表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/13

第9話「盲域」


闇。

 

完全な、闇。

 

視界が、消えた。

 

「……っ、ライト!」

黒崎の声。

だが、反応はない。

 

カチカチ、と何かを押す音だけが虚しく響く。

 

「点かない……!」

 

 

静寂。

 

 

呼吸の音だけが、やけに大きい。

 

 

「……ねえ。」

 

美咲の声。

 

すぐ近く。

 

「今の、聞いた?」

 

 

——助けて。

 

 

あの声。

 

 

忘れるはずがない。

 

 

「……あれは」

 

言いかけて、止まる。

 

 

違和感。

 

 

近すぎる。

 

 

「あのときは……もっと遠くから——」

 

 

「やめて。」

 

美咲が遮る。

 

 

「思い出させないで。」

 

 

その声が。

 

 

少しだけ、震えている。

 

 

 

ドンッ。

 

 

どこかで、何かがぶつかる音。

 

 

黒崎だ。

 

 

「チッ……どこだ……!」

 

 

手探りで動いている。

 

 

 

「動かない方がいいです。」

 

 

少年の声。

 

 

闇の中で、はっきりと聞こえる。

 

 

「視覚が遮断された状態では、人間は——」

 

 

「うるせえ!!」

 

 

黒崎が怒鳴る。

 

 

その瞬間。

 

 

ガッ!!

 

 

鈍い音。

 

 

「ぐっ……!」

 

 

息が詰まる音。

 

 

 

「黒崎!?」

 

 

反応はない。

 

 

代わりに。

 

 

ズルッ……

 

 

何かが引きずられる音。

 

 

 

「……ねえ。」

 

 

今度は、耳元。

 

 

美咲の声。

 

 

「今の……黒崎だよね?」

 

 

私は答えない。

 

 

答えられない。

 

 

 

そのとき。

 

 

 

——カツン。

 

 

 

すぐ後ろで、足音。

 

 

振り向く。

 

 

見えない。

 

 

だが。

 

 

“いる”。

 

 

 

「……誰だ。」

 

 

声が、かすれる。

 

 

 

返事はない。

 

 

 

代わりに。

 

 

 

スッ……

 

 

 

何かが、肩に触れた。

 

 

 

冷たい。

 

 

 

人の手じゃない。

 

 

 

反射的に振り払う。

 

 

 

空を切る。

 

 

 

いない。

 

 

 

「……ふざけんな……」

 

 

呼吸が乱れる。

 

 

 

そのとき。

 

 

 

パッ。

 

 

 

一瞬だけ、光が点いた。

 

 

 

部屋の隅。

 

 

 

青いランプ。

 

 

 

その一瞬で——見えた。

 

 

 

 

立っている。

 

 

 

黒崎が。

 

 

 

壁際に。

 

 

 

 

だが。

 

 

 

様子がおかしい。

 

 

 

動かない。

 

 

 

顔が、こちらを向いている。

 

 

 

 

目が。

 

 

 

 

合っているのに。

 

 

 

 

“中身がない”。

 

 

 

 

パチン。

 

 

 

光が消える。

 

 

 

 

闇が戻る。

 

 

 

 

「……今の、見た?」

 

 

美咲の声。

 

 

今度は、少し遠い。

 

 

 

「黒崎……」

 

 

 

そのとき。

 

 

 

「違います。」

 

 

少年の声。

 

 

 

「それはもう、“黒崎ではない”。」

 

 

 

凍る。

 

 

 

「……何をした。」

 

 

 

「何も。」

 

 

 

淡々とした声。

 

 

 

「彼は条件を満たしただけです。」

 

 

 

 

カツン。

 

 

 

足音。

 

 

 

今度は、はっきりと。

 

 

 

こちらに向かってくる。

 

 

 

一歩。

 

 

 

また一歩。

 

 

 

 

「……来る。」

 

 

 

ナイフを握る。

 

 

 

だが、見えない。

 

 

 

タイミングが分からない。

 

 

 

 

「人は、見えないものに最も弱い。」

 

 

少年の声。

 

 

 

「だから、補完する。」

 

 

 

「自分の中の“恐怖”で。」

 

 

 

 

次の瞬間。

 

 

 

——いた。

 

 

 

目の前。

 

 

 

黒崎。

 

 

 

いや。

 

 

 

“それ”。

 

 

 

 

ナイフを振る。

 

 

 

手応え。

 

 

 

だが。

 

 

 

止まらない。

 

 

 

 

「——ッ!!」

 

 

 

掴まれる。

 

 

 

腕。

 

 

 

異常な力。

 

 

 

 

そのとき。

 

 

 

「離せ!!」

 

 

 

美咲の声。

 

 

 

横から衝撃。

 

 

 

体が解放される。

 

 

 

 

二人で距離を取る。

 

 

 

 

「……ねえ。」

 

 

 

美咲が言う。

 

 

 

息が荒い。

 

 

 

 

「これさ。」

 

 

 

 

一瞬、間。

 

 

 

 

「本当に、“黒崎”なの?」

 

 

 

 

沈黙。

 

 

 

 

答えられない。

 

 

 

 

そのとき。

 

 

 

 

少年が、初めて少しだけ笑った。

 

 

 

 

「いい質問です。」

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

こう言った。

 

 

 

 

「では、追加します。」

 

 

カチッ。

 

 

 

どこかで、またスイッチの音。

 

 

 

 

「次の条件です。」

 

 

 

 

闇の中。

 

 

 

 

少年の声だけが、鮮明に響く。

 

 

 

 

「“誰か一人を、排除してください。”」

 

 

 

 

空気が止まる。

 

 

 

 

「制限時間は、五分。」

 

 

 

 

「できなければ——」

 

 

 

 

一拍。

 

 

 

 

「全員、失格です。」

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ