第28話 陰の実力者の元仲間たちは確かめたくて2
ーー入学試験から数日後……
王都の地下深くに位置する、豪奢だがどこか息苦しい空気に包まれた隠し部屋。
そこには、数日前の夜と同じく、王国の裏社会を牛耳る『七極』の幹部であるセクス、セプタ、クインの三人が顔を突き合わせていた。
部屋を照らす魔晶石の薄暗い光が、彼女たちの青ざめた顔に深い影を落としている。かつて、不要になったアテルをゴミのように冷酷に切り捨てた時の「傲慢な強者の余裕」など、今の彼女たちには微塵も残っていなかった。
「……あの廃教会の一件から数日。裏社会のネットワークを総動員して探らせたけれど、アテルに繋がる情報は一切掴めないわ」
重苦しい沈黙を破ったセクスの声は、ひどく掠れていた。普段は隙のない美貌を誇る彼女だが、その目の下には連日の心労と恐怖による濃いクマがくっきりと刻み込まれている。
「ふぁ……眠いのに、目を閉じると嫌な夢ばかり見るのよぉ……」
気怠げな声で呟くセプタも、異常だった。彼女は常に余裕ぶって欠伸をしている女だったが、今、ワイングラスを持つ指先は小刻みに震え、無意識に自らの爪をガリガリと噛む悪癖が止まらない。夢に現れるのは、底知れぬ魔力で自分たちを蹂躙し、「報いを受けさせてやる」と見下ろしてくるアテルの冷たい瞳ばかりだ。
見えない恐怖というものは、確実に精神を削り取る。彼女たちはすでに『怪物となって蘇ったアテルが、深い闇の底に潜んで自分たちの喉首を狙っている』という強迫観念に完全に囚われていた。風の音や、廊下を歩くネズミの足音にすらビクッと肩を揺らす始末である。
コン、コンッ。
その時、重厚な扉をノックする音が響いた。
それだけで三人の幹部はビクゥッと体を強張らせ、セクスに至っては反射的に防御魔法を展開しかけた。
しかし、音もなく部屋に入ってきたのは死神ではなく、黒装束に身を包んだ赤髪の少女だった。彼女たち『七極』直属の部下であり、暗殺部隊のまとめ役であるノノだ。
「セクス様、セプタ様、クイン様。ご報告いたします。『王都・魔術学院』への潜入任務、手配が完了いたしました。我が部隊から最も優秀な若手工作員数名を、わたしを含め、新入生として紛れ込ませることに成功しました」
恭しく片膝をついて頭を下げるノノ。その報告を聞き、クインが神経質そうに荒れた唇を舐めた。
「よくやったわ、ノノ。もしあの男が生きているならば、あの『魔術学院』に紛れ込む可能性は高い……。でも、たった数名? どうしてもう少し人員を送りこめなかったの?」
「そう責めないでやりなさい、クイン」
セクスが冷たい瞳で、机の上の書類を指先で弾いた。
「あの学院は歴代の聖女を輩出してきた場所であり、『聖教』の息が強くかかっている聖域でもある。私たちも簡単には手出しできないのよ」
「そういう、こと……。連中、中々弱みを……見せ……ない……から……」
「ちょっとセプタ! 恐怖逃避で寝てはダメよ! とにかく、アテルが生きている可能性がある。学院内で起きるあらゆる『異常』、規格外の魔力、不審な事件……そのすべてから絶対に目を離さないように伝えなさい!」
ヒステリックに叫ぶクインと、それを厳しい顔で肯定するセクス。
幹部たちのただならぬ焦燥感と命令に、黒装束の少女・ノノは深く頷いた。
「はっ。承知いたしました」
忠誠を誓う優秀な部下の言葉。しかし、それでも安心できないのか、クインは怯えたように身を震わせ、すがりつくような悲痛な声でノノに忠告した。
「……いいこと? あくまで監視と情報収集に徹しなさい。もし万が一、それらしき『異常な存在』を見つけても、絶対に、絶対に手出しは無用よ! ……私たちの命運は、あなたたちの双肩にかかっているのよ」
「御意……!」
ノノは深く頭を下げながら、伏せた瞳の奥で暗い炎を灯していた。
裏社会に君臨する絶対者たちを、ここまで怯えさせる『アテル』という存在。その途方もない力と執念に、彼女は暗殺者として、そして一人の少女として、抗いがたいほどの「興味」と「野望」を抱き始めていたのだ。
(必ず……私が見つけ出してみせる)




