#87 勝者と敗者の狭間
長い夜が明ける。
新世界への布石。
◆
「こ、小林?!」
絵里の名前を言った瞬間、閃光が奔った。
あまりの眩しさに目を閉じた。
収まって、開けると。
「小林主任??」
立ち上がりたかったが、立てない。
五十嵐は立ち上がり、辺りを見渡していた。
「小林サン?!」
ぷっはー~~。
「居ねぇよ、阿保んだらが」
険しい顔で煙草を吸う。
江頭がそう吐き捨てた。
煙と一緒に。
地面に腰を下ろしていた。
「ホイホイ、知った言葉を言うっつ~~のは感心しねぇなァ」
額には、青筋が浮いている。
「誠の名を言われた魔女は、一時的に、力を失う」
凛が言う。
すぅーー…。
「餓鬼が。馬鹿か、お前は」
ぷっは~~!
「何がですか? 父さん」
「あんなァ~~覚えとくんだな」
ギシ!
「手負いの獣ほど、獰猛なんはいないんだぜ? 覚えとけ」
地面に座っていた江頭が立ち上がる。
「くそったれが!」
バッコーーーーーーーーン!
思いっきり、凛の頬を握り拳で殴った。
凛は抵抗する間もなく、五十嵐や入江の座席へと吹っ飛んだ。
「わぁ! とっと‼」
慌てて五十嵐が凛を掴んだ。
「子供を殴って飛ばすのはヤリ過ぎだ!」
「あ~~そいつ、会ったとき俺んこと髪を掴んで引っ張る奴だぞ」
ふぅ、と入江がため息をこぼす。
(何で、おっさん…必死なの?)
「ようもやってくれた。出口」
妾の声が低い。
「アンタの名前も…知ってるぜ」
「!? 人間風情が‼」
「そうだよ? 人間風情だから攻めるときに攻めるんだっつぅ~~の!」
「なぁ、ナギ」
ヴーーーーーーーーン‼
「!? 主様ァーーーーーアアアア‼」
クラリスが叫んだ。
「本当に、厄介だと僕は叫ぶ! デグチィ~~‼」
そして、向かって来る。
「五月蠅いよ。クラリス」
「!? っな!」
驚きの表情のまま、クラリスの姿も消えた。
ゴトンー…ゴトンー…。
「…出口? こ、これは…??」
「消し去ったんだよ、五十嵐チーフ」
「おおおおおお! よくやった! よくやった~~!」
「あ~~ったく! 本当に出口ちゃんはーー…やってくれるぜ」
取り残された江頭が、薄い髪を噛み毟る。
「父さんの負けですね」
「--ああ。んだわな」
素直に、江頭も認めた。
「では《異動住民票の承認》の印をしてくますね?」
「わぁ~~た! わぁ~~たっての‼」
降参のポーズをとった。
◆
そのあと、江頭のおっさんはーー何かを唱えていた。
んで、宙に浮いてた、アレに手を添えていた。
俺にはどうだってよかったんだ。
(小林主任…絵里の奴は、どこに行ったんだ??)
「あの二人にもすぐ会えますよ。心配なさらずにも」
「--勝手に、心か、頭とか読むんじゃあねェ~~よ!」
「申し訳ありません」
「ったく!」
パン!
「おい! …あっと、凛ーー! 移住用紙の完了だぞッッ‼」
ぷっは~~! ぷっは~~‼
ドッすん!
江頭のおっさんは腰を座席に下ろした。
荒く煙草を吸い、噴かした。
「出口ィ~~…巻き込んで、悪かった、な」
顔を赤くさせて、俺に、あのおっさんが謝ってきた。
「いまさら、遅いんじゃあねェの?? ったく!どいつもこいつも!」
そう。
いまさらだ。
きっと、俺の下半身は不随にままだ。
影がーーないからだ。
絵里が持ってったのは、俺の影。
きっと。
もう、戻りはしない。
前の生活にも。
きっとーー戻れないだろう、な。
「ったく!」




