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第46話 メインヒロイン同士のバトルの開幕は欠かせなくて

翌日の昼休み。

魔術学院の巨大なカフェテリアは、数百人の生徒たちが発する活気ある喧騒に包まれていた。


「いやー、今日も平和なモブランチだ」


ハイドは、向かいに座る友人たち――ジミーとヘイボンと共に、いかにも『一般生徒』らしい噂話に花を咲かせていた。


「おい、聞いたかハイド? 今、王都を騒がせているあの『連続通り魔事件』のこと」


ジミーが声を潜めて、身を乗り出してくる。


「うん。昨夜も凄腕の冒険者がやられたらしいじゃないか。おっかないよなー」


ハイドは適当に相槌を打ちながら、内心で(くぅ〜ッ、これだよこれ! モブキャラ特有の『事件の噂話』イベント! この安全圏から眺めるサスペンス感、最高に平和だ!)と歓喜の涙を流していた。


「実は、あの事件……被害者に実力者が多いのには、明確な理由があるらしいんです」


ヘイボンが、勿体ぶった様子で声を落とす。分厚いメガネの奥の目が、ミステリーの語り部のように光っていた。


「近々、開かれる国で一番の魔術師を決める『魔導祭』ですよ。通り魔に遭った人たちは、みんなその魔導祭に出場する予定だった猛者ばかりらしいんです。だから学園の掲示板じゃ、色んな憶測が飛び交ってますよ」


「そうそう!」

ジミーが興奮気味にバシッとテーブルを叩いて続ける。


「大会の優勝を狙う参加者が、事前にライバルを減らすために襲ってる説! それか、魔導祭を主催する法国そのものに不満を持ってる反体制派のテロリスト説! 果ては悪魔の復活説まであるぜ!」


(素晴らしい! 君たち、完璧なモブの解説役(チュートリアル)だよ!)


ハイドは心の中でスタンディングオベーションを送った。自分は一切事件に関わらず、こうして第三者として安全圏から噂話を楽しむ。これぞモブとして至高の娯楽であった。


「まあ、そんな物騒な事件、僕らには一生縁がないさ。早くご飯食べて午後の授業に備えようよ」


ハイドが完璧で平凡極まりないセリフで締めくくろうとした、まさにその時である。


「あら。ずいぶんと物騒な噂話をしていますのね」


突如として、鈴を転がすような甘い声が鼓膜を撫でた。

現れたのは、完璧な令嬢の微笑みを浮かべる幼馴染――セリアだった。


「せ、セリアさん……? なんでこんな一般生徒のテーブルに……」


「ふふっ。わたしもそのお話には、とても興味がありますわ」


セリアはハイドのツッコミを華麗にスルーし、有無を言わさず隣の席へと優雅に腰を下ろした。


「あら? そういう話なら、わたしの方が詳しい話をしてあげられるわよ」


セリアの言葉を遮るように、今度は背後から絶対零度の冷気を纏った凛とした声が響いた。

一瞬にして、カフェテリアの室温が氷点下まで急降下する。ジミーが飲んでいたグラスの水が、カチンコチンに凍りついた。


「シ、シルヴィ!? どうしてここに?……」


そこに立っていたのは、白銀の髪を揺らす氷の令嬢、シルヴィ・フロストだった。


「どうしてって? 昼休みに『恋人』と一緒にいたいと思うのは、おかしなことではないでしょう?」


シルヴィは完全に焦点の合っていない、何かに憑かれたようなギラギラした瞳で、ハイドの手をガシッと力強く握りしめた。


その瞬間。

セリアの完璧な笑顔から、スッと一切の感情が抜け落ちた。


「……あら。随分と馴れ馴れしいですわね、氷の令嬢。ハイドの恋人面でもしているつもりかしら?」


「事実だから。しょうがないでしょ」


ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!


ピキピキピキッ……!!


二大ヒロインの魔力が、ハイドを挟んで正面から激突する。


ヒロインたちの放つ殺気に、平和だった学食は一瞬にして地獄の戦場へと変貌した。


「ひぃぃぃぃッ!! ママーーーッ!!」


「俺たちには関係ない! 命が惜しけりゃ逃げろォォォッ!!」


ジミーとヘイボンは、文字通り蜘蛛の子を散らすように、涙目でカフェテリアから逃亡した。周囲でランチを楽しんでいた数百人の生徒たちも、トレイを放り出して悲鳴を上げながら避難を始める。


「いや、待って! ジミー! ヘイボン! 俺を置いていくなァァァッ!!」


残されたのは、極寒と超重力が交差する地獄のグラウンド・ゼロにポツンと座るハイドただ一人。彼が伸ばした救いを求める手は、虚空を空しく掻いた。


「……そろそろ、白黒ハッキリつけましょうか」


「そうね。後腐れなく、ここで殺し合いでもする?」


(おいやめろ! 学園のカフェテリアで命の奪い合いを始めるな! 被害総額いくらになると思ってんだ!)


ハイドが内心で大パニックに陥る中、セリアがふと、何かを思いついたようにポンと手を打った。


「ふふっ、さすがは氷の令嬢。物騒なことを言いますわね。……そうですわ。そろそろ、魔導祭に出場するための『学園選抜』が始まります。そこで、優勝した者がハイドを『好きにできる』……というのはいかがでしょう?」 


「……いいわ。受けて立つ」


(違う! 俺に選択権はないのか!? 俺が求めてるのはこういうラブコメ主人公みたいな血で血を洗う修羅場じゃなくて、もっとこう、目立たない平穏なモブ生活なんだよォォォッ!)


ヒロイン二人の間で、(※景品はハイド)の契約が、勝手に交わされてしまった。

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