こういう場所での定番中の定番
闇を潜り抜けた先の光景は予測していたものとは違っていた。
降りた先は広い通路のようで、剣を振りませるほど言い換えるなら戦闘ができそうなほどの幅を持っていた。
床も壁も天井も、綺麗に舗装されておりどうやら人工的に作られた空間であるらしい。
灯りのようなものは見当たらないのだけれど、どうやら壁や床自体が光を放っているらしく、地下であるにも関わらず視界の心配は全くなさそうだ。
降りてきた階段を見上げればそこは闇に覆われており、やはりダンジョンの中と外は区切られているようだ。
「まずはこれを確認するということだったけれど」
ストレージからスケールを取り出す。
イアサさんから降りたらまずはこれで周囲の情報を確認するようにと言われていた。
活動する時は属性力の偏りに合わせてどう動くか考えることが大事らしい。
例えば光の属性力が高ければ私は行動することもままならなくなって場合だってあるのだ。
そう言ったことにならないように属性力を観測しておくことが必要だ。
私の事情を(なぜか)知っている彼女の提案だったからここに降りたと同時に死に戻りするようなことはないと思っていたけれど。
「地110、水110、火90、風80」
基本四属性と呼ばれるらしい属性の偏りは地属性がどうやら強いらしい。
私の持っている風がこの中では一番低いのが少しばかり気になるけれど、これは地下という空間が持つ特性だろうか。
地面の下にあって風通しが悪い、といったようなものが関係しているのかもしれない。
水は地下水だとか湿っぽいみたいなところからだろうか……
火に関してはちょっと予測が立てられないけれど。
そして気になる闇と光に関しては……
「闇133、光49」
思っていた通り闇が優勢のようだ。
周囲の様子ではそこまでおどろおどろしいだとか、闇のような雰囲気は感じずむしろどこか教会に似た雰囲気がするような気がするのだけれど。
教会の地下というのが関係しているのだろうか。
しかしそれでもやはり闇の属性力がここまで強くなる要因がどこかにあるのだろう。
とりあえずこれで得られた大きな情報としては、このくらいの環境でなら活動することができるということだ。
聖属性についてはこのスケールでは観測することができないらしい。
いろいろといじってみてもこの六属性しか項目を選ぶことができなかった。
「とりあえず闇魔法と近接を中心にする感じかしらね」
「にゃー」
セレーネもやる気がみなぎっているのか私の頭の上でてしてしと前脚を動かしていた。
何があるか分からない以上、私の肩か頭の上に乗せておくことにしてある。
戦闘になったら降りてもらって後衛をしてもらうことになっているけれど。
「それじゃあ行きましょうか」
「にゃにゃ」
「にゃー!」
「あれが魔物、であってるわよね」
しばらく進んでいるとセレーネが強く鳴き声を上げたので、一旦歩みを止めると不意に目の前に黒い靄が三つ現れた。
警戒していると数秒ほどで靄のそれぞれから灰色のネズミが飛び出してくる。
計三匹のネズミは通常のネズミよりははるかに大きい、とはいえ元がネズミなのでそれでも膝くらいの大きさだ。
こういったゲームをやるたびに思うことではあるのだけど、リアルで見る大きさの何倍もあるというのは少しばかり恐ろしさを感じる。
動物ならまだしも大型の虫などはディティールにもよるけれど背筋に来るものがあったりするのだ……
「セレーネはここで待機しててちょうだい」
「にゃ」
セレーネを床に下ろしてネズミと向き合う。
とりあえず私だけで戦ってみる。
それほど強くはないと思うけれど相手の力を確認しておくことは大事だ。
こちらに気付いているのか、あるいは最初からこちらに向けてポップしたのかネズミたちも体勢を低くしてこちらを警戒している。
ならば先手必勝である。
「ダークボール!」
右手で剣を握ったまま、左の手のひらを相手に向けて魔法を唱える。
魔法の原理的にはワードだけが必要で動作は要らないのだけれどまだ慣れていないため暴発を防ぐのには想像しやすい動作を取り入れておく。
慣れてこればいずれは必要なくなると思うのでそこは実戦あるのみである。
ネズミも飛んでくる魔法を前に棒立ちとはならず飛びのきボールをかわす。
しかしそれも織り込み済みだ。
ボールが当たるならそこに追撃を、避けられたならば避けた先に攻撃をという意識ですでに体は前へと飛び出している。
避けた先は右に一匹、左に二匹。
となれば当然ここは右のネズミに攻撃を仕掛ける。
「せい!」
おそらく高いであろう吸血鬼の膂力でもって、切るというよりは叩きつけるように両手持ちした剣を横に振るう。
鍛冶師としてはいささか複雑な心境ではあるものの、今の私の作った剣では斬撃というよりは打撃をイメージした方がダメージが出るようなことになってしまうのだ……
ボールに気を取られて回避行動をしていたネズミは私の剣を避けることはできずにジャストミートする。
剣を握る手元に反動が鈍い衝撃となって返ってくる。
取り落とすようなほどの強さではないけれど反動が返ってくることは想定しておかなければならないようだ。
「一撃なのね」
剣によって吹っ飛ばされたネズミはそのまま壁にぶつかった後、出現時と同じように黒い靄となって消えていった。
壁にぶつかった時にダメージがあるのかは気になるところではあるけれど今は置いておいて残りの二匹に注意を向ける。
「おっと」
こちらが攻撃した隙を狙って飛び込んできたネズミに対して体をひねってかわす。
リアルでは到底無理な動きだけれどもここではそれができる。
一種のステータスの暴力である。
そしてこのままひねった勢いを利用して――
「もう一匹!」
続いて飛び掛かってきていた三匹目に向かって剣を上から振るう。
ガン!と鈍く大きい音を立てて剣ごと床に叩きつけられたネズミも最初のネズミと同様に黒い靄になって消えていった。
「ダークボール!」
後はさきほどかわしたネズミに向かって魔法を撃ちこんで、足りないようならすぐに追撃できるように備えておく。
どうやら今度はかわすことができないようでボールに直撃したネズミはそのまま消えていった。
「やっぱり魔法の方が威力が高いのかしら」
剣で攻撃した場合は壁や床にぶつかってから消えていたけれど魔法の場合はその場で消えていた。
私の闇魔法には種族による補正が乗っているので、属性力との兼ね合いで結構な威力になっているだろうとは予測をしていたけれど。
壁や床に叩きつけられることで追加ダメージが出ていたのだろう。
大量の相手に対して巻き込むように敵を飛ばしたい時は魔法ではなく剣で攻撃した方がよさそうだ。
なにはともあれ、危なげなく初戦闘は勝利で終えることができた。
他のプレイヤーの初期能力がどのくらいのものかはわからないけれど、途中でやったような身体能力に任せた無理な体の使い方はできないだろう。
いくら弱い魔物とは言え一撃で仕留めることができたし、この吸血鬼という種族がどれだけ高い能力値を持っているかはわかった。
そして強烈なデメリットもそれを考えればなんとなく頷けてしまうというものである……
「にゃー」
「おっと、そうね移動しながらでも考えられるものね」
いつの間にか近寄ってきていたセレーネが再び器用に私の体をよじ登り、頭をてしてしと小突いてくる。
どうやらここでじっと考えてないで先を進みたがっているようだ。
会話ができるわけではないけれど、自己主張が結構激しいのでなんとなく考えていることが察してしまえるのだ。
警戒はセレーネにある程度任せて、歩きながらウィンドウを開いて色々と確認をしてみる。
とは言ってもさすがに一回の戦闘くらいではレベルもアビリティも上がった様子は見られない、これはまぁわかっていたことだけれども。
いくら序盤とは言えこれだけで上がっていたら逆に怖いくらいだ。
このゲームにおいて、あるいはダンジョン内に限った話なのかもしれないけれど、黒い靄から発生した魔物は倒したら靄になって消えてしまった。
けれどドロップ品というのはちゃんとあるようで、インベントリに【灰鼠の牙】が二個、【灰鼠の骨】が一つ追加されていた。
どうやらあのネズミは灰鼠というらしい、実に見たままの姿である。
素材としてのランクはわからないけれど、どっちにしろ今の私には使えるアビリティがなさそうな素材だ。
「にゃー!」
「敵ね」
セレーネの合図で前に注意を向けると、再び黒い靄から灰鼠が現れようとしていた。
靄の数は四つ、つまり今度は四匹で先ほどよりも一匹多い。
とりあえず一人での戦闘は経験できたので次はセレーネと一緒に二人での戦闘を試してみよう。
「セレーネ、援護お願いするわね」
「にゃ!」
「前には出ないようにね」
「にゃ……」
なんだか微妙にやる気がそがれてしまったようだ。
猫の狩猟本能的なものかなにかが肉弾戦を従っているんだろうか……
しばらくは後衛に徹してもらうことになるので若干申し訳ないけれど、これも彼女のためなのだ。
「とりあえず、ダークボールを真ん中にお願い、後は適宜フォローという感じで」
「にゃ」
完全に灰鼠が現れるまでに簡易な作戦を立てる。
さきほど戦った感じではこのくらい適当な作戦でもおそらくなんとかなるだろう。
最初からあんまりガチガチに作戦を立ててもうまく連携ができないと思うし……
「にゃー!」
「ダークボール!」
掛け声染みた鳴き声と同時に闇属性のボールが相手に向かって飛んでいく。
それに遅れて私も魔法を放つ。
先ほどと同じように先に撃たれたセレーネの魔法は回避されてしまうが、その後の私の魔法はキッチリ命中して相手を靄へと帰した。
思った通り、動きは早いけれど行動後の隙は結構大きいようだ。
初撃を回避させて追撃で仕留める。
あるいは敵の攻撃を回避してカウンターを仕掛ける。
灰鼠に関してはこの戦法でよさそうだ。
「せっ!」
三匹になった灰鼠の一匹に接敵して横薙ぎを仕掛ける。
既に体制を立て直していたためにこれも回避されてしまうけれど、それも予測済みだ。
相手のカウンターを先ほどの戦いの時と同じようにステータスに任せて強引に避けて逆にカウンターを入れてやる。
「よし、あっちは――」
視線を残りの二体に向けるとこちらに向かって飛び掛かろうとしているところをダークボールで撃ち落とされていた。
一撃で消滅しないところからやはり私の魔法の方が威力は上のようだ。
「はいっと」
撃ち落とされていなかったもう一匹を縦斬りで叩き潰して消滅させ、返す勢いで床に落ちた最後の一匹に攻撃を与えて戦闘を終了する。
やはり思ったよりも楽に戦闘できている。
高ステータスとセレーネの存在が大きいだろう。
このくらいの敵ならばそうそう苦労はしないで進められそうだ。
という思いがフラグでしかないのは、あるいはここに記さずともすでに分かり切ったことである。




