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「石ころ令嬢」と捨てられた私、宵闇公爵の工房で王国唯一の鑑定眼として溺愛されています 〜妹の"光る鑑定"は偽物ですわよ〜  作者: 西園寺ミオ


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第12話:光る方が、勝つ世界

 試験二日目の朝、王都の新聞は二色に割れていた。


 曰く、『初日の点は夜天商会に軍配』。

 曰く、『されど華は断然グランツの妹君。あの光こそ新時代の鑑定』。


 点で勝って、評判で負ける。ミルカは朝から新聞を握りつぶしていた。


「なんでですか! 十点満点と八点ですよ!? なのにどうして街の人は『でも光ったほうがすごい』って……!」


「ふふ。分かりやすいからですわ」


 ノエリアは、出かけの支度をしながら答えた。


「わたくしの鑑定は、覗き込んで、説明を聞いて、ようやく頷けるもの。ペルラの鑑定は、十歩離れた席から、ひと目で『分かった気』になれるもの。——見世物としては、勝負になりませんの」


「で、でも、鑑定は見世物じゃありません!」


「ええ。ですから——見世物の土俵で、見世物に勝つ必要はありませんのよ」


 光らせるのは細工師の仕事。視るのが鑑定士の仕事。ベンノの言葉を、胸の中でもう一度磨く。


   *


 第二課題、来歴。


 出題されたのは、一振りの古い髪飾りだった。銀地に、小粒の真珠と青玉。古びてはいるが、品のいい仕事。


「本品について、判明する限りの履歴を述べよ。制限時間、二刻」


 先攻は、ペルラだった。


 彼女は髪飾りを高く翳した。ぱあ、と光。客席はもう、それだけで拍手の構えだ。


「真珠も青玉も、本物ですわ! 銀の質も上等。これほどの品ですもの、さぞ高貴な姫君の持ち物だったのでしょうね。状態も良く、お値段は——金貨五十、というところかしら!」


 歓声。指笛。ペルラはたっぷりと礼をして、満足げに席へ戻る。


 来歴の課題で、彼女が語ったのは、品質と値段だけだった。


「——では、夜天商会」


 ノエリアは、髪飾りに挨拶をして、白手袋をぱちりと嵌めた。


 ルーペ。針。光源。布。それから、長い長い沈黙。客席が退屈し始めた頃、彼女はようやく口を開いた。


「銀の打ち出しは、およそ六十年前。南部地方の様式ですわ。蝶番の磨耗の片寄りから、持ち主は髪の左側に挿す癖がおあり——左利きか、あるいは右半身に古いお怪我を」


 講堂が、すこし静かになる。


「真珠は七粒。うち二粒だけ、艶の年齢が若うございます。後年の修理ですわ。修理の銀蝋は安物——つまりこの品は途中から、裕福ではないお家で、それでも手放されずに直されながら、使われ続けましたの」


 彼女は、髪飾りの裏の、針の留め金を示した。


「留め金だけ、真鍮の素人仕事。工房ではなく、ご家庭で、手先の器用などなたかが直したもの。……六十年、三つの世代を渡った品と拝見いたします。最初は南部の裕福な家の婚礼支度。次に、家運が傾いてからも捨てられなかった形見。最後に——おそらくお孫さんの代に、思い出ごと、大切に」


 ノエリアは顔を上げ、審査員席へ向き直った。


「市場価格は、金貨三十。……ですが来歴の価値は、値札の外にございますわ。以上ですの」


 拍手は、まばらだった。光らなかったからだ。


 けれど審査員席の中央で、エルネストが妙な顔をして手元の封筒を見つめていた。彼は進行役を手招きし、二言三言。進行役が、咳払いして告げた。


「……本品の来歴を、出品者の記録より開示する。『南部バーデン地方の旧家の婚礼髪飾り。製作、六十二年前。修理歴二回、うち一回は家人の手によるもの。当代の持ち主は三代目に当たる老婦人。亡き祖母は、右肩に古傷があった』——」


 講堂が、ざわ、と揺れた。


「——以上、夜天商会の所見と、ほぼ完全に一致する」


 今度の拍手は、まばらではなかった。


   *


 しかし、勝負の世間は甘くない。


 夕刊の見出しは、こうだった。


 『地味な正解と、華やかな八割。あなたはどちらに王冠を託す?』


 工房に帰ると、ベンノが珍しく葡萄酒を開けていた。職人たちが、めいめいに杯を掲げる。


「お嬢! よくぞ言った、『来歴の価値は値札の外』! あれでこそ鑑定だ!」


「皆さま、気が早うございますわ。点はまだ並びかけ。それに最終課題は明日——」


 と、工房の入り口で、ミルカが頓狂な声を上げた。


「ノ、ノエリアさまっ! 大変です、あの、グランツ商会が……!」


 駆け込んできたのは、出入りの小間物屋だった。曰く——グランツ商会が今日、商会の総力を挙げて触れ回っている。


 明日の最終課題で、ペルラお嬢様は「王家ゆかりの至宝」を鑑定する。その場で、姉君の鑑定がいかに時代遅れの手品であるかも、白日の下に晒される——と。


「手品、ですって……! 言うに事欠いて!」


「あらあら」


 ノエリアは、杯を置いた。


(……仕掛けて、きますわね)


 予告つきの勝利宣言。あれは自信の表れではない。結果を知っている者の口ぶりだ。


 窓の外、王都の夜空に、星はまばらだった。代わりに、街のどこかで、まばたきをしない光が、今夜も誰かの石を「本物」に変えているのだろう。


光る八割と、黙る満点。世間さまは、なかなか手強うございますわ。

そして敵陣から、予告つきの勝利宣言。……最終課題で、何かが仕掛けられますわね。次回「すり替えられた課題石」。【ブックマーク】と【☆評価】で応援くださいまし!


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