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第14話 さらわれた幼女、逆恨みの盗賊、陰の実力者は鈍器と共に砕け散る」

「いやー、やっぱり村の空気は最高だな! 今日は畑の雑草抜きでもして、完璧な『村人A』としてのノルマを堅実にこなすとするか」


古びた麦わら帽子を深く被り、平和にクワを振るっていたハイド。強大すぎる力を持っていようとも、それを隠して生きるこの地味な日常こそが彼の至福なのだ。

しかし、その愛すべき平穏は、突如として無惨に引き裂かれた。


ドドドドドッ!!


突如、平和な村の静寂を切り裂くように、地鳴りのような馬蹄の音が響き渡った。土煙を上げて村の広場になだれ込んできたのは、太陽の光を反射する白銀の重武装に身を包んだ「王国軍の精鋭部隊」であった。

そのあまりにも物々しい雰囲気に、のんびりと農作業をしていた村人たちの間にあっという間にパニックが広がる。


「な、なんだなんだ!?」

「王国軍様がなぜこんな辺境の村に……!?」


ざわめく村人たちに混ざり、ハイドもまた完璧なモブに徹して野次馬の後ろに隠れながら、内心では滝のような冷や汗を流していた。


(ヤバいヤバいヤバい!! まさか、あの洞窟での一件がもうバレたのか!? いや、顔は見られていないはずだ! 落ち着け俺、ここはただの『怯える村人A』を完壁に演じきるんだ!)


ガチガチに震える村人を装いながら様子を窺うハイドの前で、部隊を率いる歴戦のオーラを纏った厳格な騎士隊長が、馬上から村人たちに向かってよく通る声を張り上げた。


「皆の者、突然の訪問を許してほしい! 我々は現在、ある『少女』を救出するために動いている!」


(少女……?)


「ヤツは現在、銀髪で純白のローブを着た十歳ほどのその少女を人質に取っている。我々王国軍も容易には突入できん状況だ。だが、不可解なことに身代金の要求はない。代わりに……ヤツは砦の入り口に、奇妙な『呼び出し状』を張り出していたのだ」


(銀髪の少女? 身代金目的じゃない? いやいやいや、まさか俺が置いて立ち去ったあの直後、あの幼女が盗賊に攫われたのか!?)


ハイドの思考が急速に嫌な方向へと回転し始める中、騎士隊長はひどく困惑したように、あるいは屈辱に耐えるように眉間を深く揉みほぐした。


「ヤツは我々王国軍に対し、このように要求している。『――あのふざけた黒マントの野郎を連れてこい』、と」


(黒マントの野郎……!?)

嫌すぎる予感が確信に変わり、ハイドの背中を氷水のような冷や汗が伝う。


騎士隊長は懐から厳重に封をされた羊皮紙を取り出し、村人たちの前でその内容を読み上げ始めた。


「ぶっ!!?」


ハイドは思わず、持っていたクワを自分の足元に落としそうになり、変な声を漏らした。

(俺宛てじゃねーか!! なんでだよ! 俺はお宝を譲ってやった親切な通りすがりだろうが!! なんで俺が名指しでガッツリ恨まれてんだよ!!)


ハイドが内心で大パニックに陥っていることなど露知らず、騎士隊長はひどく深刻な顔で、ポカンとしている村人たちに尋ねた。


「……皆の者、心当たりはないか?」


「し、知りませーん!! そんな恐ろしい化け物、この平和な村にいるわけないじゃないですかー!!」


ハイドは裏返った声で全力のモブアピールを放ち、周囲の村人たちも「そうだそうだ!」「見たこともない!」と口々に同調した。

騎士隊長は「そうか……無理もない。すまなかった」と深く肩を落とし、次の村へと馬首を巡らせて去っていった。


土煙を上げて遠ざかっていく王国軍を見送りながら、ハイドの目は完全に死んだ魚のようになっていた。


(終わった……。俺のモブ生活、大ピンチすぎる……)


自分が適当にアイテムを投げ捨てたせいで、あの銀髪の幼女が攫われた。しかも、犯人の盗賊はなぜか自分を逆恨みし、王国軍に『絶影(俺)』の指名手配を促している。

このまま王国軍に正体がバレてしまえば、モブとしての平穏な生活が完全に崩壊する。


「……行くしかない、か」


ハイドは深くため息をつき、誰にも見られないようにこっそりと自宅の裏手へ回った。


(王国軍の手が回る前に、あの勘違い盗賊をボコボコにして口を完全封鎖する! ついでにあの幼女を助け出せば、俺の平和は守られるはずだ……!)


決意を胸に、まさにその瞬間だった。

背後から、一切の殺気も気配も持たない「何か」が、ハイドの脳天に向かって振り下ろされた。


ゴガンッ!!!


「……え?」


鈍い衝撃音と共に、ハイドの視界がぐらりと激しく揺れた。


ドサァッ。

ハイドの意識は、理不尽な疑問を残したまま深い闇へと沈んでいった。

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