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せっかくだから私はこの赤の扉を選ぶわ


「分かれ道……」


 通路をしばらく進んだ私たちの前に、三つの分岐が姿を現した。

 ダンジョンらしさが出てきたということだろうか。

 さて、どう進むべきか……

 この手の場合の鉄則として左手の法則というものがある。

 迷路を進む際に、左手をずっと壁に触れさせた状態で進めば、最終的にはゴールにたどりつくというものだ。

 つまり、すべて分岐路を左へと曲がることと同じだ。


「とりあえずはその方向で行きましょうか」


 私はメニューからキャンバスを選択する。

 この機能はメモ書きのような機能で、思いついたことをメモしたり、作りたい装備品のデザインを描いてみたり、と多岐にわたって活用できる便利機能だ。

 私が今からやるのはもちろんマッピングである。

 分かれ道を進んだ結果、迷子になって帰れないだとか一度選んだ不正解の道に何度も行ったりだとかそういうのを防ぐためだ。

 左手法を使うのであれば帰る時は逆に右に曲がり続ければいいので、ほぼほぼいらない心配ではあるものの念には念をというものである。

 それにちょっとした狙いもあるのだ。

 キャンバスに今まで歩いてきた通路と三つの分岐を記す。

 そして今まで通ってきた道には星マークを、これから進む左の道には矢印を目印として添えておく。



「こっちは外れだったみたいね」


 私たちが進んだ道はほどなく行き止まりとなっていた。

 分かれ道から更に分かれ道になったりはせずにある意味で潔いほどにただの行き止まりだった。


「さて、面倒な騙しはないけれどやっぱりお客さんはいるのね」

「にゃー!」


 一応行き止まりの壁を叩いてみたりして、何もないことを改めて調べた私たちが通路を引き返そうと振り返ると、それを待っていたかのように黒い靄が現れる。

 さすがに本当に何もないというわけではないらしい……


「セレーネ、魔法準備!」

「にゃあ!」


 靄から五匹の灰鼠が姿を現す。

 通路を進んでいた時には基本的に三匹、たまに四匹という感じだったので通常のエンカウントよりも敵の数が多いということになる。


「今!」

「にゃにゃ!」

「ダークボール!」


 相手が出現しきったタイミングを見計らって魔法を放つ。

 先手を取ってとにかく数を減らすところからだ。

 おとりとして放たれたセレーネの魔法をかわした灰鼠を私の放つ魔法が危なげなく打ち抜く。

 まずは一つ。

 後は相手の回避やカウンターを誘って沈めていくだけだ。


「くっ!」


 二匹、三匹と仕留めたまではよかったけれど、さすがに敵の数が多かったのか残った敵の突進をまともに食らってしまった。

 リミッターによるものか痛みはそこまでないけれど、衝撃は伝わってくるので体制は自然と崩れてしまう。

 好機とばかりに灰鼠が追撃を仕掛けてくるがしかし、そこは相棒の出番である。


「にゃにゃにゃ!」


 横合いから飛んできたボールによって魔物が壁に叩きつけられる。

 数が減ってこうなってしまえば後は慣れたものである。

 手早く残りの敵を倒して体を落ち着ける。


「にゃー」

「ありがとうセレーネ」

「にゃにゃにゃにゃ」


 危ないところを助けてくれたセレーネをとりあえず撫でまわしておく。

 そう言えば初めてダメージを受けたので視界の端に映るHPバーを確認しておく。

 減りはそこまで多くない、この程度のダメージであれば何回か受けるまでポーションは要らないだろう。



 小休憩を挟んで分かれ道に戻ってきた私たちは再び違う道を進む。

 もちろん左手法に沿った道選びだ。

 キャンバスにも新しく進んだ道に矢印を書き足しておく。

 ついでに行き止まりだった道には矢印にバツ印をしておく。


「扉?」


 どうやら今度は行き止まりではないらしい。

 突き当りを見た時にはまたはずれを引いたのかと思ったけれど、どうやらそうではないようだ。

 慎重に近づいて確認する。

 黒い鉄製の扉を触ったり、ノックしてみても特に反応は見当たらない。


「とりあえず開けましょうか」


 進まなければ得るものもない、とりあえず警戒しつつ扉を開けると中は小さな四角い部屋になっていた。

 部屋と言っても、特に中になにかあるわけでもない。

 箱状の空間に入ってきた入口の扉と、おそらく出口であろう扉があるだけの空間である。

 出口と思わしき扉を慎重に開けてみれば、その先には入口側と同じように通路が続いているようだった。

 通路と通路をつなぐ安全地帯、ような場所なのだろうか。

 とりあえず安全そうならば利用させてもらうだけである。

 本当に何もない殺風景な部屋ではあるものの、こういう場所では腰を下ろして休むことができる場所はありがたいのだ。

 一応通路を戻り、残り一つの分岐を調べてみたけれど、最初のものと同じで行き止まりと魔物のセットに出くわすことになったのですごすごと退散することになった……


「とりあえずここで少し休んだら先に進みましょうか」

「にゃあ!」




「それにしてもいつまでつつづくのかしら……」


 幾度目かの小部屋の中で座り込み溜息を吐く。

 戦闘も順調にこなせることがわかり、順調に見えていた私たちのダンジョンアタックは今、しかし順調とは言いにくい進み方になっていた。

 敵に苦戦しているわけでもない、道に迷ったわけでもない、何に邪魔されるでもなく、ただ単純にフロアが想像以上に広かったのだ。

 話に聞いていた限りこのダンジョンは教会の、そしてユーノンの街の地下に広がっているとのことだった。

 だからこそその大きさというのはなんとなくの検討をつけていたのだ。

 短い日数とはいえ何度も歩いた街なので大体の感覚はわかっていた。

 わかっていた、のだけれども……

 どうやらダンジョンというものにはそういった大きさの検討はおよそ無駄であるらしい。

 道が曲がったり分かれ道になっていることを鑑みても、どう見ても現在歩いている範囲だけでその想定を上回る大きさであることが伺える。

 幸い魔物の出現ペース、あるいは敵のポップ位置、どちらかはわからないけれどとにかくその間隔は長いようだ。


「セレーネ、貴女は疲れてないかしら?」

「にゃにゃ!」


 セレーネを抱えて撫でてやるとまだまだ気力十分と言った鳴き声が返ってくる。

 まぁこの子は魔法を使ってるとは言え、基本は私の頭に乗っているのだ、そんなに疲れているわけではないのだろう……

 まったく、良い御身分である、しかしもふもふなので許す。

 戦闘で消費するMPは少ないとは言いきれないほどの量であるけれど、幸いなことにエンカウント間隔が長いのと時間経過で回復するため問題はなかった。

 HPに関しても後衛専門になってもらっているセレーネはともかく、私はいくらかダメージをもらってしまったものの吸血鬼の持つ再生アビリティによって補えるほどだ。

 今のところ回復約には頼らずに済んでいるのはありがたい話だ。


「さて、出発しましょうか」

「にゃ」


 セレーネが昇ってくるのを待ってから部屋を後にする。

 数時間さまよって分かったことだけれどこの階層の造りは大きさに反して簡単らしい。

 一本道の通路をしばらく進むといくらかの分かれ道になる。

 不正解の道を進めば行き止まり、正解の道を進めば小部屋に繋がってその繰り返し。

 実質的な一本道と言える状態だ。

 そのため左手の法則云々以前にマッピングはほとんど意味のないものになっていた。

 もっともこれに関してはオートマッピングのようなアビリティが発現することを期待してのことなのでそこまでの問題ではないのだけれど。

 このダンジョンには採掘できそうなところも、採取できそうなところも、ダンジョンにありがちな宝箱も見当たらない。

 ただただ人工的に作られたような通路と小部屋を進みながら灰鼠を狩る作業をするだけの場所と化している。


 小部屋を出発し、通路を歩き、魔物と戦い、分かれ道を進み、行き止まりを戻り、正しい道を選び、小部屋で休憩する。

 そんな代わり映えのしないサイクルを幾度か繰り返し、私たちはようやくこれまでと違う景色を目にした。


「いかにもなにかあります、と言わんばかりの扉ね」

「にゃあ」


 通路の突き当り、今までであれば小部屋に繋がる黒い扉が合った部分には、ものものしい装飾の施された大きな赤い扉が存在していた。

 直感的なことを言えばこれはいかにもなボスを予感させるものだ。

 確かボスは五階にいるという話だったのだけれど、このようないかにもな扉で何もないということはないだろう……

 とすれば通常の敵よりは強い、くらいの敵が配置されていると考えるのが自然だろうか。

 視界に表示されるHPとMPを確認する。

 どちらも全快の状態で問題はない。


「セレーネ、この先は多分強敵だけど大丈夫かしら」

「にゃ!」

「よし、いけそうね」


 さて、鬼が出るか蛇が出るか……

 ある意味で退屈な作業になっていたこのダンジョンアタックにもようやく新しい刺激が来るようだ。

 生産中心であることに特に文句はないのだけれど、それはそれとしてやはり戦闘も楽しみたいというのが正直な気持ちでもある。

 少しばかり楽しみな気持ちで私は赤い扉に手をかける。



今日で投稿を初めて丸一ヶ月が経過しました。

これまで見てくださった方も、これから見てくださる方も、ありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

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