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「石ころ令嬢」と捨てられた私、宵闇公爵の工房で王国唯一の鑑定眼として溺愛されています 〜妹の"光る鑑定"は偽物ですわよ〜  作者: 西園寺ミオ


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第13話:すり替えられた課題石

 最終日の課題は、二部構成だった。


 午前は「個別鑑定」。前夜のうちに各候補へ封印箱で渡された課題石を、書面で鑑定する。午後は「公開鑑定」。同じ品を両候補が衆目の前で鑑定し、審査員が突き合わせる。


 ノエリアの控え室に、封印箱が届いたのは前夜のことだ。中身は、上質な翠玉がひとつ。彼女は夜のうちに検分を済ませ、所見を頭に収めて休んだ。


 ——そして、朝。


 開封の立ち会いに来た進行役の前で、もう一度箱を開けたノエリアは、三秒、黙った。


(……あらあら。まあまあ)


 箱の中の翠玉は、昨夜と同じ大きさで、同じ色で、同じ台紙に載っていた。


 別の石だった。


 昨夜の子は、左の肩に絹糸の筋を三本抱えた、おっとりした子だった。今朝の子は、筋のない、つるりと澄んだ——澄みすぎた子だ。封印の紐も蝋も、見事に復元されている。玄人の仕事だ。


 ここで「石がすり替えられています」と騒げばどうなるか。


 証拠はない。封印は無傷。騒げば「負けを悟った言い訳」と書き立てられ、試験は失格か、よくて没収試合。——つまりこれは、騒がせるための罠だ。


 ノエリアは、騒がなかった。


「確認いたしましたわ。では、所見をしたためます」


 にっこり笑って、机に向かった。


   *


 午前の書面審査。読み上げ役が、まずグランツ商会の所見を読む。光った、本物、価値は金貨いくら——いつも通りの華やかな断定。


「続いて、夜天商会の所見」


 読み上げ役は、紙に目を落とし——眉を寄せた。


「……読み上げます。『本鑑定書は、二点の石について記す』」


 講堂が、ざわりとした。課題石は、一点のはずだ。


「『第一の石。昨夜、封印箱にて受領した翠玉。中程度の内包物——絹糸状の筋三条を左肩に抱く天然石。南方鉱山産。研磨は王都、二十年内の仕事。良品』」


「『第二の石。今朝、同じ封印箱より現れた翠玉。内包物なし。比重わずかに軽く、窯の中で急いで生まれた合成石。研磨の角度は第一の石を模倣しているが、刃の癖が異なる。別人の手』」


 読み上げ役の声が、上ずった。


「『——結論。何者かが夜間、封印を解いて課題石を合成石とすり替え、封印を復元した。よって本鑑定書は、二点併記とする。なお、すり替えの実行者は左利き。封蝋の復元時、刻印を押す向きが、ごくわずかに左へ傾いている。原蝋は右利きの傾きであった』」


「『石は、すり替えられても、嘘をつきませんの』——以上」


 満場が、凍りつき——それから、爆ぜた。


 すり替え。不正。誰が。讒言だ。いや封蝋の傾きを見ろ。怒号と歓声が入り混じる中、審査員席のエルネストが立ち上がり、自ら封印箱と二枚の蝋を検めた。


 長い検分ののち、彼は宣した。


「……封蝋の傾き、所見の通り。両者は別人の捺印である。本件、不正行為として正式に調査する。なお——」


 彼は、ちらりとノエリアを見た。


「——夜天商会の鑑定士は、すり替えられた事実そのものを鑑定対象とした。前例はないが、減点する理由が、私には見つからない」


   *


 昼の休廷。控え室に、ルキウスが入ってきた。


 表情は、いつもの彫像だった。けれどノエリアにはもう分かる。今日の彫像は、温度が低い。氷点よりずっと下の、静かな静かな怒り。


「実行者の目星がついた。鑑定院の夜警の一人が、今朝から姿を消している。——昨夜、裏門で大柄の従者と会っていたのを、うちの者が見ていた」


「うちの者、ですの?」


「初日の夜から、院の周りに人を置いていた。……敵が予告までした勝負だ。盤の外を疑うのが、商人の作法でな」


(まあ。……過保護な作法ですこと)


「従者の足取りは、東の倉庫街で消えた。倉庫の借り主は、いくつも会社を挟んでいるが——元を辿れば、おそらく」


「ガレオン商会」


 ルキウスは、頷きも否定もしなかった。代わりに、低く言った。


「証拠はまだ、ない。だから泳がせる。……ノエリア。午後の公開鑑定、相手は追い詰められた。追い詰められた者は、次の手を選ばん。出るな、とは言わん雇用主だが——」


「ええ」


 ノエリアは、白手袋を、ぱちりと嵌め直した。


「視えたものは、すべて視ます。それがわたくしのお仕事ですもの」


 午後の鐘が、鳴った。


 公開鑑定の品が、布をかけられて、講堂の中央に運び込まれてくる。進行役が、緊張した声で告げた。


「最終課題、公開鑑定。品は——王室より特別に貸し出された、先々代王太后陛下の遺愛のブローチである」


すり替えられた朝の、淑女の正しい騒ぎ方。——鑑定書で、ですわ。

そして午後の品は、よりにもよって王太后さまのご遺愛。光る鑑定がそれに触れたとき、何が起きますことやら。次回、妹の楽屋を覗いてまいります。【ブックマーク】と【☆評価】を!


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