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第11話 陰の実力者は聖域の中心で、ひたすら勝手な妄想を叫ぶ

辺境の山脈に、地鳴りのような怒号と凄惨な剣戟の音が響き渡った。

『精霊の聖域』の入り口にあたる切り立った峡谷では、地の利を活かす盗賊連合と、怒涛の勢いで押し寄せる王国軍による、血で血を洗う激戦が幕を開けていた。


本来、この天然の要塞に陣取った盗賊連合の目的はただ一つ。自分たちのシマを荒らし回る謎の暗殺者『絶影』をおびき寄せ、地の利と圧倒的な数で袋叩きにすることだった。

しかし、彼らの前に現れたのは、黒ずくめの暗殺者などではなく、白銀の鎧に身を包んだ王国の正規軍――それも、数千規模の大部隊であった。


「おいおいおい! 冗談じゃねえぞ、なんで王国軍の、しかも精鋭部隊がこんな辺境にいやがるんだ!?」


「『絶影』の野郎をハメるための罠だったはずだろ!? なんで俺たちが正規軍に完全包囲されてんだよ!」


「クソッ、聖女の旗まで見えやがる! 王都の連中、本気で俺たちを潰しに来たのか!?」


予想外の事態に、盗賊連合の幹部たちはパニックに陥った。まさか自分たちが『絶影』を誘い出すために陣取った『精霊の聖域』が、王国にとって絶対に死守せねばならない機密エリアだとは夢にも思わなかったのだ。

しかし、相手が正規軍であろうと、ここで退けば全滅は免れない。


「怯むな! 相手が王国軍だろうが聖女だろうが関係ねえ! ここで俺たちの力を見せつけ、裏社会の頂点に立つんだ!」


一方、王国軍の陣営も必死だった。

騎士団長が剣を振りかざすと、数千の重装歩兵が雪崩を打って突撃する。


「神聖なる地を穢す愚か者どもめ! 聖女様の御名の下に、一人残らず浄化してやれ!」


その後方からは、高位の魔術師団が空を焦がすほどの豪炎や氷弾を放ち、盗賊たちの防衛陣地を次々と吹き飛ばしていった。王国軍の戦意は、異常なまでに高かった。なぜなら彼ら上層部には、「ここで盗賊どもを跡形もなく消し去り、聖域を完全封鎖しなければ、聖女が偽物であることが露見し王国が崩壊する」という、切実かつ絶望的なプレッシャーが叩き込まれていたからだ。


天然の要塞を完全に掌握している盗賊たちは、崖上からの巨大な落石や毒矢の雨、あらかじめ仕掛けておいた凶悪な罠を駆使して王国軍を翻弄する。

光と闇、それぞれの「決して口には出せない裏の事情」が交錯する戦場は、凄惨を極める泥沼の消耗戦へと発展していった。


だが、その血みどろの激戦の裏で、一人の少年が誰にも知られることなく聖域の奥深くへと足を踏み入れていた。

漆黒のコートに身を包んだ少年――ハイドである。


「なるほど、正面はドンパチ大騒ぎってわけか。ご苦労さま」


ハイドは、遥か下方の峡谷で繰り広げられる大軍勢の激突を崖の上から見下ろし、余裕の笑みを浮かべて口角を吊り上げた。


(いくら盗賊が群がっているからってこんな何もない辺境の村の近くに、王国が討伐の為に軍を率いてくるなんて明らかにおかしい。きっと、何かとんでもない『秘密』がこの近くに隠されているに違いない……!)


ハイドの脳内設定は、ここから見事なまでの飛躍を見せた。


(王国が隠したい真実……それは間違いなく、この『精霊の聖域』に眠る伝説のアーティファクトか、あるいは世界を滅ぼす魔獣の封印だ! そして盗賊連合は、その力を手に入れようとする邪悪な秘密結社・末端組織に違いない!)


崖の上で一人、バサァッ!と無駄にマントを翻し、ハイドはご満悦だった


完全に自分の世界に入り込んでいるハイドは、激戦地を迂回し、誰よりも早く聖域の最深部――遺跡の中枢へと密かに忍び込んでいった。


一方、激戦が続く最前線から少し離れた王国軍の後方陣地。

豪華な馬車の中で、シルヴィはひたすらに祈りを捧げていた。外からは絶え間なく爆発音や兵士たちの悲鳴が聞こえてくる。地の利を得た盗賊たちの抵抗は予想以上に激しく、王国軍にも多数の負傷者が出始めていたのだ。


(私が行かなきゃ……!)


母のような癒やしの力はない。聖なる奇跡も使えない。だが、彼女には一つだけ当てがあった。この『精霊の聖域』の最奥に眠るという、伝説の『聖杖』の存在だ。王国のおとぎ話では、清らかな心を持つ者がその杖に祈りを捧げれば、奇跡の光が溢れて傷ついた人々を癒やすとされている。


(あの杖さえあれば……才能のない私にも、皆を助けられるかもしれない!)


周囲の神官たちが戦況確認のために馬車から離れたその一瞬の隙を突き、シルヴィは小さな身体を滑り込ませるようにして陣地を抜け出した。

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