第59話:借り物ではない、わたしの声で
ペルラ・グランツが、証言台に立った。
かつて、社交界の花だった娘。七色に輝く魔具を掲げ、観衆を熱狂させた「光る鑑定」の寵児。その面影はもうなかった。痩せた頬、質素な身なり。けれど——魔具のまばたきしない偽りの光ではなく、彼女自身の目に震えながらも、確かな光が、宿っていた。
傍聴席が、ざわめいた。
「あれは、グランツ商会の……」
「姉を陥れて、後継になった妹だろう」
「よくもこの場に面を出せたものだ」
後ろ指の囁きが、彼女の背に刺さる。ペルラは一瞬、うつむいた。けれど、証言台の縁を白くなるほど握りしめて、顔を上げた。
*
「……あたしは」
声が、震えていた。けれど、彼女は続けた。
「あたしは皆さまがおっしゃる通りの女です。姉を——ノエリアお姉さまを、公開の場で嘲笑って、実績を横取りして、商会の後継の座を奪いました。『石ころ令嬢』と、いちばん大きな声で笑ったのはあたしです」
広間が、静まった。誰も、予想しなかった。証人がまず自分の罪を告白するとは。
「あたしの『光る鑑定』は、嘘でした。あたしには石を視る眼なんて、ありません。会頭が——ドラートが、貸してくれた、共鳴の魔具。石に翳せば、質に関わらず、七色に光る。ただの飾りです。あたしはその光の陰に隠れて、空っぽの自分をごまかしていました」
ペルラは震える手で証言を続けた。
「魔具は貸し物でした。あたしと実家はその魔具の借金であの人に縛られていました。光り続ける限り、看板でいられる。光が消えれば、証文を盾に捨てられる。……あたしはこわくて。ずっと光にしがみついて。姉さまを踏み台にして」
*
ノエリアは、証言台の妹を静かに見守っていた。
物証で鎧いながら。ペルラが「魔具は、こう光った」と語れば、ノエリアが、押収した札を実演して見せる。均一なまばたきしない偽りの光。「借金の証文があった」と語れば、押収帳簿のその頁を卓に開く。妹の言葉の一つひとつを物証が真だと証していく。
ペルラの声は、独りでは、なかった。姉の眼と皆の証が、その言葉を守っていた。
「そして——」
ペルラはいちばん言いにくいことを言うために大きく息を吸った。
「あたしは商会を出て、行くところがなくて、あの人の——ドラートの、東の倉庫街に身を寄せました。そこで聞いたんです。あの人が部下に命じているのを。『宵闇の宝石公の心臓を砕け』と。『共鳴で外から煽れば、あの石は暴走する』と。あの人は、知っていました。全部、知っていて、命じていました。運び屋なんかじゃ、ありません。あの人が頭でした」
被告席のドラートの、にこにこ顔が、剝がれ落ちていく。
ペルラは証言台から、まっすぐに姉を見た。二人の視線が、法廷の真ん中で交わった。断罪の夜会で引き裂かれた、姉と妹の視線が。
「姉さまの石は、いつも、黙ったままでした」
彼女の声が、震えた。けれど、折れなかった。
「でも、いちばん正直でした。あたしの光はいつも嘘でした。……だから、今日は。借り物の光じゃなくて。あたしの本当の声で真実を話します。それがあたしにできる、たった一つの償いだから」
傍聴席の後ろ指は、いつのまにか止んでいた。かつて姉を陥れた女が、世間の嘲りを引き受けてなお、真実を語る、その姿に。誰もが言葉を失っていた。
*
「——茶番だ!」
沈黙を破ったのは、ドラートの怒声だった。慇懃な仮面をかなぐり捨てた、地の声。
「その女は、借金で首が回らん。夜天商会に金で買われて、口裏を合わせているだけだ! かつて姉を売った女の言うことなど、誰が信じる! これは金目当ての作り話だ!」
彼は、証言台のペルラを指さして、吼えた。証人の人格を崩しにかかる。予想通りの最後の足掻き。
ペルラの肩が、びくりと震えた。金、と言われて。かつての自分のいちばん弱いところを、突かれて。
けれど。
「……作り話か、どうかは」
ノエリアが進み出た。妹を庇うように、その一歩、前へ。
「妹の言葉ではなく、物証に語らせますわ、会頭さん。——あなたが、それをいちばん恐れていらっしゃるものに」
自分の罪から先に話す。あれは、いちばん強い証言の作法ですのよ。隠すところが無くなれば、突き崩す取っ掛かりも無くなりますもの。……あの子は誰に教わるでもなく、それを選びましたわ。
後ろ指というのは、止むときは音もなく止みますのね。誰も詫びませんし、誰も認めません。ただ、ふっと止むだけ。……それでも、止んだのですわ。
次回、四つ目の刻の色が審問の卓に。お立ち会いに【ブックマーク】と【☆評価】を。




