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天秤のつり合いはできるだけ崩さない方がいい


 さて、渡した情報に対する対価として何をもらうのがいいだろうか……

 私の渡した情報は確かに貴重な情報なのかもしれないけれど、他の人に流用が効くような革新的な情報ではなかった。

 つまり、情報としての価値はそこまで高くないのだとも言える。

 ここで調子に乗ってあれもこれもと求めるのは筋違いである。

 やはりここは当初求めていたものをもらうとしよう。

 もとより私にとって、渡した情報は別に対価を求めるようなものではないのだ。

 しかしここでその選択をすると後々と面倒なことになっていくのは簡単に想像することができた。

 タダよりめんどくさいことはない。

 多少の対価を求めることでそういう面倒な連中は簡単に減らすことはできるのだ。

 もっとも、本当に厄介な連中はそんなことは関係なしに近づいてくるものでもあるのだけれども……


「私たちが今日、この通りに来てるのはちょっとした物が欲しかったからなのよ」

「ほうほう」

「つまり、私からあなたに求める対価は、それそのものあるいはそれについての情報ね」

「それでその探していたものって?」

「端的に言えばカップ?あるいはビーカーや瓶と言い換えてもいいかしら」

「食器?というわけでもなさそうだね」

「そうね、保存用の容器と言った方がいいかもしれないわね」

「なるほど……」

「保存用と言ってもインベントリに収納できるから蓋の類は有っても無くても問題ないわ、とにかく粉みたいな物を詰めて置ければそれでいいのよ」

「それなら用意できるよ!」

「あら、情報だけでもよかったのに」

「んー情報というよりは、わたしが作ってあげる」

「作れるの?」

「そういうのは慣れてるの」


 まぁ私とて作ろうと思えば作れなくはないのだろうけれど、安定して作るには慣れが必要だろうし今やるべきことではないと思って街に調達しに来ているのだ。

 どうやら彼女はそのたぐいの物を作るのに慣れているようだ。

 それならば、自分で作った物を渡した方がいいと思ったのだろう。

 私だって何かの見返りにナイフが欲しいと言われたら、自分で作ったものを渡すだろう。

 素材は私の負担ではなく、制作することで経験値ももらえる。

 そういう状況ならばその方が自分にもおいしいのだ。


「というと貴女もなにか生産を?」

「わたしは雑貨鍛冶をやってるの」

「雑貨鍛冶?」

「えっと……正式名称じゃないんだけどね、武器なんかを作るのを武装鍛冶、雑貨品を作るのを雑貨鍛冶とかって区別して呼んでるの」

「へぇ」

「弟子入りできる工房も、武装系なのか雑貨系なのかって二種類あってね、最初はそんなの知らなかったんだけど弟子入りしたとこが偶然雑貨系だったみたいで」

「なるほどそれでそういうものを扱うのに慣れてるってこと」

「そういうこと、最高品質とまでは言わないけどそれなりには慣れてるから安心して」

「それなら任せるわ」

「いくついるの?」


 あらためていくつ必要なのか考えてみる。

 私のやりたいことはそこまで難しいことはない。

 骨から作り出された粉末と、牙から作られた粉末の比率をいじって様子を見ることにある。

 今持っている二つの容器にまずそれぞれの粉末を粉砕機から入れて、その後に比率を分けて複数の容器に入れていくことになる。

 となれば一番わかりやすいところとしては、十パーセントごとに比率を変えるために九個だろうか……

 骨九に対して牙一の割合から骨一から牙九の割合まで変化させるというのがいいだろう。


「そうね……できれば九個かしら」

「そんなに使うの?」


 私としてもさすがに九個もねだるのはいきすぎだと思っているので何かしらの補填をしたいところではある。


「私も鍛冶をやっていてね、貴女のいうところの武装鍛冶というやつね」

「そうなんだ!」

「まぁそれで色々と材料を混ぜたりするのに必要なのよ」

「あー魔物素材を使ったやつ」

「あら知ってたの?」

「掲示板で少し話題になっててね、魔物の素材を生産に使うみたいな話が」

「なるほど……」


 どうやら私がやろうとしていたことには既に取り組んでいる人がいるらしい。

 確かに生産に力を入れている人であればもう通り過ぎたような地点なのかもしれない。


「というわけで配合を色々試したくてね、できれば九個あると助かるのよ」

「まぁそのくらいなら在庫があるから大丈夫だよ」

「やっぱり売ったりするの?」

「多少はね、最初に教えてもらったのがこれだったし基礎練習も兼ねてってとこかな」


 そういうと彼女はウィンドウを操作して九個のカップを実体化させた。

 よくある丸いカップだ、素材は鉄だろうか……


「これでいい?」

「えぇ……ありがとう」


 カップを重ねてこちらへと寄越してくると同時に目の前にウィンドウが開かれる。


 ≫トレードウィンドウ

 ≫エマからトレードの申請が来ています

 ≫表示しますか?


 エマの方を見ると頷いたのでとりあえず許可を押す。


 ≫トレードウィンドウ

 ≫以下の物品がトレード申請されています

 ≫エマ:スチールカップx9

 ≫こちらから提示する物品を追加してください


「あぁそれはなしで送ってくれれば大丈夫」

「……私から言うのもなんなのだけれど」

「うん?」

「さすがにタダで九個はもらい過ぎじゃないかしら」

「タダじゃないよ、情報に対する対価だもん」

「それにしたってこの数はちょっとね」

「気にしなくていいのに……そうだ」


 そういうと彼女はビシッっとこちらに指を突き付けた。

 割とオーバーリアクションな子である。


「それじゃあカルムさんが鍛冶で作った物を代わりにちょうだい」

「私の?」

「そう、武装鍛冶だとナイフとかだっけ、それを三本程度とかどう?」

「それでいいのならいいけれど……」

「ナイフなら戦闘以外にも使えないことはないし、実用的だから」

「そうことなら」


 なんとなく釈然としない気持ちを抱えたまま、インベントリを操作して中からナイフを三本ほど取り出す。

 開いている時間で練習に作った特に何の変哲もない単純なナイフだ。

 一応銘だけは入れてあるけれど、それも柄に隠れて表からは見ることはできないのである。


「こんなものだけど本当にいいの?」

「うん大丈夫」

「そう……」


 ≫トレードウィンドウ

 ≫以下の物品のトレードを提示しますか?

 ≫エマ:スチールカップx9

 ≫カルム:ナイフx3


 送信、と。

 すると向こう側に同じようなウィンドウが表示されたのかいくらかの操作が行われた後で再び私の前にウィンドウが展開される。


 ≫トレードウィンドウ

 ≫相手がトレード内容を受理しました

 ≫問題がなければトレードを完了してください


 完了、と。

 ウィンドウを押すとテーブルに載っていたカップとナイフがまた量子化されて消えた。

 どうやら一旦お互いのインベントリへと転送されるらしい。

 インベントリを開くと確かにスチールカップが九つ増えているのを確認することができた。


「よし、これでトレード完了だね」

「そうみたいね」


 少しばかり昼寝して満足したのか気付けばセレーネが起きてこちらを見上げていた。


「セレーネ」

「にゃにゃ」


 私が何か言う前にセレーネはエマの近くで寝ころんだ。

 どこからどこまで話を聞いていたのかは知らないけれど、どうやらエマはセレーネ的には大丈夫な判定らしい。


「えっえっ」

「触ってもいいってことよ」

「はわわわわ」

「にゃー」


 セレーネと私で目線を行ったり来たりしながら奇声を上げる彼女を促してやる。

 恐る恐ると言った感じで手を伸ばし、ゆっくりと背を撫でる。


「はわー、やわっこい……」

「ふにゃ」


 見てる側からもわかる優しい手つきにセレーネもご満悦のようである。

 エマもどこかにやついた顔でご満悦である。

 あるいはもしかしたら、この瞬間が彼女の得た一番の収穫だったのかもしれない……



「さて、もしよかったらだけどフレンド登録とかどうかしら」

「いいんですか!?」


 しばしセレーネを撫でていた彼女であったけれど、やりすぎもやくないということを心得ているのか適当なところで切り上げていた。

 そろそろお開き、という感じだったので改めてフレンド登録に誘ってみる。


「私としてもこういったものを作れる人とは知り合いになっておいた方がいいと思うのよ」

「わたしはもうこっちからお願いしたいくらいですよ!セレーネちゃんはもちろん、カルムさんもいい人みたいですし」

「みたいって貴女……」

「あぁいやそう意味じゃなくて」


 少しばかり意地の悪いことを言ってやると慌てふためく様子が面白くて少しばかり笑ってしまう。


「冗談よ、冗談」

「もう……」

「なにはともあれ、これからよろしく頼むわね」

「こちらこそ!」



 というわけでフレンド第一号を手に入れたのである。

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