#86 彼女の誠の名
あと少し。
もう少しーー…。
◆
兎の頭を被った少年の正体は。
「私ーいや、ボクは江頭凛だよ。父さん」
因幡真白を偽名とする、江頭保の子供だった。
ガタガター…。
「っつ!」
あの江頭が震えている。
「…出口ちゃん! どぉして言ってくれなかったのよ…」
っずー…っずー…。
肘を使い、椅子の方へと向かっていた、入江が止まる。
「何で、子供のことを教えなかったってこと、か?」
そして、また動き出す。
「なぁ、引っ張ってよ!」
小林と五十嵐に引っ張ってもらい、椅子へと腰かけた。
「教えてって言わなかったし、聞かなかったじゃあないか」
口許を吊り上げ、
「ざまァ、ねェな~~ァ!」
入江は嗤った。
今の持ち札はーー最強に近かった。
今のーー…ところだが。
「その鼻、へし折ってやろうかァ?? 出口ィ~~??」
江頭の眼光が鈍く光った。
「そうですよ、父さん。聞かなかったことが全てでしょう」
「!? 父さん、父さん! 言うんじゃあねぇよ?!」
少し、言いよどむ。
「手前が、あの禿に入り知恵しやがった奴だな??」
「はい。そうですよ、父さん」
「いい加減にしろよ!」
凛が宙に手を添えた。
すると、カードが切られていく。
ポーカーのように。
「ねぇ、父さん。ゲームを始めましょうよ」
「……」
江頭が無言で宙に、そのカードに指を添えた。
「鼻っから、こっちもそんつもりさ。クソ餓鬼が」
「でしょう、ね」
江頭と凛が、身長差があるもーー睨み合う。
笑みも浮かべている。
「でも。その前にーー貴方たちの力を削ぎます」
その言葉に、江頭が身構える。
「出口さん! 名前を! あの魔女の、名前を‼」
江頭が目を大きくさせた。
「止めーー…」
そしてー手を大きく伸ばした。
「エリオット」
◆
『出口さん、この映画の内容は忘れないで下さいよ』
「知るかってんだよ」
『とても、重要な、重要なものですよ』
「だから、知るかってんだよ」
観たくもないのに、観せられた映画。
それは魔女・エリオットの物語。
「…なァ、どうしてこの魔女、主任と同じ顔してんだよ」
入江が目を細めた。
「…なァ、どうしてこの魔女の声、主任と同じなんだよ」
入江が目を閉じた。
「…なァ、どうしてお前の匂いは、おっさんと同じなんだよ」
入江が顔を上げ、少年を見た。
そして、兎の頭に触れた。
カポ。
「それはーもう少し、後のお楽しみってことで」
「お゛、手前は…--」
◆
真っ白な空間に立っていた。
小林と絵里だけが。
「…--絵里ちゃん」
「可愛いりっちゃん」
他の邪魔者は居ない。
「「元々、一人だった」」
二人の声が重なる。
そして、手をーー合わせた。
「どうして、離れたのさ。僕から」
「別々になっちゃったからだよ。りっちゃん」
ギュ!
指を握り合わせる。
「だから、元に戻りたいの」
「…元に何か、戻れるわけがないじゃないか」
「戻れるよ」
パッ!
「もう僕は君なんかじゃない! 小林理生人だ!」
「それは赦さないよ、りっちゃん」
「許すも許さないもない! 僕は僕だ!」
真っ白な空間が、歪んでいく。
「じゃあ、ゲームをしょうじゃない」




