第43話 陰の実力者の元仲間たちは確信する
冷たい石造りの部屋に、重苦しい沈黙が張り詰めている。微かに揺らめく蝋燭の炎が、恐怖に顔を引きつらせた三人の少女の影を不気味に映し出していた。
組織の幹部であるセプタ、セクス、クインの三人は、震える手で一枚の報告書を握りしめている。
そこに記されていたのは、信じがたい、しかし紛れもない事実だった。
「……ぁに、これ……」
最初に口を開いたのは、セプタだった。彼女は目をこすり、あくびを噛み殺しながら、とろそうな声でぽつりと言った。
「……ねむ……。私たちが送り込んだ精鋭の調査部隊が……全員、一瞬で消し飛ばされたって……? 夜更かしして読むには、ちょっと内容がホラーすぎるんですけど……」
「寝てる場合じゃないわよ、セプタ!」
同じく女性幹部であるセクスが、ヒステリックな声を上げて机を叩いた。その整った顔面は恐怖で青ざめ、愛用の短剣を持つ手が激しく震えている。
「ここに書いてあることは本当なの⁉︎ノノ」
三人の中で最も冷静なはずのクインも、今や顔を真っ青にして歯を鳴らしていた。彼女は恐怖に怯える目で、ノノから手渡された報告書を引
き抜いた。
「はい……事実です」
「送りこんだのは、私たち『七極』に次ぐ実力者たちよ。それがこんな……」
クインの言葉に、セクスと、先ほどまで眠そうに目をこすっていたセプタの動きがピタリと止まった。
――『アテル』。
かつて世界を陰から支配した規格外の魔力を持った伝説の大魔導師。そして、彼女たち『七極』が殺した元主
「まさか……」
セクスが息を呑み、青ざめた顔で仲間に視線を向ける。
「ここまできたら、もう確定でしょ……。彼は蘇った。そして、あの学院に間違いなくいる」
クインが歯を鳴らしながら断言する。
セプタはあくびの涙を引っ込め、本気で冷や汗を流しながら震え出した。
三人は、報告書に記された『絶影』の正体が、まぎれもなく、アテル本人であると確信していた。自分たちに復讐するために蘇ったのだと、恐怖のあまり抱き合いながら震えていた。
だが――
セプタたちの混乱をよそに、ノノは一切言葉を発することなく、ただ静かに口を閉ざしていた。
ノノの胸中に去来していたのは、恐怖ではなかった。
むしろそれは、胸が張り裂けそうなほどの、熱狂的な崇拝と歓喜の感情だった。
遠目にのぞいた絶影の姿が鮮明に脳裏によみがえる。
圧倒的な実力差。嘲笑うことなく、冷徹に「足りない」と見放して闇へと消えていった、あの底知れぬ神々しさ。
ノノの脳裏には、ある壮大な野望があった。
彼女自身が長年抱き続けてきた、だが、自分一人の力では、彼女たち『七極』は強すぎた。どれほど鍛錬を積もうとも、到達できない壁がいくつもあった。
ノノは一切言葉を口にしなかったが、その瞳にかかつてないほどの強烈な狂気の光を宿し、ゆっくりと顔を上げた。
(アテル……いいえ、絶影)
ノノは一言も発することなく、ただ胸元にそっと手を当て、トクトクと高鳴る鼓動を感じ取っていた。
(あいつを利用すれば、きっと……)
セプタたちが恐怖に怯え、セクスが取り乱し、セプタが再び眠気に襲われそうになるのをよそに、ノノは窓の外の夜空を見上げる。
その視線の先にある魔術学院の方向には、今日も不気味な漆黒の霧が静かに渦巻いていた。




