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第4話 「あらあら、笑ったわ!」(※底辺モブから全てを奪い返す、陰の実力者の邪悪な笑みです)

魔力制御のテストを終えたアテルだが、現状の大きな壁に直面していた。


今の彼は、まだ生後間もない赤ん坊だ。自分の声帯でまともな言葉を発することはおろか、自力で寝返りを打つことすらできない。おまけに時間の感覚もまだ非常に曖昧で、今が前世から何年後の世界なのか、裏切った七人が今どうなっているのかもわからない状態だ。


しかし、彼には圧倒的な『時間』があった。

なにしろ、彼は見事なまでに平凡な赤ん坊として転生を果たしたのだ。労働の義務も、裏社会の組織を運営する煩わしい決済書類の山もない。


見渡す限りの素朴な木組みの天井を見つめながら、彼の小さな胸の内で、熱い野望の炎がメラメラと燃え盛る。


(――赤ん坊の仕事は『寝て、飲んで、泣く』ことだけ。つまり、ありあまるこの24時間を全て、隠密裏の魔力修行と基礎トレーニングに使い放題というわけだ! 僕は今度こそ、誰にも気づかれない真の『陰の実力者』になってやる……!)


前世では、有能な側近たちの野心によって道半ばで強制終了させられた夢。

表舞台には決して立たず、しかし裏から世界を牛耳り、影から政治・経済・軍事のすべてを操る究極の存在。


そして何より、自分から組織を奪い取り、今頃は表舞台で英雄気取りをしているであろう『七人の裏切り者』たちへ、圧倒的な絶望(カタルシス)をプレゼントするための復讐劇。


(奴らは俺の作った舞台の上で踊っているに過ぎない。底辺のモブからその基盤を一つ残らず解体し、絶望の中でひれ伏させてやる……!)


それを実現するためのリスタートラインに、今、彼は立った。


寝返りすらままならない肉体で、どのようにして周囲の目を欺き、効率よく修行を重ねるべきか。


ミルクをねだるために泣くふりをして肺活量と発声器官を限界まで鍛え上げ、母親が抱き上げる際の魔力循環を観察してこの世界の魔法体系を分析し、睡眠時間を極限まで削って精神力と魔力回路の拡張に勤しむ。


(まずは、この脆弱な乳児の肉体を、モブの皮を被った化け物へと徹底的に鍛え上げることだ。誰にも気づかれないように、密かに、着実に……!)


「ねえ、見てあなた。なんておとなしくて手のかからない、賢そうな赤ちゃんなのかしら」


「ああ、本当だ。俺たちにはもったいないくらい可愛いな。名前は『ハイド』にしよう。ハイド・ノーマンだ」


周囲(両親)からはそんな風に微笑ましげに囁かれているが、当の赤ん坊の内面で繰り広げられているのは、世界征服をもくろむ魔王さながらのシビアな修練計画であった。


(ハイド……『Hide(隠れる)』に通じる、モブには打ってつけの最高にクールな名前じゃないか。よし、今日から俺は村人Aのハイド・ノーマンだ)


柔らかいおくるみの布の感触に包まれながら、ハイドは口元をフッと歪める。


もちろん、赤ん坊の顔の未発達な筋肉でそれがどれほど不気味で邪悪な笑みになっているか、彼自身は知る由もない。


「あらあら、ハイドが笑ったわ! きっと名前を気に入ってくれたのね!」


「ははは、元気な子に育ってくれよ!」


――両親の盛大な勘違いと温かな愛情に見守られながら。


こうして、元・陰の実力者の異常な執念を宿した赤ん坊の、狂気と野望と復讐に満ちた第二ラウンドが、最弱のモブとして静かに幕を開けた

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