第11話「逆条件」
残り、六十秒。
闇。
呼吸がうるさい。
心臓が、やけに速い。
「……証明してみろ。」
自分の声が、まだ残っている。
黒崎は、動かない。
完全に、止まっている。
「残り、五十秒。」
少年の声。
——違和感。
そのとき、初めて気づいた。
「……なあ。」
小さく呟く。
「お前さ。」
少年に向けて。
「ずっと“数えてる”よな。」
沈黙。
「当たり前です。」
「これは実験ですから。」
「じゃあさ。」
一歩、踏み出す。
「条件、ちゃんと守ってるか?」
間。
「……どういう意味ですか。」
「“誰か一人を排除”って言ったよな。」
「はい。」
「“誰か”って、誰だ?」
沈黙。
美咲が、息を呑むのが分かる。
「対象は、観察対象に限ります。」
少年が答える。
「じゃあさ。」
もう一歩、前に出る。
「お前は違うのか?」
空気が、止まる。
「……私は観察者です。」
「対象ではありません。」
「誰が決めた?」
即答。
少年の声が、わずかに遅れる。
「……実験設計者です。」
「それ、お前だろ。」
沈黙。
「ルール作ったやつが、自分だけ安全圏ってさ。」
「それ、実験として成立してんのか?」
「……」
「“人間の条件”を見たいんだろ?」
「だったら——」
一歩。
さらに距離を詰める。
「お前も“人間”として、入れよ。」
完全な沈黙。
少年が、初めて言葉を失う。
「残り、三十秒。」
だが、その声。
わずかに、揺れている。
「……面白いですね。」
少年が、静かに言う。
「しかし、それはルール違反です。」
「違反?」
笑う。
「じゃあ聞くけどさ。」
「今の状況、“公平”か?」
「……」
「見えない。」
「時間制限。」
「強制選択。」
「全部、お前が有利な条件だろ。」
沈黙。
「それで得たデータってさ。」
「本当に“人間”か?」
その瞬間。
空気が、変わった。
カチッ。
どこかで音。
「……条件、再定義。」
少年の声。
今度は、はっきりと変化している。
「観察者も、対象に含めます。」
美咲が、息を呑む。
「マジで……?」
「残り、二十秒。」
その瞬間。
空間の気配が変わる。
——“いる”。
今までとは違う。
もっと、静かで。
もっと、冷たい。
「……来た。」
直感。
次の瞬間。
少年の姿が——
“見えた”。
闇の中なのに。
輪郭だけが、浮かび上がる。
「……可視化された?」
美咲の声。
「はい。」
少年。
「これで、平等です。」
その瞬間。
黒崎が、動いた。
今度は、明確に。
少年へ向かって。
「……そう来るか。」
私は、息を吐く。
残り、十秒。
三つ巴。
黒崎。
少年。
そして、俺たち。
「選べ。」
少年が言う。
「誰を排除するか。」
私は——
ナイフを握り直す。
そして。
「決まってるだろ。」
一歩、踏み込んだ。
狙いは——
観察者。
残り、五秒。




