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「石ころ令嬢」と捨てられた私、宵闇公爵の工房で王国唯一の鑑定眼として溺愛されています 〜妹の"光る鑑定"は偽物ですわよ〜  作者: 西園寺ミオ


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第7話:競売目録の、ありえない石

 王都競売会は、年に四度、迎賓館の大広間で開かれる。


 貴族、豪商、各国の買付人。ざっと三百の椅子が埋まり、壇上には天鵞絨張りの陳列台。競売人の小槌が鳴るたび、金貨の山がひとつ、持ち主を変える。


 夜天商会の席は、壇に近い右翼の一画だった。


「百二十点のうち、うちが狙うのは十一点。目録に印をつけてある。値の上限はベンノと詰めた——お前は、品の真贋だけを視ろ」


「承知いたしましたわ」


 ルキウスの指示は簡潔で、的確で、そして役割をはっきり信じていた。値踏みは商人の仕事。真贋は鑑定士の仕事。


(さて。……それにしても)


 ノエリアの視線は、何度も目録の同じ頁に戻ってしまう。


 出品番号一〇八番。『暁の紅玉』。大粒、無処理、来歴——「東方の旧家所蔵」。


(来歴が、雑ですわ)


 雑、というのが正確だった。百二十点のほかの品は、どれも来歴が事細かに書いてある。誰の旧蔵で、いつの売立で、どの工房が研磨したか。それがこの目玉商品に限って、「東方の旧家」。名前のない旧家など、来歴ではなくただの言い訳だ。


 そして母のノートの、あの頁。


 ——暁の紅玉。七耀の冠の第一席。陽の出の色。


 七耀の冠、が何を指すのか、母はそれ以上書いていない。けれど「第一席」という言い方は、単独の宝石にはしない。あれは、組み物の言葉だ。


「考え事か」


「……ええ。母のノートの言葉が、引っかかっておりますの。確かめたいのですけれど、確かめる方法が、ひとつしかありませんわ」


「言ってみろ」


「一〇八番が壇に上がったとき——この眼で、視ることですわ」


   *


 競売は、つつがなく進んだ。


 ノエリアの仕事ぶりは、初陣にして完璧だった。夜天商会が狙った十一点のうち、二点に彼女は首を横に振った。一点は合わせ石、一点は熱処理の申告漏れ。ルキウスは眉ひとつ動かさず、その二点から手を引いた。


 後刻、その二点を競り落とした他家の検分で騒ぎが起きることになるのだが、それはまた別のお話。


「——さあ、皆さまお待ちかね。出品番号一〇八番!」


 競売人の声が、一段高くなった。


 天鵞絨の台に載って現れたのは、鳩の卵ほどの紅玉だった。会場のあちこちから、感嘆の溜め息が漏れる。深い、深い赤。灯りを受けて、薔薇の芯のような光が揺れた。


(…………)


 ノエリアは、目を細めた。


 遠い。壇までは二十歩はある。この距離では、視きれない。けれど——胸の奥が、ざわりとした。あの光の揺れ方は、どこか、作法を間違えている。


「本品の鑑定保証は、王都が誇るグランツ商会! 保証人、ペルラ・グランツ嬢です!」


 拍手の中、ペルラが壇に上がった。昨夜とおなじ、光をぜんぶ味方につけた笑顔で。


「皆さま、ごきげんよう」


 ペルラは紅玉を手袋の指でつまみ、高々と、シャンデリアに翳した。


 ——ぱあ、と。


 七色の光が、ほとばしる。三百の客席が、どよめいた。


「ご覧の通りですわ。曇りなき大粒の紅玉。火も人の手も入っていない、天然のままの——」


 ペルラは、艶やかに微笑んだ。


「グランツ商会の名において、本物と保証いたしますわ」


 拍手喝采。競売人が値を読み上げ始める。金貨千枚から。千二百。千五百——値は、瞬く間に駆け上がっていく。


 その喧噪の中で。


 ノエリアは、隣の席へ、静かに囁いた。


「公爵様。一〇八番に、札を」


「……買うのか。お前の眼は、まだ視きれていないはずだが」


「ええ。ですから——手元で視るために、競り落としてくださいまし」


 ルキウスは、二秒、彼女の目を見た。


 雨の夜とおなじ、答え合わせをする目だった。


「面白い」


 彼は、涼しい顔で札を上げた。


「——金貨三千」


 会場が、一斉に振り返った。それまでの競り値を一息に倍へ吹き飛ばす、宵闇の宝石公の一声。競売人の小槌が、震えながら三度鳴る。


「お、落札——! 一〇八番、『暁の紅玉』、夜天商会!」


 壇上のペルラの笑顔が、ほんの一瞬、強張った。


 保証人席から、姉の席が見えたのだろう。ノエリアは、妹に向かって、にっこりと会釈をした。


(あなたが保証なさった石。——姉が、ゆっくり拝見いたしますわね)


鑑定士の喧嘩は、舌ではなく石でいたしますの。

金貨三千枚は、公爵さまなりの「眼への投資」ですわ。次回、落札した紅玉をノエリアの眼が間近で視ます。光る偽物と、黙る本物の、公開対決ですわよ。【ブックマーク】と【☆評価】を!


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