼女の目的がセレーネに関係することであるのは聞くまでもないことである。
というよりも、彼女の方も隠す気もないようである。
第一声から猫好きをアピールし、今もキラキラと輝くような瞳でセレーネの方をチラチラと見ているので丸わかりである。
「それで、エマさんはどういった話が?」
「あ、えーっと……」
聞くまでもない、けれどここはあえて聞くのである。
先に声を掛けてきたのは彼女の方なのだから、私が話を進めるというのも変な話だろうし。
「そうですね、まず結論から話させてもらうとですね、猫さんのテイム方法を教えてほしいんです」
「なるほど」
「テイムアビリティ自体は持っている人もいるんですけど、テイムするためにはあいてのいる場所にまず行かなければなりません」
「大前提として契約を結ぶ相手に出会わなければならないのだからそうなりますね」
「はい、けれどその……猫型でテイム可能な魔物は確認されていなくて、貴女とセレーネちゃんの他には」
「んにゃ?」
「それでどうやってテイムしたのか教えてほしい、ということ?」
「はい、そうです」
食事を終えたセレーネを撫でながらしばし考える。
熱い眼差しが注がれているが今は意識の外に置いておく。
なるほど、そう言えばセレーネと同種のシャドウキャットは珍しい魔物だとか言っていた。
実際、セレーネ以外でこのユーノンの街中で見かけたことはない。
街の外に関しては私は全くわからないけれど、話を聞く限りでは街の外にもいないようだ。
本当にこの子は一体どこからこの街に入ってきていたのだろうか……
ともあれ、どうやったら会えるかなんてことは私にもわからないのだ。
なにせこの子は気づいたらそこにいた、まさに影のような存在だったのから。
「まずはじめに確認したい点が二つあります」
「えっと、はい、なんですか?」
「一つ、私とセレーネの例はおそらくとても特殊です、役に立つ情報になるかはわかりません」
「にゃーん」
「情報を全く持っていない今、少しでも情報が増えるだけでもありがたいです」
「二つ、情報には対価を、ということでそれでも情報が欲しいのであれば、なにか私にメリットを提示してください」
「はい、それについてはもちろんそのつもりです」
「あら、そうなんですか?」
「情報も資産ですから!対価が必要ならそれは支払うべきです」
「……貴女とはいい話ができそうだわ」
結構ぐいぐい来るタイプだからその辺は考えてないかと思ったけれど、どうやらその考えは失礼だったようだ。
そういう人だったならば適当なことだけ言ってさよならしようと思ったのだけれど、こちらも考えを改めて真面目に考えるとしよう。
とは言ったものの、実際のところさきほども言ったように私が出せる情報というのは多くはない。
出会いも偶然、その後も偶然、確たるものはなにもなく、話せるのは体験談くらいなものなのである。
そんなに情報料を吹っ掛けるつもりはないけれど、これらの情報がどのくらいの価値なのかは私にもわからないのだ。
まぁこの世界で初めて会話した相手でもあるし、いい関係を築けるのならば築きたいところではある。
「まず、さっきも言ったけれど私とセレーネのパターンは相当特殊だと思うの」
「んにゃ」
「はい」
「だから情報に確証はないけれど、私と彼女の出会いから話させてもらうわね」
「ありがとうございます!」
「後で対価はもらうんだからそんなに畏まらなくてもいいわよ」
「うん!」
屈託のない笑顔を見せる彼女は高い身長から連想させる雰囲気とは違い、どことなく幼げに見える。
年は同じくらい、なのだろうか?
VR空間では基本的にリアルのデータを元にアバターが構築されているとはいえ、ある程度はいじることもできる。
だから背格好や大まかな顔立ちについてはともかく、年齢に関してはそれなり以上に印象が違ってくることもある。
まぁ年齢でどうこうというわけではないけれど……
「とりあえず先に言っておくけれど、劇的な出会いも猫だらけの極秘スポットも出てこないから期待はしないように」
「わかった」
コホン、と一つ空咳をつきセレーネを改めて近くに移動させる。
さきほどから静かにしていると思ったら、じっとしてるのに飽きたのか再び昼寝をしているようだ。
「まず出会った場所はこのユーノンの街よ」
「え、そうなの!?」
「だから結構特殊だと思うって言ったでしょ」
「さすがにそれは予想できないよ、かわいい猫ちゃんとは言え街中に魔物が入り込んでるなんて」
「まぁそれについては同感ね、とりあえずそれについては置いておいて続けるわね」
「話の腰を折っちゃってごめんね」
「ある程度は相槌があった方が会話は進みやすいのよ、気にしなくていいわ」
「そういうものなんだね」
「そういうものなのよ」
「この街のある意味での中心地、大噴水の広場はわかるわよね?」
「ログインポイントになってるところだよね?」
「そうその広場であってるわ」
「まさかそこに?」
「そのまさかよ」
「えぇ……」
「ある日、広場の屋台で食べ物を買って、噴水で食べてたらいきなり出てきたのよ」
「いきなり?」
「これは後で知ったことなのだけれど、この子の種族は影に潜る技能を持っているのよ」
「なるほどそれでいきなり……」
「それで気づいたら横にいたこの子にご飯を上げて、それを繰り返してるうちに懐かれてたのよ」
「餌付け?」
「まぁそういうことね、私としては野良猫に餌を上げるくらいの気持ちでテイムなんかは考えてはなかったんだけどね」
「しかしそういう手段でもテイムできるんだね」
「いえ、テイムはできないわよ?」
「え?」
虚をつかれた、とでもいうのかエマはしばし固まっていた。
まぁテイムの話を聞きに来て、懐いたという話を聞いたのにテイムできていないと言われればこうもなるだろう。
けれど、餌付けだけではテイムをすることはできないのだ。
なぜなら、テイム条件には力を合わせて戦闘することが必要だからである。
……ふと思ったけれど、戦闘ができない、向いていないような魔物をテイムする時はどうするのだろうか?
今度機会があれば調べてみよう。
「とにかく、餌付けやコミュニケーションで仲良くなることはできる、けれどそれだけではテイムのアビリティは生えないし、実際に契約することもできないわ」
「あくまで仲良くなることと、テイムというシステムは別物、ということ?」
「そういうことね」
「普通のテイムでは弱らせてから脅迫みたいに契約して、そこから仲良くなるために努力するというのが普通だけどカルムさんとセレーネちゃんの場合は順番が逆なんだね」
おそらく普通というのはフィールドをうろついているアクティブな魔物のことなのだろう。
襲い掛かってくる魔物をおとなしくさせて、従わせてそこから友好関係を築く。
ノンアクティブな魔物に対しては、おとなしくさせる必要はないから先に友好関係を築いておく。
そういうテイムの仕方が有効なのかもしれない。
「つまり、相手が攻撃的ではないのならこちらも攻撃的な手段を取る必要はない、そういうことかしらね」
「確かに、考えてみれば仲良くなりたいのにわざわざおとなしい魔物に喧嘩を吹っ掛けるのもあれだよね」
「話がずれて来たから戻すわね」
「うん、お願い」
「テイムのアビリティを生やして契約するには、連携を取ってある程度の戦闘をこなす必要があるのよ」
「そう言えば……」
「つまり、餌付けで仲良くなっても一緒に戦闘をしないと契約を結ぶことはできないということ」
「なるほどね」
「知らなかったの?」
「テイムに関することは秘匿されてたり、そもそもアビリティを持っている人もそんなにいなくて」
「貴女は持ってないの?」
「テイムはメイクの時に選べないからね、必要になったら調べるつもりだったの」
「つまり、テイムを持っているわけじゃないのにセレーネに釣られて話しかけてきたのね」
「うっ、そうね……」
「ふふっ」
「掲示板で少し話題になってたの」
「ん?」
「黒猫を乗せた女の子が街の中にいるって」
「えぇ……」
「あぁ、でもカルムさんの特徴とかが出てたわけでもスクショが出てたわけでもないから安心して」
「そう……」
まさかそんなところで話題になっていたとは……
確かに個人的にも少し目立つことをしてしまった気がしないでもない、やめるつもりはないけれど。
マナーが良かったことに感謝である。
別に晒されることは構わないけれど、それで人が殺到してくるのは勘弁だ。
まぁこれ以上ないほどにわかりやすい目印がいるので実際見ればすぐにわかってしまうのだけれど。
「それからどうしても気になってね」
「なるほどね、ともかく、私の話はこのくらいね」
「セレーネちゃんはなぜか最初からこの街にいた、偶然出会って餌付けして仲良くなって、テイムの条件を満たす、確かに特殊すぎる情報だね」
「最初にそれは言ったでしょ?」
「うん、まぁ得るものがなかったわけじゃないし、なによりこうして話せたのが一番の収穫だよ」
よくまっすぐとそういうことを言ってくれる……
まぁ私も初めて出会うプレイヤーとしては彼女は大当たりだとは思うけれど。
「さて、じゃあ次はこちらのターンね」
「あぁそうだった、わたしにできることなら協力するよ」
さて、情報か、物品か、それとも別のなにかか……
なにをもらおうかしら。
今日で投稿を初めて二か月になりました。
最近は忙しさもあり投稿ペースが落ちていましたが調子を取り戻せるように努力したいです。
これまで見てくださった方も、これから見てくださる方も、ありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




