第60話:四つ目の刻の色、審問の卓に
「物証に語らせますわ」
ノエリアはまず共鳴札を掲げた。
「ペルラは申しましたわ。会頭さんが『共鳴で心臓を煽れ』と命じたのを、聞いた、と。——その共鳴札がこれですの。裏にガレオン工房の銘。妹の証言はこの札の存在そのものと寸分違わず、噛み合いますわ。妹が聞いてもいない札の使い方を、なぜ、正確に語れますの? 現場にいたからですわ」
次に帳簿を開いた。
「ペルラは魔具が貸し物で借金で縛られていたと、申しましたわ。——その借金の証文が、この帳簿のこの頁。日付も、額も、妹の証言と一致いたしますの。作り話で二十年分の帳簿と日付まで合わせられまして?」
妹の言葉の一つひとつに物証が、寄り添っていく。ペルラの証言は、もう「かつて姉を陥れた女の作り話」では、なかった。物証に鎧われた、動かぬ事実になっていた。
*
「けれど、会頭さん」
ノエリアは被告席へ向き直った。
「あなたはまだこうおっしゃいますわね。『すべては上からの指示。自分は運び屋にすぎない』と。——では最後にもう一点。あなたが、上の方にも内緒で後生大事に隠していた、たった一つの石のことを、伺いますわ」
ドラートの剝がれかけた仮面が、凍りついた。
「口封じに放った手の者が、白状いたしましたのよ」
ノエリアは、告げた。
「あなたが、金庫とは別に、自分だけの隠し場所に、一点の真作を隠していた、と。上の方に納めるべき真作を、一つだけ、着服して、隠していた。——なぜ? 決まっておりますわ。いざというとき、上の方を脅すための保険。あなたは運び屋のふりをして、その実、上の方の首を絞める切り札を、握っておりましたの」
護衛が布に包んだその一点を卓に運んだ。ノエリアが布をそっと解く。現れたのは、澄んだ黄金の光を放つ石。朝の陽のような、けれど、まばたきをする、角度で翳る、本物の光。
「七耀の大宝冠、第二席——『朝の黄玉』。四つ目の散逸した真作ですわ」
*
傍聴席が、どよめいた。王国の象徴の主石がまた一つ、会頭の隠し場所から、現れた。ノエリアはその黄玉を両手で包み、来歴を視た。
「……この石は語りますわ。二十年前、大修復の際にすり替えられ、会頭さんの手を経ましたの。そして——」
彼女の眼が、細くなった。石の記憶のいちばん奥を辿る。
「この石を隠し場所に運び、幾度も手に取り、眺めた者の気配が染みておりますわ。上の方への上納を惜しんで。いざというときの脅しの切り札として。——その手つきは命じられて、渋々運ぶ、運び屋のものでは、ございませんの。自分の意志で企み、着服し、保険にする——『頭』の、手つきですわ」
彼女は、顔を上げた。
「運び屋は着服いたしませんわ、会頭さん。着服して、上を脅す保険にするのは、自分もまた、企みの当事者だと知っている者だけですのよ。——あなたは知っていて、やりましたの。すべて」
*
妹の証言と四つの物証が、一点で交わった。
眼が、来歴を視た。数字が、それを裏づけた。妹の声が、故意を明かした。そして、現物の真作が、会頭自身の企みを証した。ばらばらだった四つの証が、ひとつの揺るがぬ事実へと結び合わさった。
ドラートの慇懃な仮面は——完全に、剝がれ落ちた。
「……小娘が」
彼の口から、地の底のような呻きが漏れた。にこにこと笑っていた蜘蛛は、もう笑えなかった。自分の張った糸のすべてを、一本残らず、この娘の眼に手繰り解かれて。
「石は、嘘をつきませんの」
ノエリアは告げた。
「木も、鋼も、帳面も。——そして、あなたが、いちばん大事に隠した、その保険の一つが、あなたをいちばん深く、裏切りましたわ。会頭さん」
黄金の光が、審問の卓の上で静かにまばたきをしていた。
保険というのは、相手を信じていない証ですのよ。心から仕えている方は、上役を脅す道具など持ちませんもの。……あの一点を隠した時点で、運び屋ではないとご自分で名乗っておられましたわ。
石は、持ち主の手つきまで覚えておりますの。渋々運ぶ手と、こっそり眺める手は、まるで別の跡を残しますのよ。
次回、いよいよ断罪。値をつけるのは、いつも見ている方ですのよ。【ブックマーク】と【☆評価】で、どうぞ。




